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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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第2の心臓⑤

「ダメですガゼル様、周りの砦は我々が動くよりも早く落とされています」


「報告します! 東のシャルウルと北のゲヘナが本国へと進行を始めたとの事!」


「我々が2万を動かしている。ティメリアには動かせて3000の王都守備隊しか……」


 小さな拳が机が悲鳴をあげる程重い一撃を鳴らすと同時に場が静まり返り、全員の視線がガゼルに集まる。誰も一言も発する事が出来ず、鎧をまとっていない時とは真逆の圧を放つガゼルの言葉を待つ。


「遊んでほしそうな犬の相手をして差しあげたかったのですが、どうやらこの城を放棄して戻るしかなさそうですね」


「ですが! この城に兵を残して……」


「帰投準備を始めて下さい。軍を2つに分けます、私が率いる12000は恐らく北へ向かうブロッケン卿の方へ、残りの8000はもう一方の東へ。それでは抜かりなく、東は頼みましたアルテノ」


「任せたまえ私の姫騎士」


 両手を後ろに組んで背筋を伸ばしたガゼル軍の副将である少女は馬に跨り、攻城による疲れの抜けていない歩兵を後から続かせ、先に3000の騎馬隊を率いて東の戦場へと向かう。


「私たちも急ぎましょう。私は後から追い付きます」


 アルテノらと同じく、先に機動力のある騎馬隊が先行して飛ばし、歩兵は出来るだけ早く到着させる判断が取られた。

 その中で1人だけ反対の西の山を眺めたままのガゼルが腰の剣を抜き、遥か遠くの山肌目掛け、魔法で作った渾身の氷柱をいくつも作って飛ばす。


 ──────────────────


「お頭! 城から人間共が次々と出て行ってる!」


「すぐに砦攻めをさせてるやつらを呼び戻せ。南はもう要らねぇ」


 一方的な蹂躙だけで、それも自らの手を下さずに王都と金品を手に入れた歓喜に包まれるウォルフ隊から離れ、ジュリスは崩れた民家の前でひとり打ちひしがれていた。


「何でベルベットはこんなやつを……」


「よぉ人間。大活躍だったな」


「──お前!」


 初めて剣を抜いた相手が味方と言う事実と、全てに間に合わないどころか、目にする事も出来なかった無力さに剣を握る手に力が入る。

 後ろに飛び退いてからかうように笑いながら挑発するように揺れる獣人に飛び掛かろうとするが、剣を地面に突き立てて地面に向かって、だァァァ! と叫ぶ。


「なんだよ、気でも触れたかにんげ……」


「おい何か飛んで来て──」


 凄まじい衝撃の後に空間が裂けるような音が遅れて辺りに鳴り響き、更に遅れて凍えるような冷気と悲鳴がやって来る。


「なんだ……氷!?」


 土煙を輝く宝剣で斬り裂いて現れた蒼い鎧の騎士は正面の椅子に座るウォルフに剣を向け、白い息を吐いて一言で簡潔に問う。


「貴公の信条は本物か」


「何言ってんだ、俺たちに信条なんてねぇよ。ただ殺したいから殺す、奪いたいから奪う、邪魔だから退ける。それが信条かぁ、あったぜ」


「そうですか。では、悪を承知で私の信条を貴方に押し付けます」


 踏み込んだ衝撃が木々を揺らす程の一撃に2人の側近が横から手を出すが、1人目の左半身が腕ごと吹き飛び、進路を塞いだ2人目に至っては跡形も残さず、座ったままのウォルフに加速する刃が到達する。

 だが避けるでもなく、ただ不敵な笑みを浮かべたまま動かないウォルフに、その刃が届くことはなかった。


「ふっ──っっらぁぁあああ!」


 何かを感じ取っていたジュリスが横から剣を挟み込み、2人の獣人を吹き飛ばしてより鋭さの増した剣に全身で当たりに行く。一瞬だけ動きの鈍くなった隙を突いたジャレンの攻撃が来る前にジュリスを蹴り飛ばし、ウォルフに向けていた剣を今度は振り上げ、飛び掛かって来たジャレンの牙に叩き付ける。

 ギリギリと火花を撒き散らしながら力比べが始まろうとしていたが、そんな事はお構い無しに周りの獣人が狼に姿を変えて一斉に飛び掛る。


 左右を素早く確認したガゼルが左手を地面に叩きつけると同時に氷の塔が空に伸び、上に逃げたガゼルは未だに転がっているジュリスに切っ先を向ける。


「どうして人の子でありながら獣人に与するのですか。それも扱いはぞんざい、まるで玩具のようです」


「よく分かんねぇよそんなの! 難しい話は、賢いやつらが考えれば良い! 俺はどこに居ようが英雄になるんだ!」


 まるで物心がついたばかりの少年と話している気分にさせられたガゼルは、自分とほとんど歳の変わらない青年に度肝を抜かれ、それまでしかめ続けていた口元を少し緩ませる。


「そうですか、よく分かりました! それでは、未来の英雄の名を聞かせてはもらえないでしょうか!」


「るっせぇ! お前がまず先に名乗れよ氷女!」


 ことごとく予想の斜め上を行く童心の青年にぽかーんとしながら目を丸くし、剣を収めつつ左手に溜めていた魔法の使い道を変え、溶けない氷の花を作ってジュリスに投げる。


「騎士の国ティメリア。セブンスターが第1席。聖騎士ガゼル・ライオット!」


「よろしくなガゼル! 俺は英雄になるジュリスだ! セブンスターの……セブンスターなのか!? ミルドレッド様の興した国の第1席って──まじか! 夢みたいだ!」


「喜んで頂けて恐縮です」


「最っ高! ──かもしんない! いや最高だ!」


 長々と話し込む2人の会話を聞くつもりのない狼たちが塔を登りきり、頂上に居たガゼルを噛み砕こうと大きな口を開けるが、氷で作られた天馬に跨って陽の落ちていく山の方へ消える。


「やべぇ。俺本当に英雄になれるかもしんない!」


 ───────────────────


「ガゼル様がお帰りになったぞ!」


「すみません、予定していたより遅くなりました」


「いえ、我らはガゼル様が居てくださるだけで十分です」


「手早く行きましょう。これからは騎士にとって、熱い時代が始まります」


 空飛ぶ氷の天馬で到着寸前で騎馬隊に追い付いたガゼルは馬はそのままに翼だけを溶かし、目の前で大規模な攻城戦が繰り広げられている砦を再び目指して先頭を走り始める。

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