第2の心臓④
「報告! ガゼル様が自ら敵将を討ち、王都バーンリーを抜き切ったとのこと!」
大きな歓声が上がった戦術司令部で大臣たちが机に拳を叩きつけて喜んだり、飛び上がったりして成功を祝う。
「やはりこの国のセブンスターは大陸随一だ! 今日この戦果で示されたぞ!」
「時代は帝国や連邦だけのものではない! 我々ティメリアも戦っていける!」
「報告! 獣人が、獣人が突如現れ……ガゼル様の補給路と退路を……」
「伝令! 北のゲヘナ、東のシャルウルが国境を侵しています。ただ今国境警備が抑えてはおりますが、今にも抜かれている可能性があります!」
報告を遮って転がり込んで来たボロボロの現地の兵士に誰も言葉を返せず、戸惑った兵士は静まり返った場を何度もきょろきょろと見回す。
「へ、兵はそれぞれどのくらいの規模だ」
「ゲヘナは12000、シャルウルが8000です!」
「我々の動かせる数は!」
「ほとんどの兵をライオット侯に割いてしまった為、良くて3000と言う所でしょう」
「守護のブロッケン、武のグリッセンはどうだ!」
「練兵帰りのブロッケンは最適だと思いますが、グリッセンは当主が変わったばかりで力を発揮するかどうかです」
「カーラ侯ならば力を発揮してくれますかな?」
ずっと大臣たちの言葉を1人で受け止めていた青年を年老いた大臣が指名すると、その言葉を待っていたかのように笑みを浮かべる。
両手を後ろに組んで背筋を伸ばし、反対する一部の大臣たちを押し切って部屋から出る。
「武運を祈る。兄よりお前の方が優秀だからな、心配はしてない」
「私など兄の足元にも及びませんよブロッケン卿」
「ふざけろ。過度な謙遜は頭の高いじじい共を思い上がらせるだけだ」
「いつにも増して気が立っておいでで」
「戦争に反対どころか推し進めてこれだ、前線に1回立たせてやりたいだろ」
「私は王のために刃を振るいます。そのような誤解を招きかねない発言はどうかと」
「つまらんな……いや、それなりに楽しめるかもな。法の番人だもんなー」
きびきびと一礼して立ち去る背中を眺めて呟くゲルダだったが、背中からなんとも言えない野心を感じ取って笑う。
「出撃って聞いたけどほんと!?」
「アンジェか。すぐに準備だ、私たちは2000でゲヘナを相手にする」
「すぐに準備してくる!」
意気込んで駆けていく今日2人目の背中を眺めて悪巧みをするゲルダは、思わず転がり込んで来た幸運につい口を滑らせる。
「ジェーダンの最後の遺産が私の手元に来て、それが最高傑作だなんてな。悔しいけど、あれが本物か」
自分の準備を始めようとする前に書庫に寄り道をすると、中に居た目つきの悪い女性に睨みつけられる。パタンと読んでいた本をわざとらしく閉じ、それほど長くもない黒髪を鬱陶しそうに掻き上げる。
さらさらと元の位置に流れ落ちる艶やかな髪の持ち主は、本当に重いと言わんばかりの腰をゆっくりと持ち上げ、小さくないはずのゲルダを軽々と見下ろす。
「何か用? 暇じゃないけど」
「そう言ってくれるな、お前の知恵を借りたいんだ劫初の魔女」
「私はこの世に介入しない、それがミルドレッドに負けた時に交した約束」
「お前が怯えている英雄も、それを支えた英雄ももう居ない。そんな約束なんてこの世に無かった、また暴れられるぞ」
「ミルドレッドさえ……そうだ、あいつさえ居なければ、私はこの大陸を──魔女の悲願を」
頭を抱えて大きな独り言を地面に向けて零し始めた魔女の髪が伸び始め、あっという間に腰よりも長い妖艶な黒髪を取り戻す。




