造花⑧
「随分と、また随分とすり減ってしまった」
血が止まらない脇腹を右手で押さえながら左手のすり減った剣を握りしめ、なんとか天井に大穴の空いた家に必死こいて戻ってきた。何人斬ったかも覚えてないほどに暴れた足と腕にはもう感覚が無かった。
ようやく腰を下ろして漆黒の鎧を体から引き剥がし、固まっていた左手の指を1本ずつ無理やり開いて剣を手放す。
「またこんな所に、ちゃんと教会へ来て手当をって何度も言ってるじゃない」
陽が落ちてからしばらく経つというのに、家の外から真っ暗闇の中を駆けて来た小さな影が座り込んだ女に擦り寄る。酷く土埃と血で汚れた顔を濡らした布で拭かせ、自分は手当をさっさと済ませてすぐに立ち上がる。
「なんでいつもこんな事を?」
「私は愛されることも知らずに今まで生きて来たから、あなたのここに居て良いって言葉が嬉しかった。あなたにとって何気無い言葉だったとしても、私からしたら温かかった」
「1人が好きなんだけど……私も少し寂しかったのかも」
「何でも良い。理由はどうあれ目の前にあなたが居て、貴女の目の前に私が居る。それだけで幸せ」
少し紅潮した顔を隠しながら立ち去った彼女を見送ってすぐ、慌ただしい足音が再び彼女の来訪を伝える。だがそれは決して良いとも限らないようだ。
「騎士が数人ここに。あんたは怪我してるから戦わずに逃げて。少しだけなら足止めしてあげられるから」
「一緒に行こう。それくらいならまだ戦える」
「あんたはあんまり強くないし、足でまといの私が居ると確実に死ぬでしょ?」
「それでも、私が君を生かしたいんだ。迷惑はかけないし、私が足止めすれば……」
「私はこの捨てられた教会に住む気でここに来たし、行くなら勝手に行きなさいよ」
「そっか。そっかー、そっっかぁー」
「早く行けよ」
なんとか根負けさせようと顔をそっぽ向けてちらちらと何度か見ると、流石にしつこいと怒られる。
立ち上がる拍子にぎゅっと少女を抱きしめるが、すぐに傷口に拳が飛んで痛みで腕が解ける。
「容赦な──」
「──ぶっ飛ばされたくなかったらさっさと行く」
「元気で、また会いに来ると思う」
「来なくて良い、私は1人で居るのが好き」
手を振っても反応の返ってこない少女に見送られながら森の中に足を踏み入れ、目的地である王城に歩き出す。
途中、兎や鹿に出くわしては逃げられるまで観察を繰り返してを続け、やっと木が少しずつ減って開けた場所に出る。
「は?」
「え」
同時に腑抜けた声を互いに出して見つめ合う。それもそのはず、しばらく前に別れを告げた相手が目の前に現れ、顔を突合せている状況は誰しもが同じ反応をするだろう。
「久しぶり」
「もう目的を……」
「いやぜんっぜん。確かに王城に向かって歩いてたはずなのに、何でかまたここに」
「はぁー。どこに行くんだっけ?」
「付いてきてくれるのか!」
「あんたを王城に送り届けるだけ! 騎士か何かになりたいのかは知らないけど、私は戦争は大嫌いだから関わりたくないから」
「すごいな、何も言ってないのに」
「最近志願兵の募集が始まったでしょ、それくらいしか外のやつが王城に行くなんて無いし」
「私は英雄になるんだ」
「勝手にすれば、私は絶対戦争になんて関わらない。だからこれであんたとも本当に最後」




