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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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造花⑥

 天井に空いた大穴から降り注ぐ光の真ん中で暫く動かないジュリス。相変わらずはしゃぎ回るケルシーがうるさいと、ミアハはさっきまで居た教会前の広場で遊ばせていた。

 酷く静かな空気が流石に応えたのか、ミアハは部屋を移動して家の中を見て回る。


「ジュリスこれ」


 ジェーダンの寝室として使われていた部屋に呼ばれて行ってみると、倒れて壁に寄りかかった本棚の下に、不自然に布とランプが置かれていた。布に鼻を近付けて匂いを嗅いだと思うと、ばっと顔を遠ざけて目を見開く。


「なにこれ……まさか混ざり物。でももう片方は」


「どうしたんだよミアハ、なんか分かったなら教えろよ」


「人間の匂いの中に──」


「──大変だよ! 人間がこっち来てる!」


「人間に今見つかるのはまずいわ、今すぐここを離れないと」


「そうだな、急ごう」


 家から素早く脱出して再び森の中へと身を隠しながら帰路につき、狼の姿になったケルシーの背中にまた世話になる。


「あの布の事なんだけど」


「さっき言いかけてたことか」


「あの布からは純粋な人間の匂いじゃない、なんか嫌な感じがしたの。獣人でも龍人でもない、嗅いだことのない、得体の知れない何かね」


 今でも嫌そうに鼻を鳴らして匂いを鼻から追い出そうと試みるが、奥に染み付いた匂いは暫く取れそうになかった。


「避けてケルシー!」


「うびゃー!」


 突如森の中から飛来した矢をかわすために飛び退いた弾みで、ケルシーの背中に乗っていたジュリスは勢い良く投げ出される。地面に足から降りれなかったジュリスは腕で受身を取り、ごろごろと転がって衝撃を流す。

 第2射に警戒して痛みを噛み殺しながら素早く立ち上がり、背中の剣を抜いて左右に視線を忙しなく動かし、全方向に目を光らせながら背を木に付ける。


「だぁらぁぃ!」


 ジュリスが背を木に付けると同時に木の上に潜んでいた男が剣を振り下ろす。


「しま……」


 予想だにしない奇襲に反応が遅れたジュリスの目前に剣が迫るが、寸での所で飛びかかったケルシーが男ごと連れ去って首元に噛み付き、軽々と首の力だけで振り回して噛みちぎってしまう。


「助かったケルシー! お前すごいんだ──おい、大丈夫か!」


「だいじょ、ふっ。これくらい……なんてこと、ないの」


「その矢、飛び掛った時か。相手に相当の手練が居るな。俺の後ろに隠れてろ」


 横腹に深く突き刺さった矢に、いつも元気なケルシーも流石に余裕が無くなり、おぼつかない足取りでジュリスの後ろでいつでも飛び出せるように身を低くする。


「隠れてねーで出て来いよ! 弓が得意なのは分かった、でも弓なんかじゃ俺に傷1つ付けれねーぞ!」


「こんな有利な状況で誰が出ると思う、獣と手を組んだ蛮人も獣と一緒か」


 自分とは全く違う方向を向いて叫ぶジュリスに狙いを定めて弦を引き絞り、しめしめと警戒し過ぎて動かない的に矢を放つ。茂みを潜り抜けて真っ直ぐに駆けた矢がジュリス目掛けて真っ直ぐに進み、他の4人が放った矢とほとんど同じタイミングで的に届く。


「お前だぁぁ!」


 2つの矢を叩き落としたと同時に視界から消えた的を見つけ出そうと頭を上げるが、地面すれすれで踏み込んで来ていた影が視界の端の端に捉えた瞬間にはもう遅く、斜め上に振り上げられた剣が確実に男の命を奪う。


「な、なぜ俺の方に」


「他の3射はなんか気にならなかった、お前の矢だけが俺の頭に来た。木の上で待っていた伏兵、ケルシーを射抜いた弓の腕、この2つで1番やばそうなやつが指揮官だって気が付いた」


「何をしに来たかは知らないが、あいつと同じだと言うなら……お前たちに、勝ち目は、ない」


「何だそれ、誰だよあいつって」


 弓を持った指揮官がこと切れると同時に茂みの奥から噛みちぎった腕を咥えたままのミアハが姿を現し、プッと吐き捨てて目を閉じて蹲るケルシーの隣に腰を下ろす。


「ほんとドジね、しっかりしなさいよ」


「いや俺のせいだミアハ。ケルシーは悪くない」


「最初からあんたに言ってんのよばか、これでいよいよ引けなくなったわね」


「あ、あぁ。悪いな、俺が背負ってく」


 ミアハが矢を引き抜くと小さく悲鳴を漏らし、ぎゅっとミアハに力いっぱい抱きついて痛みに耐える。苦しみを分かっているミアハも、今だけは何も文句を言わずにやり辛い体勢で手当を続ける。


「でもなんであんな頭のキレるやつがこんな所に居たかは知らないけど、戦場で相手にするより今取れて幸いだったわ」


「俺が木に背を付けるのも分かってて用意してやがったし、弓も上手くてケルシーが深手を負った。茂みのお陰であいつの視界から消えれたけど、ここじゃなかったら絶対勝てなかった」


「あんたがケルシーに怪我させた事、私は武功と相殺で許してあげるわ。ケルシーは優しいから絶対怒らないもの」


 抱き着き続けるケルシーの頭を撫でながら少しずつ落ち着かせ、血が滲む包帯も気にせず自分の服を汚しながらも励まし続ける。大粒の涙を流しながら痛いよと小声で何度も繰り返す背中を優しく撫で、いつも強気な語気とは真逆の優しい声でひとつひとつ相槌を打つ。


「そろそろ動ける?」


「やだぁ、すっごく痛い」


「でも帰らないと、早く帰ればちゃんと手当してもらえるわよ」


「やだやだ、動くと痛過ぎて死んじゃう」


「でももう私たちの森も目の前だから、本当に少しだけ我慢すればお家に帰れるわ」


「分かった、ミアハも帰りたいもんね。ケルシー我慢する」


「あんた絶対に必要以上に揺らすんじゃないわよ、ケルシーが暴れたら帰れないだけじゃなくて、ケルシーも死んじゃうんだから」


「分かった。痛むなら俺の腕を掴んでてくれて良いから、頑張ってくれケルシー」


 ずっと涙を流し続けるケルシーを背負って獣人の国へ続く森に入り、不機嫌なままひと言も喋らないミアハの後に続いて歩く。

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