造花⑤
「きゃーー! たーのしーい!」
「静かにしなさいよケルシー! バレたらどうするのよ!」
「ミアハも叫ぼうよ、楽しいよ?」
「もういいわ、いい加減静かにしてよね」
「ミアハはいつも怒ってばかりで怖いよ、そう思わない? ねぇジュリス、ねぇってばー」
獣人の国を出発する前から常に喋り続けているお喋りな狼の背に揺られているジュリスは、返事をすることすら億劫に感じ始めていた。2人の返事が無くても次から次へと話題をコロコロと変えて話し続けるのを見ていると、環境音と同じだから聞き流しなさいとミアハが言っていたのがやっと理解出来た。
「なぁミアハ、なんで出会って間もない俺を国の外に出してくれたんだ?」
「悪巧みしてる共犯者があんな調子だと足でまといでしょ、私は絶対にこれ以上無駄に誰も死なせなくないのよ」
「そっか。お前も怒ってるだけじゃなくて色々考えてるんだな」
「何よそれ失礼ね、あんたなんかより沢山のこと考えてるわよ」
「まぁ難しいことは賢いやつに任せる、俺はとにかく戦うことしか出来ないからさ」
「とにかく、私は私の目的を果たしたいだけ。あんたは何も考えずに剣だけ振ってなさい」
そっぽを向いて隣を併走するミアハはチラッとケルシーを見ると、ずっと静かだったケルシーと目が合う。
「なによ」
「ミアハ絶対にジュリスを後悔させないようにって、ケルシーに頼みに来たのになんで嘘つくの?」
「はぁ!? そんな事ひと言も言ってないわよ!」
「言った! ケルシー聞いたもん! ケルシーは嘘つかないよ?」
「じゃあケルシーが正しいな、ケルシーは嘘つかないもんなー」
「ねー、ケルシー嘘つかなーい」
「付き合ってらんないわ、勝手に言ってなさいよ」
呆れているように見せて速度を上げたミアハに少し引き離されたケルシーは、息を少し上げてより沈み込んだ姿勢に切り替える。
「待ってよミアハ! ケルシーはジュリス乗せてるからそんなに速く走れないよー!」
高く跳躍して岩から遠くの岩へ飛び移る背中が突然消え去り、やっと登りきった先でミアハが人の姿で待っていた。ジュリスはバテて座り込んだケルシーの背から下り、見覚えのある傷の付いた木に手を触れる。
「こんなに早く着くんだな」
「あの森は入る時は長いけど出る時は短いのよ、認められれば願うだけで瞬時に出入り出来るわ。でも認められたのは4代前の狼王ケゲナ様ただ1人って話よ」
「ケルシー聞いたことあるよ! ケゲナ様の時は1番強かったって! お空も味方になって、奇襲の時に雨が足音を消してくれて勝ったんだよ!」
「まじ!? それはすごいなケゲナって人は」
「1番忘れたらいけないのは、1人の人間がその背に乗って一緒に戦ってたってことよ。獣人が森から出て大国を築けたのは、その人が大きかったお陰ってよく聞くわ」
「ケルシーもそれが言いたかったのにー!」
今度は登ってきた道とは反対の道から山を下りながら、焼けた木と朽ちた建物をひとつひとつ覗き込む。当然もう人影ひとつあるはずもなく、唯一綺麗な姿で残った教会前の広場で佇む。
「おおっきな教会だねー! ジュリスここに住んでたの?」
感傷に浸る暇も与えてくれない爛漫な声が周りで走り回り、堪らなくなったジュリスはケルシーに飛び付いて捕まえる。
「きゃー! くすぐったいよジュリス、遊びたいの?」
「俺の住んでた家を見に行くぞケルシー! それから遊んでやる」
広場に立つ大きな木の下で黙って座り込んでいたミアハの姿よりも、今はケルシーの無邪気さと、楽観的な性格がジュリスの下を向いた顔を前に向かせてくれた。会話を聞いていたミアハが立ち上がって2人に続き、少し離れた家目指して再び山に入る。




