造花④
狼領の王宮に戻って来た2人を出迎えたのは、いつもより優しい顔をしたベルベットだった。鼻を赤くしているミアハに駆け寄って抱きしめ、胸に顔を埋めて静かに泣き始める。珍しい姿だからなのか、何故涙を流すのかを理解しているミアハは何も言えず、ただ弱々しく泣く母の頭を優しく撫でる。
そうしている内に想いが移って溢れたのか、ベルベットの肩に顔を当ててミアハも泣き出してしまう。邪魔だと気を遣ったジュリスはミアハの肩を叩いて奥へと歩く。
「シェパスが来たんだ。ありがとうって」
「うん。うん……私が倒したの、人間に改造されてたおじさんを」
「私を庇ったばかりに……長い間苦しめてしまった。なのに、良い娘に育ったなって、あいつの一生を奪っておきながら私は……」
「怒ってなかったわ、私も言われたもの。立派なレディになったなって。あとママは強がりだから、目を離さずに支えてやれって」
「あの馬鹿は、死んでも私の心配か。全く、たわけめ」
人払いのされた大広間の真ん中で抱き合いながら座り込んでいた2人だったが、お互いの涙を拭いあって口角を指で上げ合い、不自然な顔に笑い合う。
「仲が良いのは良い事だけど、そろそろ決めてくれないかベルベット様」
人払いがされてから時間が経ちすぎて業を煮やしたのか、ミアハの世話役であるアルダンが足音も立てずに歩いて来て、いつの間にか泣き止んだ2人の間に入る。普段の反抗的な態度を保とうとミアハがベルベットを突き飛ばし、キッと睨んで耳をピンと立てる。
「私たちが1番牙だ、獣牙族に譲るな」
突き飛ばされて寝転がったままのベルベットは天井を仰いで手を前に出し、ぎゅっと何かを掴むように拳を握りしめてアクロバットに立ち上がる。
「全員集めろ、何がなんでも私たちが先頭を走る」
「本気なの!? アルダンも煽ってないで反対しなさいよ、そんなの獣牙族に任せとけば良いじゃない!」
飛び出したミアハに見向きもせずに歩き始めたベルベットの腕を掴んで引き止めるジュリスだったが、アルダンがその腕を力強く掴んで引き剥がす。
「待ちなさいよ! もー! なんなのよ!」
「行こうミアハ。まだ出来ることは溢れてる、出来ることからやろう」
「分かってるってばー! こんな事だろうと思ってたわよ!」
さっきまでの穏やかな雰囲気と一変して鋭い目をギラつかせ、目標を追い掛け回す獣の目付きに変わる。
「わからず屋には付き合ってられないわ、私たちは私たちで動くんだから」
「っても、俺たち2人じゃ1個小隊くらいしか1度に相手出来ないしな」
少しの肌寒さにポケットに手を突っ込んで考えながら歩くジュリスの胸倉を、いつの間にか振り返っていたミアハが引っ張る。
「私が狼になれば1個中隊は狩り尽くせるわよ!」
「あ、あぁ。そうだな」
「なによ、あんたがそんな調子だとこっちも気が滅入るじゃない」
「村のこと思い出してて、俺は1人で逃げて来ただろ。親父もシスターも、村の子どもたちも無事なら良いけどさ」
「そんなの行けば良いじゃない、アルダンは絶対あんたを乗せてくれないから……ケルシーだわ!」




