造花③
「上手くいったな、騎士どもは全然死ななかったけどな。っとに役に立たねえな野盗ってやつは」
「気付いたのね、良い子だわ」
日が昇り始めた山の中、差し込む陽の光を逃れた薄暗い木陰の裏で、山から引き上げる騎士団を見下ろす男女。不穏な言葉を残し、差し込む光に押し出されるように姿を消す。
「第2部隊、第5部隊。周囲を少し偵察しろ」
「ウィルコ」
「コピー」
緩やかになってきた山道を逆方向にそれぞれが馬を駆り、ゲルダの命令通りに周囲の偵察に走る。
訓練のはずが、予想外の事態を避けられなかったからか、未だに気を緩める気配の無い指揮官に、周りの騎士も一切の私語をはばかっていた。
腕の中で眠ったままのアンジェに常に意識を向けながら視界の中の木陰をひとつひとつ警戒し、腕から伝わる鼓動が続いているかに怯えながら下山を続ける。王都に来た当初とは体つきも変わっていたが、それでも強く抱き締める事が出来ずに、羽を手の上に乗せるように添えるしかゲルダには出来なかった。
「少しお休みくださいゲルダ様」
「いやいい……いや、少し任せる。スミレを呼んでくれ」
「既に居ますよゲルダちゃん」
反対側からかけられた緩やかな声に振り向くと、唯一帯刀しているおっとりとした雰囲気の女性が微笑みながら待っていた。
「私は少し休む。その間はアンジェを任せたい」
「あら、小さな可愛い子ね」
「重いぞ、気を付けろ」
「そんな事言わな……い、の。か、可哀想でしょ」
諭すようにゲルダに注意をしていたスミレだが、体勢を崩しながらなんとかアンジェを胸に抱き抱える。驚いて少し立ち上がった馬を必死になだめ、辺りを少しだけ歩き回らせてやっと落ち着かせる。
「言っただろ。見た目と不釣り合いにアンジェは重い」
「こんなに天使のような寝顔なのに、どうしてかしら」
「さぁな、ジェーダンチルドレンは謎が多い。それと、一緒に伸びてたアルトは大丈夫なのか」
「あの子なら回復して、もう自分で騎乗してますよ」
「そうか、根性はあるな。じゃあ後は頼む、私は寝る」
「はーい。いつも通り、30分で起こしに行きますね」
白馬を立ち止まらせて後方の馬車を待つために離脱したゲルダに変わり、今度は騎士らしくないスミレが先頭に立って軍を率いる。
「行軍速度を少し早めます、偵察が戻る頃なので休息をとらせる準備を。伝令を、微速で王都に戻りながら合流。送って」
「はっ!」
穏やかな雰囲気が深呼吸の息を大きく吸い込む動作と共に吸い込まれ、打って変わって切れ味の鋭い指示に複数の騎兵と伝令兵が散る。ゲルダが圧倒的なセブンスターと言う神威による覇道の統率ならば、スミレは叩き上げの実績とギャップによるカリスマ性による王道の統率。対となるからこその統率力を生み出しているのだろうが、少しバランスが崩れれば崩壊しかねない。
それでも崩れないのは、スミレが上手くバランスを保とうと奔走している姿が、ゲルダの気の遣わなさから想像に容易い。
「全員戻りましたスミレ様」
「分かりました、ご苦労さまでしたとお伝えください。馬を休ませ違う馬に乗り換えて引き続き行軍を、もう山を抜けます。ゲルダちゃんを起こして」
「はっ、伝令兵!」
木々が途切れた先の平原には、待っていた半分以上の味方が駐屯していて、天幕を片付けて出立する準備を進めているところだった。複数の安堵の溜息が溢れた兵たちは、疲労の色が濃く出ていた。
「お前らよくやった、新兵たちは残念だったが生き残ったやつもいる。まだ気を抜くな、帰ったやつだけが英雄になる」
「おはよゲルダちゃん。このまま進んであの村に寄ろうと思ってるんだけど、山に入っていた隊は先に直進させて王都に返してあげる?」
「そうだな。何ならスミレもそうしろ、ここから先は私の独断だ。せっかく叩き上げで来たんだ、下手なことには関わらない方が良い」
「もう何を言ってるの? ゲルダちゃんが声を掛けてくれなかったら、私は処刑されるただのいち野盗のままだったもの。それに、私が居ないとダメでしょ?」
勘弁してくれとにこにこしながら抱きつこうとするスミレを手で突き放しながら、2人と子どもたちは平原に駐屯する本隊と合流する。




