造花②
「何なんだあの女は! あいつが現れてから全てが狂った!」
樽くらいはある大きな拳を机に叩きつけた男は顔の血管を浮き上がらせ、机上に広げられた地図の上に置かれた駒を叩き潰す。
「あれが雷帝の花嫁ですか、既に我々の経験や知識では戦場は動かなくなりましたか」
「あれはモンスターだな、うちの軍は初撃で半分以上持ってかれた」
「あたしらじゃどうしようもないね、7国が寄って集ってこのザマってね」
「西の帝国にも参加を要請するしか……」
あまりの自力の差に愚痴が止まらなかったそれぞれの国の将が口を閉じ、しばらくの間1人が放った言葉に考え込んでしまう。彼の言う西の帝国とは、6騎将を抱える大陸最強と名を轟かせるヴァンゲーテン帝国だった。
西のヴァンゲーテン、東のジェイル連邦、南のガジャルタ帝国。この3国が大陸の中心に侵攻しない事で均衡が保たれていたが、ついひと月前程、ジェイル連邦の南東侵攻によってガジャルタ帝国にも緊張が走っていた。
事態を重く見た6国と侵攻を受けた1国が手を取り合って初めて衝突したが、状況は誰が見ても悪いどころでは済まない程絶望的だった。
結局遠く離れたヴァンゲーテン帝国は要請を跳ね除け静観し、侵攻を受けた小国は僅か開戦からひと月と初週で砦ひとつ残さず陥落した。更にそこでジェイル連邦の侵攻が止まった事もあり、連合軍も解散して自国に引き払っていた。
「頼む、お願いしますから命だけは……」
ただ座って紅茶を飲んでいる少女に跪いて許しを乞う元国王も見ず、まるで居ないかのように反応を示さない姿に我慢が出来なくなったのか、隣で黙っていた元将軍が立ち上がる。それでようやく2人を視界に入れたが、変わらずに口を開く事なくじっと見つめる。
自分の倍ほどある巨体に詰められても規則的な瞬きだけを繰り返す不気味さに、立ち上がった男は違和感のような恐怖で膝を折る。何かを思いついたようにエスメレイナは目を大きく開き、何度か頷いた後に首を左へ向ける。
「この方たちにも紅茶を」
「えっ……は? は!」
困惑しながらもなんとか自分を納得させた騎士が合図を送り、誰も理解が出来ずにしている中、1人で満足そうな顔をして微笑み、最後のひと口を飲んでカップを脇の騎士に渡して立ち上がる。何をされるのかと怯える元国王の隣を通り過ぎ、謁見の間の扉を押し開けて開け放つ。
「感じる。とても大きな力が南と西から、とても強くて冷たい風が、私の肌を刺しているわ」
またしても訳の分からない言動に、慣れていたはずの周囲の騎士は気にもとめなかったが、肌でそれを感じとった本人は城から姿を消してしまった。




