造花
勇者が降り立ったティメリアから遠く離れた東の連邦。その国境から南東に5日と、更に半日ほど移動した先にある平原を埋めつくすほどの兵士が向かい合っていた。
片方のたった5万の大軍勢を率いるのは、馬上で優雅にヴァイオリンを奏でる少女。穏やかなメロディに相応しくない殺伐とした大行列も、心無しか雰囲気が和らいで見える。
「エスメレイナ様。7国連合の先頭ともう衝突する頃です」
黒の中にシアン、マゼンタ、イエローがそれぞれまばらに入ったなびく髪の裏側は、見上げたくなる満天の夜空の様な景色が覆い尽くしていた。
「私が軽く撫でます、陣を敷いてください」
ピタッと演奏が止まり、小さくとも不思議と遠くまで通るか細い声が平原に響き渡ると、馬から下りたエスメレイナは降り注いだ凄まじい衝撃と共に雷を纏い、短くなった白い髪を揺らして姿を消す。彼女が通った後に走る余韻がバリバリと走り、輝く金色の双眸が線を引きながら平原を駆ける。
当然誰も追えない一撃が草木を焼き切り、真ん中に大きくぽっかりと空いた敵陣は大混乱に陥っていた。直撃を受けた者は跡形もなくなり、シミのような影が地面に残るのみだった。運良く直撃を免れた者でさえも足や腕に火傷を負うなどして負傷し、完全に従来の戦争の形を一変させてしまっていた。
「進みましょう」
50万の超大軍の一端を貫き切った場所で再び短く口を開き、口数と釣り合わない量の雷を降り注がせる。
ただ一方的になぶられる連合軍は、指揮官を守る部隊と逃げ惑うだけの部隊と分かれて散り散りになってしまい、たった5万の数に太刀打ち出来ないでいた。
気付かない内に体を引き千切られた焼け焦げた死体で道が出来上がり、それを目の当たりにして震え上がる者を騎馬兵が追い討ちをかける。
「もういい、これ以上は虐殺」
開戦前まで響き渡っていた演奏のようにピタッと止まったエスメレイナは置いて来た馬の元に戻り、馬具に掛け掛けていたヴァイオリンを再び弾き始める。
命令通りにすぐに追撃を止めた全隊が戻る間、演奏に合わせて歌を歌う。




