いし⑦
不利と見るやすぐに撤退を始めた野盗を追い掛け回し、間合いに入った背中を容赦なく切り裂く。流石山を走り慣れているだけあって、2人はまだそれほど多くの野盗を仕留められていない。フラストレーションが溜まる一方のアンジェを宥めるアルトにも限界が見え始め、無尽蔵な体力の持ち主である前の背中に遅れをとり始める。
「待ってくれアンジェ! そんなに早く行かれても追いつけない」
「背負って行こうか?」
少し考えた後に屈んだアンジェを追い抜き、屈伸運動で足を解し、意地と気合いで力強く足を踏み出す。
「馬鹿言うな、そんな間抜けなことできるか」
「なら立ち止まって弱音吐く暇があったら、1歩でも追い付こうと足を出しなよ」
「お前。なんか言うようになったよな、色々」
「お父さんもシスターも居ないんだから、引っ張ってくのはアルトと私なんだよ」
「そうだな、他の隊の子たちは生きてるだろうし」
「ほら、さっさと見つけてさっさと帰る。明日には皆を送り届けるんだか──」
アンジェの言葉よりも早く届いた金属音が辺りに鳴り響き、パワーで劣る小さな体が傍にあった木に叩きつけられる。背後からの奇襲を寸前に鳴った鉄が風を斬る音で察知し防いだが、頭を打ったことによる軽い脳震盪でよろける。
「お前!」
すぐに反撃するアルトだったが、容易く避けられた一撃に何もすることなく男は逃げ、場が落ち着いたのを確認してアンジェに駆け寄る。
「大丈夫か」
「腕も痺れてる。暫く歩けそうにないかも」
「分かった。戻った方が良いな」
「それはだめ。少し休めば治る」
「あいつが仲間を率いて戻ってきたらどうする、ゲルダさんに言われただろ。俺たちは今敵からしたら楽に狩れる獲物なんだぞ!」
「分かった。分かったから叫ばないで、頭痛い」
戻るぞ。とだけ言ってアンジェを背負って歩き出す。アンジェも何も言わずに寄りかかって体を預ける。
「おもっ」
「殺すよ」
「あや、ごめん」
「短期間で筋肉付いたから仕方ないでしょ」
「なるほどな、そういう事にしとくか」
明らかにひとりの少女を背負っている重さじゃないことは言えない為、何とか軽口にして誤魔化す。それから足場の悪い山から背負って降りる事を後悔する。
「待って、足音が複数」
「俺は何も聞こえなかったけど」
「下ろして。形だけでも構えるから」
「勝手に動いた罰だなこれ」
連戦続きだったアルトの剣は既に崩壊しそうなほどぼろぼろになり、アンジェも剣の揺れを止められないほど憔悴し切っていた。
もう何も言葉には出さないが、2人は腹を決めて飛び出す。
「撃て!」
背後からゲルダの声と共に飛来した矢を避けるためにアルトの襟を掴んで転がり、続けざまに放たれた矢に当たらないように身を低く保つ。自分たちの頭上を矢が何本も何本も音を立てながら大量に通過する恐怖に耐え、正気を失って起き上がろうとするアルトの頭を必死に地面に擦り付ける。
「突撃しろ! 犬も使って探し出せ!」
ようやく降り止んだ矢の後ろから騎士が馬で追撃をかけ、辺りに居た野盗を一斉に掃討する。
もう声も出ないアルトは必死に気を失ったアンジェを抱えて庇っていて、全てが終わったことに気がついてもいなかった。
「大丈夫か少年。殲滅した、もう十分だ」
ようやく終わった事を理解して仰向けに寝転がったアルトを騎士が抱え上げ、気を失ったアンジェをゲルダが抱き上げて馬に跨る。
「後で説教だ馬鹿ども」
「まぁ、そうですよね。そりゃどーも」
「お前たちの村は皆そう言った態度なのか? こうなんと言うか、礼儀を欠くと言うか」
「なんですかね。負けず嫌いってのもあると思いますけど、上下とか無かったんで」
「これから覚えるんだな、必ず必要になる。騎士の世界ではな」
「今はとにかく、休みたいっすね」
ぽすんと優しく頭を叩いてやると、やりきった顔で瞼を閉じる。それを見てゲルダは満足そうに馬を歩かせる。




