いし⑥
角笛の音が真っ暗な山に鳴り響く。危険を知らせる為に叩かれた太鼓の音が山に反響して返ってくる。叫び散らす声が所々で湧き上がり、視界確保の為の松明が線のように並ぶ。
まるで祭りのような騒ぎの山では大規模な戦闘が起こり、突如現れた野盗に、野営の準備で気の抜けていた新兵は混乱し、大半が武器も抜かずに叫んで逃げ惑っていた。
「壁になって突撃しろ! アンジェは仔犬を守れ!」
「分かってるけど、暗いし敵が多い!」
「お前だけじゃない、周りの使えるやつは使え!」
敵の真ん中に突っ込んで声とともに小さくなっていく背中を視線から外し、同じ部隊の子どもたちを探すために元いた場所に戻る。
既に奇襲によって多くの死者が出ている中を足もとに気をつけて進み、鳴り止まない耳鳴りの中、必死に耳を澄ます。
「うるさい! 子どもたちの声が聞こえない、びびってる暇なんて無いのに」
「何してんだよアンジェ!」
立ち止まって周囲に意識を完全に傾けていると、大してない集中を突き破ったアルトに突き飛ばされる。割り込んできたアルトが振り下ろされた剣を受け止め、受け流して体をひねって切り返す。
こっちが怯えているのが伝わっているのか、にたりと笑う男たちはからかうように剣をゆらゆらと揺らす。
「あ? ばかにしてる?」
冷静にならずに動揺から憤りに振り切ったアンジェは凄まじく低い姿勢で敵を抉りあげ、胸から顎先まで斬りあげる。立っていたアルトよりも早く一撃を見舞う姿に、振り上げていた剣を思わず苦笑いで下ろす。
大きく息を吐いたアンジェはようやく冷静になり、アルトと背中を合わせて残った野盗と向き合う。
「すっきりしたー」
「野盗よりもお前の方が怖いよ」
「ちびりそう?」
「そう言うこと女が言うなよ」
「緊張解れたでしょ」
「通り越して呆れてるよ」
前のめりになって暴れ始めたアンジェの後には重症で動けなくなった野盗がうずくまり、討ち漏らしをアルトがひとつひとつ片付けていく。だが快進撃は長く続かずに途絶え、剣を握りしめたまま動かなくなる。
「そっか。そっか」
「生きてる子を探して、私は行ってくる」
「ほんとに死ぬぞ」
「行けるところまで行って然るべき場所で死ぬ。その時まで、私はどれだけ無茶をしても死なない」
「運とかそう言う話じゃねぇ! 死にに行くやつは別だろそんなの!」
「じゃあ、守りたいもののために死ねないでいつ死んだら良いの! それこそ、然るべき場所に行くしかないでしょ!」
胸倉を掴んで引き止めるアルトの胸倉を掴み返し、顔を真っ赤にして潤んだ目で睨みつける。気圧されそうになるアルトはなんとか手を離さずに持ち堪え、振り払おうと振るわれた手を掴んで胸倉を掴み続ける。
「行きたきゃ俺も殺してけよ」
「頭沸いてんの? 何考えてんの」
「じゃあ俺も連れてけ。何でひとりでやろうとするんだよ。死ぬ気がないなら、それくらい考えろよ」
「はぁー。うっっとーしー!なぁ!」
叫んだアンジェが拳を握って思い切り振り切り、自分の額に拳を叩き込んで目を開く。あまりの衝撃に出血した額から血が流れ、驚き過ぎて声の出ないアルトがわけも分からず自分の額を手のひらで叩く。
「行こ。殺して殺して殺して殺す」
「物騒なこと言うなよ。生きてる子を探しに行くだけだろ」
「もちろん。それでも、やった事の対価は払わせる。野盗なんてしてるんだから、やったこと以上の事をされても文句を言うほど覚悟の無いやつは居ないはずだし」
「やばいやつが勇者になったもんだ。どうだ、心優しい俺に譲る気は?」
「無い、ばーか」
険しい顔から凛々しい顔に変わったのを見たアルトは胸を撫で下ろし、前を走っていくアンジェの後を見失わないように追っていく。




