いし③
獣人と言うからには平原や森の中で、大きな切り株を囲むような会合を想像していたが、しっかりと王城が建てられていて、その周りには城下町がしっかり栄えていた。
人間と変わらない様式に少しだけ肩を落としていたジュリスに気付いてか、ミアハは何故かジュリスをじっと見ていた。
「なによ、怪しい事しないか監視よ」
注がれ続ける視線と目を合わせると何故か半ギレで返され、肩を落としている事に気付くはずも無いミアハは、それからもずっと目を光らせ続けていた。
長い階段や廊下を経た先の一際大きな扉が開かれると、扉に相応しくない質素な普通の部屋で、広くも狭くもない部屋の真ん中にはテーブルが置かれていて、その周りを椅子が囲んでいた。既に集まっていた4人が椅子に座っていて、その両脇にそれぞれ側近が控えていた。
「遅い。既に始まっているべきだ、何をしていたベルベット。この私を呼んでおいて待たせるとは、それが狼の礼儀か」
重苦しい空気を切り裂いて殺伐とした空気に変えたのは、黒く光る鱗に覆われた屈強な翼を持つ男だった。返事もせずに机の前まで歩いたベルベットがジュリスを指さし、牙を覗かせながら笑ってから喋り始める。
「ジェーダン最後の教え子だ。やつの打った剣を持ち、やつの振るった剣を振るう」
「そんな事のために、獣臭い会合に呼んだのか。今ここで殺しても良いんだぞ」
「まぁそう怒る事もないだろ。お前も私もジェーダンに負けた、そしてそのジェーダンも今は居ない。ここでジュリスを拾えた私たちは幸運だな」
「やつの作品など……」
「腐る程居るってのは分かってる。だが最高傑作の帝国6騎将の月長石を始め、雷帝の花嫁、常勝将軍はジュリスと同じ年齢だが圧倒的に強い。だが、その化け物の中に入る最後の1人になるのがジュリスだ」
「根拠など無かろう。無駄な時間だ、帰る」
側近を引き連れて出ようとする肩にベルベットが手を置いて引き止める。切れそうなほど額に血管を浮き上がらせ、男が動くよりも先に左右の側近が先に動いてベルベットを壁に押し付ける。
それを見たミアハともう1人が龍人の側近2人を引き剥がしてベルベットの前に立ち塞がる。2人の肩を叩いて後ろに下がらせ、敵意を剥き出しにした龍人を睨むだけで衝突を止める。
「話は最後まで聞けダリオス。お前たちも手が早いミアハ、アルダン。クルエラもシュリも自分の王をもう少し信じろ、ダリオスの意思かよく考えて動け」
「お前の言いたい事は分かっている。ジェーダンが旧聖戦で殺した神の数は4体、その覇殼で創った武器は4つ。内3つは既に最高傑作の3人に、残る1つがずっと探されていたが、それを背負った小僧が現れた。そうであろう」
「分かってるなら部下を誤解させるな、お掛けで私の娘の腕に傷が出来た。次期女王に傷をつけた責任はどう取るつもりだ」
「たかがかすり傷だろ、狼牙族はひ弱だな」
「それは冒涜だなシュリ。どっちがひ弱か教えてやろうか」
赤い翼を持つ龍人がぼそっと零した言葉を聞き逃さずに詰めるベルベットに、金色のたてがみの持ち主が間に入って止める。
「娘の事になると冷静さを欠くのは相変わらずかベルベット。それと同じくらい傲慢なのもなダリオス。お前たち2人だけの話し合いみたいで気に食わんぞ」
「そうですね。私たち翼鳥族と、もう1つの獣牙族を忘れてもらっては困りますわ」
それまで大人しく事の顛末を見守っていた2人が口を挟み、白い翼を広げたブロンドヘアの女性が立ち上がり、机に広げられた地図を指さす。
「私たち鷺の国は戦闘力が無いに等しいですから、あまり出しゃばるべきではないのでしょうが、ご提案よろしいでしょうか?」
「そんなに縮こまらないでください。鷺の一族が居なければ、我々はこのように集まれてはいません」
「嬉しいお言葉とお気遣い痛み入りますわ。では、不可侵の森に接している狼牙族と獣牙族の方々には、最もご負担をお掛けすると思うので、先にご意志を聞いておきたいのです」
常ににこにことした穏やかな顔から発された意志と言う言葉に、仏頂面を貫いていた獣牙の王が不敵に笑う。
「黙って行かせる訳も行くまい。全員食いちぎってやる」
「狼牙族も同じく、必要ならば手を取り合い敵を討ち果たします」
「本日顔を出していない鷹と鴉には、私が責任を持って伝え、協力するように説得致しますわ」
瞬く間に場を収めた鷺の女王のお陰で話が纏まり、解散の流れになる。
「俺たち龍人族はお前たちとは別で動かせてもらう。そもそも奴隷として人間に使役されていない龍人族に、戦う意味など無いからな」
「龍人族は腰が引けているらしい。なんとか言ってやれ、リリアネス嬢」
煽る獣牙族の王に龍人の王は反応を返さず、側近の2人もそれを見てなんとか我慢して後に続く。
「さて、疲れただろうジュリス。今日は休め、明日から忙しくなる」
祭りが催されるのを楽しみに待つように笑うベルベットに背中を押され、城の中を用意された自室まで案内される。ベッドにテーブルと言った必要最低限の物だけしか置かれていない部屋に通されると、吸い込まれるようにベッドに飛び込んで目を閉じる。
「親父の最高傑作。親父の剣……分かんねぇな。まぁ、難しいことは置いといて、とりあえず寝るか」
瞬く間に意識が明日へ向いたジュリスは隣に置いた剣を握りながら眠る。




