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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
13/52

いし②

 長い長い森を歩き続けて4日。変わらない景色と湿気の多さからジュリスは喋る気力も無くなり、涼しい顔をして歩くベルベットを追って足をひたすら前へと出し続けていた。

 全壊した村を出てから1週間と2日。話題も尽きたベルベットも、何も喋らずに理解っているのか不確かに思えてくる森を迷いなく歩く。途中、川を渡って重くなった靴が不快感を更に募らせ、警戒しながらついてくる猿にさえ腹が立つ始末。


「もう抜けるぞ、よくついて来れたな。ようこそ半獣の国へ」


「だぁー、やっとなのか。もう一生出られないかと思った」


 高温多湿の森を抜けた途端、久しぶりの平原が眼前に広がり、嘘のような爽やかな風と温暖な気候に包まれ、楽園にでも来たのかと錯覚する。


「超爽やか! 最高、かもしんない、半獣の国!」


 大きく伸びをしてずぶずぶの靴を脱ぎ捨てて裸足で草原を駆けていると、狼に化身したベルベットがじゃれるように周りを駆け回る。

それを見て楽しくなってきたジュリスは速度を上げて一直線に走り始め、少し勾配のある丘を頂上まで一気に上る。


眼下には野生の馬や鹿などの草食動物が駆け、青々とした山ときらきらと光を跳ね返す澄んだ川がより空気を美味しく感じさせる。


「気に入ってもらえたようだな」


 人の姿に戻って隣に立ったベルベットが微笑みながら言い、目を輝かせているジュリスを見て満足そうに遠くに目を向ける。


「超気に入った。俺の居た村も自然がいっぱいあったけど、ここはそんなものとは訳が違う。あるべき姿って感じがする」


「気に入ったなら良かった。今日からこの国が、デルーカがお前の故郷だ。女王として歓迎しよう」


「ここが親父の生まれた場所か」


「何か感じるか?」


「ぜんっぜん」


 遠くから徐々に近付く地響きに腰を落として剣を抜き、周りを警戒しながら切っ先と同時に足を動かしてベルベットの傍に擦り寄る。

直に地響きの正体である大勢の狼が目の前に現れる。


先頭の綺麗な赤毛の狼が走りながら人の姿になり、丁度目の前でゆったりと止まって跪く。


「出迎えかミアハ」


「困ります女王陛下」


「黙って国外に、それも人の国に行くのはいつもの事だろ」


「それもありますけど、その人の子はティメリアの指名手配犯。帝国と同盟国の犯罪者を匿うと戦争が起こる可能性が高いです」


 新聞を片手に持って描かれたジュリスの顔を何度も指さし、最後には地面に叩きつけてベルベットに迫る。

1歩2歩と後ずさったベルベットは上げた両手をミアハとの間に挟み、しっかりと両手で体を押し返して引き剥がす。


「バレることはない、何故なら人間じゃあの森を抜けるのは難しい。それに、今すぐにとはいかないが、戦争に勝って獣人の覇権を取り戻す良い機会だ。だろ?」


「本気!? 私たちの国の何処に増え続ける人間と戦える数の戦士が居るって言うの!?」


「確かに、先の大戦で負けた事により国土は半分以下になり、多くの仲間が奴隷として捕らえられ愛玩動物となったが、このままただ減り続けるよりも今戦うしかない」


「じゃあこの人の子ひとりが居れば勝てるの? そうじゃないならこんな危険な人早く追い出すべきよ!」


「ジュリスはジェーダンが最後に育てた子どもだ、間違い無く危険を冒す価値はある」


「ジェーダンチルドレンならその辺に居るじゃない! 帝国6騎将の内の1人、ティメリアのセブンスターに2人、ゲヘナの砂漠の賞金稼ぎ、連邦の雷帝の花嫁。他にもまだまだ、挙げたらキリが無いでしょ! こんなの1人でどうにかなるの?」


「あと、ティメリアにはもう1人俺と一緒に育てられたアンジェリークが連れ去られた」


 ジュリスの発した言葉を聞いてずっと騒いでいたミアハは固まってしまい、ピンと立てていた耳が垂れ下がる。


「もう無理よ、ジェーダンさんも死んでジェーダンチルドレンは人間側に沢山居て、私たち獣人は減る一方。悔しいけど、負けしか見えないじゃない」


「次期女王としてみっともないぞミアハ、私の娘らしく堂々としていろ。騒ぐな、弱音を吐くな」


「この状況で次期女王なんてあって無いような称号よ! あんたがてきとーでその辺ほっつき歩いてるから私がこんな心配性になったんだから!」


「優秀な娘に育ってくれてたようでなによりだ。そんな優秀な娘に、この後の会合に同行してほしい。ジュリスもだ、良いか?」


「俺は行くしかないだろ」


「今まで呼んでくれなかったくせに……良いわよ行くわよ、一応次期女王だものね」


 予想していた反応だったのか、微かに口角を上げて丘の途切れた先に飛び込み、それに続いて大人しく待っていた後ろの狼たちも飛び込む。

その中の一頭の背中に乗せられたジュリスは、ただ一頭だけ真紅の狼であるミアハの隣で、必死に揺れる背中にしがみつく。

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