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1.4.2  作者: 雨宮祜ヰ
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誇り④

 大勢の民衆。湧き上がる歓声。両肩に乗った重い衣服。両手に乗せられた式典用の剣。どれもこれもかつての英雄が死んでから間もないのに、全て無かったかのように喜びに満ち溢れていた。

まるで空が生きているように感じた。空だけは英雄の死を悲しむように雨を降らし、代わりに涙を流してくれているような気がした。雨に濡れた寒さで歯も震えてきて、頬を伝って地面に落ちる雨粒を見ていると、何故だか息が苦しくなってくる。


「建国の英雄が去り142年、このティメリアに力を受け継いだ新たな勇者が現れた! 我が国は常に大国の脅威に晒されてきた。だがそれも今日この時までだ! 今尚見守っている騎士王が天から勇者を遣わし、この国をより強くするために力を与えたもうた!」


 大義名分を手に入れたこの国の王は戦争をするつもりだ。この国を作った英雄の成功例から、国民もすぐそこにあると信じきった勝利を見て叫ぶ。拍手と太鼓や楽器と怒号で、まるでお祭り騒ぎのような熱狂に民衆も酔いしれている。


 ひとり上の空で遠くの山と山が集まり合う場所を眺めていると、突然の刺すような冷たい風に吹かれる。それと同時に全身に叩き付ける雨にたまらず目を閉じる。


「この少女がこの国を導く、騎士王の力を受け継ぎし勇者だ!」


「レグルス!」


 事前に言われた通りに漆黒の鎧を身に纏い、ジェーダンから受け取った剣を抜いて天に掲げる。より一層の大歓声が鼓膜を揺らし、もやもやと曇った胸の奥の何かを揺らす。


「この大陸には各地で自治を騙る蛮族が蔓延っている。まずは征伐軍を各地に放ち、この大陸をひとつに纏め上げる!」


 役目を終えて城の中に下がると、王がこれからの事を話し始める。全く聞かされていない内容もあったが、聞いても聞いてなくてもやることは変わらない。

腹を決めたアンジェは式典の直前に意識が戻ったゲルダの部屋を訪れていた。


「アンジェリークか、不甲斐ないところを見せたな。まさか辺境にあれ程の者が居たとは」


「聖騎士にはもう幻想を抱いてないので。何も思いません」


「どうした。確かに急な事で辛いかもしれない、故郷を焼いたのも私だから何も言えないが、それでもお前らしくない」


「私の何を知ってるんですか、それとも聖騎士は皆そうなのですか。血が良いと何でも知った気になるんですか」


「あぁ、いやすまない。確かに会ったばかりだ。それでも、少しの時間で見たお前はもっと優しくあった記憶がある」


「突然攫われて、勇者とか何とか言われて、帰る場所を焼かれて、次は理由も無く他国民を殺せですか。誇りは、あなたたちに誇りは無いんですか」


 言うこと全てに何も言い返せないゲルダは少しの間黙ってしまうが、ベッドの横のサイドテーブルに立てかけてあった剣を手に取り、胸の前に立てて少し抱き寄せてから目を閉じる。


「私たち騎士は国を、国民を守る石だ。でも石なんて雨が来ただけで流されてしまう。けど、そいつが重ければどんな天気でもそんなの関係無いんだ。私の誇りは、善良な民が笑えるこの素晴らしい場所を守る事だ」


「国民は王都の人間だけじゃない。私たちみたいな辺境の村だって、名前の無い村の人たちも国民なのに、この国の王は焼けと言った、そしてあなたはそれをした。あなたにもう誇れるような誇りは無いはずだけど?」


「少し近くに寄ってくれないか。出来れば耳を貸してほしい」


 周りを見回してからそう言ったゲルダに警戒しながらも、怪訝な顔のままアンジェはゲルダの顔に耳を寄せる。


「あの村の者は全員避難させた、そして新しく作らせている村に移り住んでもらっている」


「本当に、皆無事なんですか。ジュリスも、シスターも」


「無事なはずだ。シスターに襲われて崖から突き落としてしまったが、あの下は確か川だったはずだ」


「良かった。じゃあ連れてこられた子どもたちはその村に」


「あぁ、残りたい者以外は初陣でそこに送り届ける。私はそのために自ら名乗り出たんだ」


「確かに、重ければ天気なんて関係無い」

 

「良い言葉だろ。私の幼い頃、ジェーダン様に教えてもらった言葉なんだ。だがその英雄も、私は……」


「お父さんは、時代を動かすためにここに来たはずだから。もう責めないよゲルダさんの事は」


「ありがとうアンジェリーク、来週からの訓練は厳しく行く。私が完治したらしっかり鍛えてやる。だから今日は休め」


「分かった。明日も訓練あるし」


 少しだけ打ち解けた気がしたゲルダは胸をなでおろし、少しだけトゲトゲとした雰囲気が和らいだアンジェを見送る。


「やっと会えたな、アンジェリーク」

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