誇り③
ゲルダが出撃してすぐ。漆黒の鎧を纏ったアンジェは本物の勇者と認められ、急遽決定された勇者披露の催事に向けて着々と準備が進められていた。ゲルダに何か考えがあって向かったのだと、信じる事しか出来ないためずっとそれだけを祈っていた。
「帰る場所、無くなったな」
ずっと泣いている子どもたちから少し離れ、窓の外を長時間眺めるアンジェに、アルトが並んで怒りの交じった声で言う。ゲルダのお陰で全員が兵士としての訓練を受ける事で生かされ、こうして誰も欠けずに準備が整うまで待たされている。
「ゲルダさんが受け入れてくれる教会を探してくれてる。初陣で死んだ事にして皆を逃がす予定だから、アルトも無理して残らなくて良いよ」
「いや、俺は英雄になるんだ。ここで帰ったら今度こそ機会が無くなる」
「そう、なら勝手にして。私は小さい子たちに訓練なんてさせたくない。けど、初陣で本当に命を落としたら元も子もないし、ちゃんと受けてもらうことになる。生きて居られるのはゲルダさんのお陰だから、ちゃんと迷惑かけないようにしないと」
「子どもたちだけじゃなくてさ、お前も俺が支えてやる。子どもたちはまぁ任せろ、お前はお前で俺たちより厳しいだろうし」
話し込んでいた部屋の外が徐々に騒がしくなってゲルダ直属の見張りも走っていった音が聞こえ、アンジェはアルトと目を合わせて頷き合って外に出る。次々と白の十字が描かれた衛生兵が城門に走って行く後を追い掛ける。
余程大事なのか、怒声と共にばたばたと足音があちこちで止まずに鳴り続ける。
「もっと輸血の血が必要だ!」
「止血用の包帯もガーゼも足りない!」
「万一の為にブロッケン卿をお呼びしろ!」
厩務員に手網を引かれる血濡れた馬が最初に見え、地面に顔が真っ白になった深手のゲルダが倒れていた。
「ゲルダ! なんて事だ……お前程の騎士がこれ程までに重症を負わされるとは、どこの誰だ」
「お父様……申し訳、ありません。陛下に、お伝え、ください。村は……焼きは……い──」
「分かった、もう休め。私が必ず見つけ出してやる、今すぐゲルダの行った村に捜索隊を放て」
すっと眠るように目を閉じたゲルダが運ばれるのを追うと、深くフードを被った杖を持つ者が3人集まり、光の灯った杖をかざす。すると少しうめき声を上げるゲルダの体の傷が塞がり、重症の傷を軽傷程度にまで瞬く間に治してしまう。
「すごい。これが魔法」
「驚いただろ。回復魔法は神より授かったもので、人間がどの種族よりも優れている証だ」
いつの間にか一緒に見ているだけの男が腕を組みながら自慢げに言い、ゲルダの呼吸が落ち着くのを見て何度も頷く。
「貴方は何もしてないですけどね」
「心配してたしずっと無事を願ってた。俺にはそれだけしか出来ないけど、俺は自分が今出来ることはしたぞ?」
「それしか出来ないのに、よく得意気に喋り続けていられますね」
「うぅ……最もだ、痛いところを突いてくる。名前は?」
「アンジェリークです。覚えなくて良いですよ、お城で無事を願うだけの人とは今後関わらないと思いますし」
「そうか。だが、俺はきっと何度も顔を合わせると思うけどな」
内心だけで気持ち悪さを留めて逃げるように部屋に戻ろうと振り返ると、何人かの従者がおどおどした顔で駆けていった。
「このような場所に! 殿下、将軍がお困りです。いつも訓練場に来ないと嘆いておいでです」
「俺は剣より策の方が得意なんだ。それに剣なら弟にやらせればいい、才能のある者が才能を発揮出来る事をするべきだろ」
殿下と呼ばれた少年は黙ってその場を離れるアンジェを追いかけようとするも、自分を取り囲む従者に連れられ、反対の方へ引っ張られていく。
「覚えたからなアンジェリーク! また会おう」
振られる手にも、掛けられた声にも振り返らずに部屋へと戻る道を歩き続ける。




