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モンスター
誰も気に掛けない程の片田舎にある名前の無い村の森で、澄み渡った空気を切り裂く音が2つ。ぶつかる度に音を響かせ合い、どちらかが音を上げるまで終わらない打ち合いが続く。
少女が振るった木剣を受けながら刀身を滑らせ、反転してすれ違いざまに背中へ一撃を入れる。べしゃっと前に倒れ込んだ少女はしばらく立ち上がれず、うずくまって痛みに悶えていた。
「これで俺の398勝だな」
「最近まで負ける方が少なかったのに……もう1回!」
「まだやるか? 今日で400勝行ってやる!」
立ち上がってくるくると剣を回しながら構え直した少女が踏み込もうとした時、森の少し奥からしゃがれた声が2人を制止した。
「いつまでやってるんだお前たち昼メシだ、じじいを飢え死にさせる気か」
じじいと言うには若々しい男の言葉に2人は剣を下げ、一瞬目を合わせて反射的に走り出す。
「先に家に着いた方が勝ち!」
「妨害ありだから!」
瞬く間に男の両脇を少年と少女が駆け抜け、1人残された男は困った顔ながらも笑って家に歩き出す。