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救出7☆

 振り返った先の六つの眼がこちらを見ていた。

 しかしそのうちの二つが、はっと弾かれるように上に逸れる。

 その理由が何なのか、こちらが考えるよりも早く答えがもたらされ、反射的に俺もまたそちらに目を向ける事となった。


 「明るい……?」

 きっとUFOにさらわれた人というのが見る光景というのはこういうものなのだろう。

 月明かりだけに照らされ、その弱い光も生い茂る木々によって地表までは完全には届かない森の中。そこが突然、舞台の上のように照らされる。


 「いけない!伏せて!」

 その声を発したのは最初にその異変を察した人物=フレイの隣にいたシェラさんだった。

 「!?」

 反射的に指示に従う。

 彼女たちも同様に木の根元や茂みの中に屈みこんでいる。

 巨大な光は、ゆっくり、ゆっくりと俺たちの頭上からどこかに移っていく。

 やがて光の範囲から外れた俺たちを再び暗闇が囲み、光はもっと先の、森を抜けた荒野の方を照らしながら収容所に向かって飛んでいく。


 そう、飛んでいくのだ。

 光が離れていき、それに合わせて立ち上がった俺は、その突然の光の正体を木々の合間からはっきりと見た。


 「なんだあれは……!?」

 巨大な翼が、悠然と羽ばたいている。

 巨大な、そう巨大な。生半可な大きさではない。

 この距離でさえも、その光を纏った羽が、一枚の上に家を建てることだってできるだろうという巨大さであることが分かるぐらいには大きい。


 「不知火山繭(しらぬいやままゆ)……」

 「凄い……本物は初めて見た……」

 その正体を知っているのだろう姉妹は、その名をぼそりと、思い出したかのように口にした。

 不知火山繭――不知火という部分が示す通り、無数の光の粒子のようなものを纏った巨大な羽は、その真下の地面を昼間以上に明るく照らし出し、先程以上に距離の開いた今では空中に浮かぶ光の塊のようにも見えている。

 しかしそれが光の“塊”ではないということは、先程見た姿と“山繭”という名前がしっかりと主張している。


 それは蝶々か、或いは蛾か。

 二対四枚の光の羽を、そのサイズに良く似合うペースで動かしながら悠然と空を飛ぶ姿は、距離感が狂っているのかとさえ思える巨体を別にすれば間違いなく蝶か蛾のどちらかの姿だった。


 「不知火山繭……」

 今しがた聞いた名前を口の中で繰り返す。

 「あれは『夜の王』とも呼ばれる召喚獣の一種です。やはり、召喚術師がいるという話は本当だったようですね……」

 フレイが今しがた口にしたものの正体についてそう教えてくれた。

 「幸い、あれ自体はとても大人しい存在なので、こちらに危害を加えることはないとされていますが――」

 そこから先はシェラさんが引き継ぐ。


 「あの光で照らされれば多少の物陰など無意味だな」

 誤差の範囲ではあるが少しずつ小さくなっていく光を憎々しげに睨みつけながらのその言葉が、これから俺たちがしなければならないことを俺にもしっかりと理解させた。

 あいつは恐らく巡回しているのだろう。俺たちのような連中が収容所に近づかないように。

もしあれに見つかれば、その時はすぐに連中が動き始めるはずだ。

 こちらは暗闇で目が効かないなかで、向こうは接近する相手をあの強力な光で照らしだすことが出来る。それもこの森を抜ければ碌に遮蔽物もない荒野の中で。

 向こうにとってはこれ以上ない程に適任な召喚獣だろう。


 そこまでを踏まえたうえで口を開く。

 「とはいえ……」

 続きはセレネ。

 「行かない訳にもいかないよね」

 「ああ」

 ここに来て引き返すなんて選択肢はない。

 俺たちはシギルさんを助けるためにここに来たのだ。


 「流石にあの光だ。近づいてくる時は遠くからでもよくわかるし動きも遅い。先読みして躱して進もう」

 俺のその考えは全員頭の中にあったようだ。

 そのあとすぐに森を抜けて荒野に出た時には、八つの眼は常に目的地――の屋根の上に向いていた。

 収容所はいくつかの建物が山脈に沿うように並んでいて、その中の一番高い建物=他の建物の倍近い高さを誇る監視塔の屋根の上に器用に止まっている。

 巨大な羽を広げた状態で、小さな櫓でしかない監視塔の屋根の上で休んでいる不知火山繭。

 光の量は流石に落ちているものの、飛行中以外も青白い光を発していて、羽の輪郭は暗闇の中に――相変わらずバランス感覚を失わせる巨大さで――浮かび上がって、不思議さとも気味悪さともつかない姿を暗闇に浮かび上がらせている。


 「止まっていますね」

 「ありがたいことにね」

 俺とシェラさんはそう言葉を交わして先頭に立ち、月明り=微弱だが安全な光を頼りに目的地に向かって足を動かす。

 目線は監視塔の上のデカい羽。

 あれが動き出せば、その時にはすぐにどちらに動くのかを見切らなければならない。


 「ねえ、何か聞こえる……」

 「え?」

 セレネの言葉に、あの巨体以外のものに久しぶりに目を向ける事となった――と言っても、周囲360度の暗闇に目を凝らして、だが。

 「本当か?」

 「確かに聞こえたよ。人の声とか馬の足音とか」

 人の声。馬の足音。

 そこから考えるべき可能性――こういう時は臆病なぐらいでいいだろう。


 「チッ、動いた!」

 シェラさんの声。

 目的語を省略しても何のことかは一目瞭然。

 そしてその事実が、セレネの言葉に説得力を与える――最悪の説得力だが。


 「こっちに向かってくる!」

 再びシェラさんの言葉を視覚でも理解する。その後彼女が発した言葉についても、また。

 「クソ、さっきより速い!」

 「みんな伏せろ!」

 巨大虫が光の帯を伴ってこちらに突っ込んでくる。

 あれに見つかってはならない――そう考えた瞬間、指示を口にし、自分が真っ先にその手本を示しながらも、同時に違和感が頭の中を駆け巡った。


 「……!」

 地面の冷たさを感じながら顔だけ持ち上げる。

 奴は確かにさっきより速い。

 まだ何かを探すように周囲に光を振りまき、地面に水玉模様のように光を当てているが、それでも先程よりも確実に探し方に違いが出てきている。

 いるかいないか分からない相手を探すのではない。確実にこの辺りにいる相手を探し出すための動き方――直感ではあるが、それを察した。


 そしてこの状況で奴らが探すもの――これは直感でも何でもない。


 「見つかった……!?」

 自分の中でたどり着いた結論。

 それを口の中から外に吐き出した時、まるでそれに反応したかのように不知火山繭の発していた光が俺たちの方に向けられた。

 「くっ!?」

 巨大なスポットライト。

 その中で動きを止めるが、しかしそれが既に無駄な抵抗であるという事は悟った。

 ――そして、無駄に終わってしまった以上は違う手段を採らなければ危険だという事も。


 「起きろ!見つかった!」

 「この気配……ッ!!何か来ます!」

 フレイの声。

 だがまだ周囲に敵の姿は見えない――空飛ぶデカい虫以外は。

 「とにかく逃げよう。照らされたままでは――」

 「ッ!!」

 だがその瞬間、俺にも何が起きているのか分かった。

 起き上がり、言うが早いが動き出そうとしたシェラさんの足元に、見たこともない影が出来ていた。

 シェラさん本人のものは不知火山繭の光によって彼女の足元に繋がっている濃ゆいものが一つある。

 そのごく当たり前な代物の横に、もう一人分のそれが、まるで背丈を比べているように並び立っている。


 「シェラさん危ない!!」

 咄嗟に叫び、それに反応した相手の、それまで頭があった場所に一本の線が通り抜けた。

 「なんだコイツ!?」

 飛び退けて不意打ちを回避したシェラさんが叫ぶ。

 襲い掛かってきたのは新しい影だった。

 シェラさんの影の横に突然現れた主なき影。それはこちらが認識すると同時に、2Dから3Dへと姿を変えた。

 謎の影改め質量を持った真っ黒い何者か。

 突然現れたそいつがとった行動は、すぐ横にいたシェラさんの頭を狙っての不意打ちをかますことだった。


 「クソ!こいつも召喚獣か!?」

 叫びながら突然の敵にナイフを抜いて正対するシェラさん。

 助けなければ――そう思った瞬間、俺のすぐ横、視界のぎりぎりのラインの上で、何者かがむくりと起き上がった。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日はここまで。

続きは明日に。

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