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デンケ族8

 それからどれほどの時間が経ったのだろう。

 自分が不意打ちを受け、スイとともに捕らえられたという事を意識する――つまり、それが分かるほど意識が戻ってきたのと同時に、冷たく硬い感覚が皮膚を伝ってきた。


 「ぅ……」

 ぼんやりと目を開ける。

 しかし世界は暗いまま。

 「……」

 何度か目を開き、また閉じる。少しずつ慣れてきた目は、自分が宇宙空間でも死後の世界でもなく、暗い場所にいるという事を教えていた。

 世界が横倒しになっている――自分が寝かされていることに気が付くのにそれから数秒を要した。もし体に触れている冷たいものが硬い土の床であるという事が分からなければ、或いはもっと長い間朦朧としていたかもしれない。


 油断した。

 自分の状態が分かってくれば来るほど、その事実に押しつぶされそうになる。

 どうやら手錠をはめられているらしい。その上感覚からして服は着ているものの、武器とその他の持ち物は――当然と言えば当然だが――全て没収されてしまった。


 「……」

 そこで顔を上げて辺りを見回す。

 恐らくは地下室だろうということは何となくわかる。

 その決して広くない空間にもう一人誰かいることも。


 「……誰かいるのか?」

 返事はない。だが影が動く。

 「スイ……?」

 影が動く。ゆっくりと慣れてきた目がそうではないと告げている。


 「――だ。ようやく――」

 何かの声が近づいてくる。

 一人が話し、もう一人がそれに相槌を打つ。

 どちらも男の声。片方は最近聞いた。

 その声を発している巨大な蛍=一瞬後にランタンの明かりだと気が付いて、咄嗟に顔を伏せる。

 そんな私に気が付いた様子はなく、蛍を挟んだ男二人が私の頭の延長線上で足を止めた――光によってその間に鉄格子があることに気が付く。


 「……それで、今日の奴らはどうするんだ?貯蔵庫行きか?」

 それまで相槌を打っていた側の男が相方に何かを尋ねる。

 貯蔵庫という聞き覚えのある単語にうっすらと目を開けると、その発言者も見知らぬ人物ではないという事が分かった。

 どこか頼りない声の、やせこけた小男=過去の映像に出てきたブレントとかいう男だ。


 そしてその発言に、その相方=私を寝かせたあの男が答える。

 「いや、あいつらはどちらもあの方の所に送る」

 「二人とも?小僧の方だけじゃないのか?」

 文脈からするに今日の奴らという連中は二人いるらしい。そして片方は少年或いは青年らしい。

 思い当たるのは一組しかいない。

 「いや、女の方もだ。と言っても、そっちを連れ出すのは女牢の本来の責任者が戻ってからだがな」

 どうやら私はここを出られるようだ。

 そしてあの方とやらとご面会させて頂けるらしい――何のことやら見当がつかないが。


 「どうしてだ?小僧の方が陽性だったのは聞いたが……」

 小僧≒スイが陽性。恐らく血を採られたというのはその検査の時だったのだろう。

 なんの検査か知らないが、陽性反応が出ることがあの方に会う資格らしい――と言っても、恐らく医者ではないというのは確かだ。


 「この女、妙な反応を示していてな――」

 もう一人の男=ハルジクがこちらにランタンを向けるのを、直前に悟って顔を伏せる。

 「検査キットを使ってみたが、魔術師とも能力者とも似て非なる妙な反応を示している。こんなことは初めてだ」

 「こいつ……そんなにヤバイ奴なのか?」

 ブレントの声に頼りなさが増す。

 ――もし私の正体を知れば更に震え上がるかもしれない。


 「反応としては能力者に近いがそれとは違う、おかしな話だが、一緒に渡されたマニュアルに載っていた中で一番近い反応はモンスターのそれなんだ」

 一体何の検査キットなのかは知らないが、少なくとも精度は信頼できるものらしい。

 「モ、モンスターだって!?」

 「大丈夫だ。こうして捕らえているし武器も取り上げて手錠までしている。手錠の鍵を管理しているのはお前じゃないか。収容主任殿」

 「そ、そりゃあそうだが……」

 全く、一体どっちが捕虜なんだか分からない臆病者。

 「第一なんで俺が女牢まで……本来ここはあいつの管轄だろう……?」

 「まあ、そう腐るなよ。この前の“お土産”以来、あいつは族長のお気に入りだからな。そのうち、お前に指図するようになるかもな」

 そう言ってハルジクはおかしそうに笑う。

 ブレントがぶつぶつ何かを言おうとしているが、同時にハルジクがこちらにランタンを向けたのが、伏せている地面と私を照らされることで分かった――同時に目を閉じた。私は何も聞いていない。


 「安心しろって、見ての通り丸腰ならただの女だ。じゃなきゃ捕らえられなかったさ。目を覚ましたって、抵抗するようなら大人しくさせろ、腰のものも肩書も飾りじゃないだろ?ブレント収容主任殿」

 「ちぇっ、バカにしやがって……」

 どうやら私が暴れだしていないか巡回に来たようだ。

 それで用は済んだのか、瞼の裏の明るさがふいっと消えた。


 「それじゃ、俺は小僧の引き渡しの準備をしなきゃならん。あいつが来たら、女の方を連れ出すよう伝えてくれ」

 「はぁ……分かったよ。それで、貯蔵庫にはなんて言っておくんだ?」

 「どうせ“引く”のは明日だろ?それに向こうにもまだ在庫がある。もしせっつかれるようなら他の奴適当に渡せばいいさ」

 そんな言葉を交わしながら二人の男は遠ざかっていく。

 ランタンの明かりが消えてから頭の中を整理する。

 まず、スイと私は引き離され、スイの身柄はハルジクによってこの後何者かに引き渡される。

 そしてその後、女牢の責任者が到着し次第私もその後を追ってその誰かに引き渡される。


 余談:水車小屋で少女が語っていた見張りの髪の短い女がその責任者だと思われる。そしてその責任者は“お土産”によって族長のお気に入りとなった。

 ――その条件に合致する人物が、なんとなく一人思い浮かぶ。向こうは私など知らないだろうが。


 話を戻す。仮にその時までここでじっとしていたとして、その責任者殿がやってきて私の身柄を預かり、何者かのもとに送ったとする。

 当然ながら、ここからその引き渡し場所まで自由に歩かせるとは思えない。

 そしてこれも当然ながら、監視や護衛が一人もいないという可能性もまずないだろう。

 つまり、何か行動を起こすにしてもそいつらが到着してしまったら時間切れという訳だ。


 「さて……」

 そう結論付けて体を起こす。幸い体に痛みはない。

 それから先程の影の方にもう一度顔を向け、じっとその人物に目を凝らす。

 「どうも……」

 声をかけてみるが返事はない。

 だが死んではいないし、眠っている訳でもないし、敵意を持っている訳でも機嫌が悪い訳でもないようだ――いや、最後の奴は厳密に言えば違うが。


 闇に慣れた目がその人物の姿を徐々にだが明らかにしていく。

 そしてそれに伴って生まれる新たな理解――私は相当恵まれた状態で捕まったようだ。


 その人物は腕にこそ私と同じ手錠を着けられていたが、他の部分はだいぶ違う。

 まず衣服だ。その人物はボロボロの衣服――というより布を纏っていた。

 元々その格好であったという訳では多分ないのだろう。囚人服という事か。

 そして頭の丸いシルエットがそのまま浮かび上がっていた。いや、頭だけではない。よく見ると眉毛もそり落とされていた。

 生まれたまま、生まれ落ちた瞬間のままの姿にされているが、その人物は女性――それも恐らくまだ若い女性だった。


 恐らく服と同様に逃走防止用なのだろう。もしかしたらあの少女が逃げ出したことで監視が強化されたのかもしれない。


 彼女は狭い牢の端っこにじっと座ってこっちを見ている。

 私のことをどう思っているのかは分からない。

 だがきっと彼女はさっきの話を聞いていただろう。即ち、もし明日の朝まで彼女が生きていれば、貯蔵庫とやらに連れていかれる可能性があるという事を。

 「えっと……初めまして」

 今できる限りの穏やかな声で語り掛ける――相変わらず反応はない。

 「えっと……私は敵じゃない……」

 反応はない。

 ――ええい、仕方がない。信用できるかはまだ分からないが、ゆっくり心を開いて信頼関係を築いている時間はない。


 「あの……そんなに厄介なことはやらせないから安心してほしいんだけど――」

 他に聞こえないように少し声を落とす。

 「――今から脱獄するから協力してくれない?」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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