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デンケ族6

 「どうしてメリルさんがここに?」

 「いや、私も探していた相手がここに来たらしいと知ってね」

 そのまま言葉を交わすと、どうやらごろつき共も私たちの関係に気づいたようだ。

 「お知り合いですか?」

 尋ねたのはデカいの。その相手は彼の背後にいた少年。

 「ええ。以前助けていただいた方です。ここに来る前に一緒にラチェに行ったことも」

 どうやらスイとこいつらは知り合いらしい。

 ――こいつらが敬語で尋ねている辺り、絡まれていたという訳ではなさそうだ。


 「ところで、君はここには何をしに?」

 「僕は依頼を受けて、それにその方から、兄の情報を知っていると伺ったので」

 そう言う彼の周りにはしかし、その依頼人らしき人物は見えない。

 そして私がそれを不審に思っているという事は彼も気づいたらしい。

 「その方は、今は別の場所にいらっしゃいます。何でも私の手が必要になるのは今日の夜とのことですので……」

 なんとも抽象的な話だ。

 詳しく聞きたい――そして怪しい話であれば何とかして手を引かせたい――話だ。


 「それで、メリルさんの方はどうですか?」

 「いや、私もまだ見つけてはいないよ」

 手掛かりは見つかったがね。とは言わないでおく。

 彼には私の能力について――それとその由来となる私の正体について――具体的なことは話していない。


 それからちらりとマルクおばさんの家を見上げる。

 ここの中に入り込めれば手掛かりも得られるのだろうが、流石にそれは憚られる。

 ましてやなんの囲いも存在しない辺り恐らく私有地という訳ではないのだろう家の裏手をうろつくだけで面倒な連中に絡まれるような状態である。明確に犯罪に問われる行為をすれば、露見した場合が恐ろしい。


 「ああ、そういう事なら」

 そこで口を挟んだのは、その面倒な連中の一人だった。

 「長のところに行くといい。スイさんのお知り合いなら話も通るだろう」

 渡りに船――だが都合がよすぎる。

 「ああ。そうですね。僕からも聞いてみます」

 その感覚は私だけのようだ。

 先に彼らに接していたスイには彼らへの不信感はないように思える。

 ――篭絡はこいつらの特技か。


 「君はこれからその長という人に家に行くのか?」

 「ええ。というか……こちらにいる間の宿として使わせていただけるとのことでしたので」

 こちらにいる間の宿。

 つまりあそこに寝泊まりするという事。

 「……因みにだが、君がここに来たのはいつ頃だ?」

 「昨日の夕方でしたが……それが何か?」

 「いや。何でもない」

 ふと考える。

 あの水車小屋の少女の話によれば、拉致された者は地下室のような所に閉じ込められていたという話。

 ――そしてマルクおばさんの家と族長の家は地下で繋がり、その途中に地下室があったという事。


 「……分かった。それじゃ、族長の所に案内してもらえるかな」

 「はい。こっちです」

 スイの表情がぱっと明るくなったように思えるのは私の気のせいだろうか。

 だが私のそれは、きっと会った時より硬くなっていただろう。

 「……」

 気をしっかり持て。

 やるべきことをやれ。

 あそこで何が起きているのかを探り、あいつら一行の足取りを探り、可能な限りスイを危険から遠ざける。

 スイと私が並んで歩き、その前に道案内として三人のうちの一人が、後を残りの二人が挟む形で歩きはじめる――逃がさないためだろうか。


 「……ありがとうございます。一緒に来てくれて」

 それからすぐ、スイは三人に聞こえないように声を落としてそう言った。

 「何を言っている?礼を言うのは私の方だよ」

 「……正直、僕一人では不安でもあるんです」

 答える前に前を行くダガー持ちの男に目をやる――こちらに気づいた様子はない。

 続いて背後の二人――よそ見と無駄話。


 「……何かあったのか?」

 「いえ、ただ……なんとなく妙な依頼だったので……」

 そう語る彼の声はどこか弁解する様に次第に小さくなっていき、視線も足元に下がっていく。

 「一体どんな依頼で?」

 妙という言葉は使わないようにして掘り下げてみる――前後の連中に漏れたとしても普通の会話として聞こえるように。

 「最初は魔術師を探しているという依頼で、ここの魔術薬師の手伝いと聞いていましたが、実際に会ってみると魔術道具の作成のために魔力を出せる人間が欲しかったようで……それで、依頼された方が今日の夜に実際に作成する道具の準備をなさっているそうです」

 そこまで話してから、彼も前の男の様子を気にする視線を送っている。

 男はまだこちらに気づいた様子はないが、それでも彼は慎重策をとることにしたようだ。

 声が明るいものに――つまり、世間話をするようなそれに変わる。


 「その魔術薬師という人が面白い人で、『個人的な研究の一環として』といって、いくらか追加報酬をくれて採血させてほしいと言われましてね。なんでも、魔術の素養とそれが肉体に及ぼす影響について調査しているのだとか……。初めて聞いた研究でした。面白いことを考える人もいるものですね」

 多分それは、彼の本音も少し含まれているのだろう。

 魔術の世界についてはよく分からないが、彼のその表情や声の感じからして本当に珍しい研究なのだろう。

 疑われないようにする演技半分。本音での驚き半分と言ったところか。


 だが、私にはそれを自然に聞くことが出来なかった。

 「……メリルさん?」

 「え?あ、ああ……」

 あの少女は言っていた。血を取られたと、そして連中は魔術師を探していたと。

 つまり、今の彼の話とは、ただ依頼か強制かの違いしかない。


 「な、なあ……スイ……」

 だが、どう伝えるべきだ?

 今伝えてどういう対処をするべきだ?

 肝心なところが思い浮かぶよりも前に、先頭を進んでいた男が声を上げた。

 「着きましたよ」

 その声と、指で示された建物を見上げる。


 あの間取りが無理もない大きな屋敷と、その周りをぐるりと囲む土地と高い壁。

 そして、すぐ後ろには山がある立地――地下室のある、山に近い建物という、あの少女の証言と一致するそれが、目の前に現れた。


(つづく)

今回も短め

続きは明日に

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