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得られたもの、求めたもの3

 ――いやはや、まったく。平和なことで。

 「はぁ」

 小さくため息。唐突にのろけ話を見せられるとは思わなかった。


 知らぬが仏とはよく言ったものだ。奴とフレイという娘が二人並んでもじもじ恥じらいながら月の合間に見ていた森では、とんでもないことが起きつつあったというのに。


 ちらりと隣のスイを見る。今の私のため息には気づいていないようだ。

 恐らく奴と一緒にいたあの娘たちは魔術師としてや冒険者としてはスイより優秀なのだろうが、あの森での一件のような事態の究明には私の今の相棒の方が一枚上手だ。


 まあ、物事の得手不得手、或いは教育の方針とはそういうものかもしれない。

 仮に彼が考古学者や歴史学者のようなことが得意でなかったとしても、術官院の教育方針か――或いは単に試験での足切り回避のためにか――様々な方面の知識を持っていたことは幸いした。


 「それはともかく――」

 これまた誰にも聞こえないよう小さく呟いてから、話し込んでいる冒険者の一団に目をやる。

 その輪に新たに加わったのが一人。白髪の老人だが、恐らく昔はここに集まる連中と同類だったのだろうという事はなんとなくその話し方や雰囲気で察した。

 そして彼を囲んでいる連中の様子から、どうやらこの男がギルド長なる人物なのだろうということも、また。

 彼がちょうど居合わせてくれたことで、呼びに行くか押しかけるかする手間が省けたようだ。


 「あなた方が森に降りたというのか?」

 老人は冒険者たちと一言二言かわしてから私の方に目を向けてそう尋ねてきた。

 「ええ。依頼という訳ではないのですが、ちょっと訳アリで――」

 それから再び、先程の話を彼に伝える。

 その間彼は無言。何かを考えるように顎に手を当ててじっと一点を見つめていた。


 「成程な……」

 話を終えた時に返ってきたのは重々しいその言葉だけ。

 「よく伝えてくれた。礼を言うよ」

 それから静かに、しかし響く声でそう続く。

 それに続いたのは周囲の冒険者たちの対照的に大きな声だった。

 「やっぱりあそこは一度徹底的に手を入れた方がいいぜ」

 「俺もそう思うな。前から妙な噂やら人やら見かけたって話もあっただろ?やっぱり何かあるんだよあそこは」

 「やるなら、俺たちだって手伝うぜ」

 最後のが本音だろう。

 ちゃっかりと営業活動という訳だ。

 ――だが、気になるのはその前。


 「妙な噂?人?」

 「ああ、ちょっと前からなんだがな――」

 聞き返した私に、その冒険者の男は古い記憶を思い出すように一度天井に目をやってから語りだした。

 「どれぐらい前からだったかな……。あの森にふらっと入り込む奴が現れるようになってな。まあ、この町の人間ならそんなことは珍しくなかったし、水の組み上げだってやってる訳だ。その関係の人間が出入りすることもあったが、そういう連中とは違っていたって話だ」

 「つまり、この町の人間以外が現れて入り込むようになった?」

 例えば私たちのような。

 それに対する回答はイエスだった。


 「ああ。確かそういう奴を見かけたって話は大抵町の誰も面識のない人間だったという話だが、だが妙なのはそういう奴が目撃されるのは大体夕方から翌日の明け方頃で、まともな人間なら森に入っていくような時間帯じゃねえってことだ」

 仮にモンスターが出なかったとして、その時間に森に足を踏み入れるのは確かに自殺行為だ。

 例えこの町と隣接しているとはいえ、決して小さな森ではないし、実際に歩いてきたように平坦な道ではなかった。


 「で、その上だ、あの森に入っていく連中っていうのはなんていうか、あんまり元気のあるようには見えねえっていうか……、なんていうかそうだな、まるで眠ったまま歩いているというか、有り金全部すっちまったみてえな、生気の抜けた様子で、ふらふら入っていったらしいんだよ」

 「それは……確かに妙だ」

 「だろう?最初は馬鹿な酔っ払いか自殺志願者かと思っていたんだが、余りにもそれが続いたもんで、今ではあんたらも通ったみたいにゲートが設置されて、市壁の閉まるのに合わせて施錠するようになってな」


 それまであのゲートはなかったらしい。

 モンスターが出る森に対してあまりに無防備な気がするが、まあそれはいい。それより重要な点がある。彼の様子からしてまだ話が終わっていないという事だ。


 「それと前後するように、今度は怪しげな男を森で見たって話が出るようになった」

 怪しげな男。

 男の部分に兄を思い出したのか、スイが身を乗り出す。

 「その男って、どのような感じでしたか?」

 「どのようなって……俺が実際に見た訳じゃないんだが……」

 それからもう一度天井に目が行く。

 一拍の沈黙の後に再開。


 「フードをかぶった男だったとのことだよ」

 そこでその話を聞いていた彼の相棒らしき男が口を挟む。

 「ああ、その男なら宿屋の女将も見たとか言っていたな」

 スイと目が合う。

 ほぼ間違いなくこのフードの男は彼の兄と一緒にいたという男だ。


 「それっていつ頃のことですか?一緒に誰かいませんでしたか!?」

 かぶりつくように尋ねるスイに男たちも面食らったようだ。

 「ま、まあ落ち着いてくれよ。確か……一か月前かそこらだったような気がするな」

 一か月前と言えば、女将の話とも合致する。

 「いや、でもそれ以前にも何度か現れたなんて話もあるから、実際にはいつ頃からいるのかは分からないがな。ただ、一か月前には若い男と一緒にいるのを見た奴がいた……気がする。ああ、そう言えばその後にもその二人を見たって奴がいたな」

 更に確度が上昇する。

 スイの兄と思われる男は、この町に出現しているフードの男と一緒にここを訪れている。


 そしてその時にあの森に入り――そこで消息を絶ったが、その後再び現れている。

 つまり、あの森でモンスター共に殺された可能性は否定される。


 その事実はスイの顔に明確な安堵を浮かべさせていた。


 「それぐらいしか俺らには分からんな」

 「そうですか……」

 そこで情報は終わりだったが、最後に得られた事実だけでも彼にとっては十分なものだったのだという事は痛い程よくわかった。

 「分かりました。ありがとうございました」

 男たちに礼を言うスイ。

 まるで兄を見つけてもらったかというぐらいに、その頭は深く下げられていた。


 「それで、どうするんだギルド長」

 私たちの話が終わり、本題へ戻る。

 尋ねられた老人=ギルド長は少し考えてから結論を出した。

 「正直なところ、ここ最近のこの森での出来事は尋常ではない。領主様に報告する」

 「えっ、おいおいおい!マジで言ってんのか!?ここは冒険者ギルドだぜ?俺たちで――」

 「儂とてそう思うさ。だが、さっきの話を俺のところに持ってきたのはお前らだ。なら分かっているだろうお前らも。この件はこんな田舎ギルドの手には余る。領主様を説得して衛兵隊に森を封鎖するように言ってもらう」


 頼りないと見るか、冷静と見るかは人によるだろう。


 「お前らの気持ちはわかるがな」

 そう付け加えて若い連中を諫めてから、老人は締めに入った。

 「とにかく、お前たちには橋を直す人手が揃ったらそいつらの護衛の仕事がギルドに入ってくるだろうから、そっちを考えていてくれ。あの橋が元に戻れば、最悪の場合でも助けを呼べるし、女子供も逃げられる。森に突っ込むのはそれからだ」


 それを聞いていた一人が食い下がった。

 「……もし、もしだぜ?もし領主の決定が俺たちに任せるだったら?」

 今まで通りに、と最後に付け足した質問に、ギルド長は小さくため息をつきながら肩を竦めて見せた。


 「そうなれば、橋の修理を最優先にして、人とモノを揃えるまでは森に入らず守りを固めろとお前らに伝えるだけだ」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に。

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