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得られたもの、求めたもの1

 「よし、戻ろう」

 その事実を己の中に飲み込んで私はスイにそう告げた。

 「とりあえず、ここに私の探している相手が来ていたことは分かった」

 そして次に取るべき手も大体定まった。

 「本当ですか?では次は――」

 奴の足跡を追える私の能力を知らないが故に当然ではあるが、スイが戸惑ったような声を上げる。


 「次はまたアーミラに帰るさ。だがその前に、一度ここのギルドに寄っておこうと思う」

 ラチェの冒険者ギルドは一度前を素通りしただけで、まだ顔を出してはいない。

 「ラチェのギルド……ですか?」

 「ああ。見ての通り、ここにいるモンスターは明らかにこの辺りに本来生息している代物ではない。つまり誰かが何かの目的でこいつらをここに放ったという事だ」

 正確に言えばはるか昔のロストール人がやったという可能性が高いのだが、それにしても生体兵器が野放しになって暴れまわっているのは安全とはいいがたいだろう。


 アルラウネの討伐依頼を出していたことを考えると既に把握している可能性はあるが、それでもあのクラゲに関しては報告しておいた方がいい。先程倒したのが最後の一匹であるという保証はどこにもないのだから。


 「少なくとも、水鏡クラゲについては教えておいてやった方がいいだろう。誰かがここに立ち入って、帰ってきたときには別の誰かが成り代わっていました……なんてことを避けるためにもな」

 「そうですね。この状況は確かに異常ですし……ッ!?」

 不意にスイが後ろに目をやる。

 川の上流の辺り、私たちが歩いてきた例の遺跡がその視線の延長線上にある。


 「どうした?」

 「いえ……今、誰かに見られていたような……」

 言われてみて私もそちらに目をやるが、残念ながら――いや幸いにもか――それまで通り時々鳥がさえずるだけの静かな森が広がっている。

 「何かいるか?」

 「勘違いだったのでしょうか……」

 小さくため息を一つ吐くスイ。

 彼の勘の鋭さは分からないため何とも言えないが、とりあえず私が見る限りは何も見えなかったし、特に何者かの気配も感じない。


 「まあ、とりあえず一度森から出よう。アイテムの補給も必要だし、少し疲れた」

 正直な感想。

 まだ水鏡クラゲがいたとして、ヴィーラと同等の性能でまた水辺で遭遇した場合それなりに手を焼くだろう。

 戦闘技術自体は単純なものだが、それでもあのスピードとしぶとさは脅威だ。


 「そうですね。お腹、大丈夫ですか?」

 「ああ、少し痛むが、歩くのには問題ないよ」

 先程刺された場所に手をやる。

 幸い革の胴鎧に穴が開いた様子はない。

 「貫通はしていない。痣にはなっているかもしれないが」

 そう言うと、スイは早速鞄から小さなガラス瓶を取り出す。

 中にはグリーンピースぐらいの大きさと色の玉。

 「これ、良ければどうぞ。痛み止めと兼用の回復薬です」

 「ありがとう。助かるよ」

 お言葉に甘えて一つ頂戴する。

 プラシーボ高価なのかもしれないが、飲み込んですぐに腹部の痛みが和らいだような気がした。


 それから帰り道。

 幸いなことに樹人にもデモンスパイダーにも水鏡クラゲにも――スイが感じたという視線の主にも――遭遇せずに先程くぐったゲートへと戻ってきた。


 「まずはギルドへ報告しよう」

 確認のためもう一度スイに告げる。

 流石に彼もあの戦闘はハードだったのだろう、その表情には疲れが見える。

 ――だが恐らく、戦闘だけが理由ではない。


 「……ギルドに報告したら、場合によってはここでクラゲ狩りをすることになるかもな」

 「え?」

 杖につけていた捜索用の翼部分を外しながら、私の漏らした言葉に彼は反応した。

 期待した通りの反応に私は努めて明るく続きを口にする。


 「そうすれば、そこに仕事が生まれる。当然、ここの勝手を知っている私や君にも、な」

 収入源と名前を売るチャンスだ――そう続けてやると、彼も少しだけ一緒に笑った。

 「……それに、ギルドで名前が知られれば、情報収集もやりやすくなるだろう?依頼が出ればその分人も集まりやすいしな」

 そう付け足してやると、彼ははっと息をのむのが聞こえるような表情を見せてから、大きく頷いた。

 彼からすれば今回の件は、ただ単に不安が増大するだけのものだったのだろう。明らかに人の手が入った森と何者かが配備したモンスターの中で消息を絶った兄。


 ならせめてポジティブな考えをする材料ぐらいは見つけてやろう。

 ――何故そんなことをする気になったのかは分からないが。


 ゲートをくぐり、町の中へ戻る。

 衛兵の詰め所を超え、がけっぷちにせり出した店の前を通り、坂道を登れば町のメインストリートだ。

 目指す冒険者ギルドは、私たち――それと過去にはあいつら一行も――が部屋を取った『笑う山猫』亭を超えた更に向こう、町の出入り口の前に位置する。


 町の規模に合わせて、アーミラのそれより小さいその建物の前には、一目でそれとわかる連中が屯していた。

 「お、さっきの」

 そのうちの一人がこちらに気づいて小さく会釈する。

 そのたむろしている連中が旧街道で出会った樵の護衛部隊だということに気づいたのは、それから一拍後のことだった。

 「あ、どうも」

 こちらも会釈を返す――私のそれを見てスイも相手が誰なのか思い出したようだ。


 「あんたの言っていた場所はもう大丈夫だよ」

 「本当は橋の方をすぐに直してほしいものだがな」

 こちらに気づいた一人の言葉に、その仲間が付け足す。

 違いねえや――それに別の誰かが付け足して小さく一笑い。

 「それはお疲れ様です」

 一緒に笑いあってから考える。恐らく彼らはここを拠点にしている冒険者だろう。

 なら森のことを話しておいた方がいい。


 「実は今森の中に降りていて――」

 彼らにはかいつまんで説明する。

 具体的にはアルラウネの残骸を発見したことと、本来ここに生息しないはずの水鏡クラゲがいたということ。

 ロストールの生体兵器だとか、人造樹人だとかは伏せておく。色々説明が面倒くさい。

 アルラウネに関しては彼らも事件のあらましを知っているかもしれないが、あえて誰がやったのか知らないていで聞いておく。何らかの情報が得られるかもしれない。


 「マジかよ……」

 どうやら彼らは何も知らなかったようだ。

 灯台下暗しという奴だろうか。

 「一大事だぜ」

 「とにかく、ギルド長に報告だな」

 仲間内でも私たちと同じ結論に達したようだ。


 彼らと一緒にギルドの扉を開けて中へ。

 「おい、ギルド長は?」

 たまたま近くにいた、恐らく馴染みなのだろうギルド職員に私に最初に気づいた男が話しかける。

 「多分部屋にいると思いますけど」

 「よし、部屋だな」

 そのやり取りを横目に見ながら、私は他の連中がそちらに注目していることを確認してロビーの片隅に向かう。


 此処にも奴は立ち寄っていた。

 光る足跡はロビーの中央を向いている。

(つづく)

このところ短い話ばかりで申し訳ありません。

今日はここまで。

続きは明日に。

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