表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/173

最初の一歩3

 「……ふう」

 崩れ落ち、頭の後を追って無数の欠片になった胴体を見送ってから、唯一砕けずに残った剣の柄だけを放り捨てると、静かになった廃墟にカランと音が響いた。


 「よくやってくれました」

 ノイズが消えたクリアな声が再び空から降りてきた。

 「残念ながら、私の今の力はこの程度です。聖堂に魔物の侵入を許し、それどころか声すら聞こえなくなってしまう。聖堂の外では声すらも届かないでしょう」

 今の戦闘の言い訳――という事でもないのだろうが、申し訳なさそうな声がそう告げる。


 「ですが幸い、あなたはもうその体を十分に使いこなせるようになっております」

 「確かに……」

 答えながら実感する。

 始めて手に入れた人間の体だが、生まれつきそうであるかのように何の違和感もなく動かせている。

 ――だが、それだけで万事大丈夫というものでもない。幸い、人が生きていくのに何が必要かもしっかりと刻み込まれている。


 「ただ、この廃き……いや、聖堂の外でそちらの支援が受けられないのであれば、体一貫だけでは今後の追跡は難しいかと。一言で言えば先立つものが必要です」

 隠したって仕方がない。

 まあ、体で稼げといわれれば出来ない訳ではないだろう――恐らく。


 「勿論、それは心得ております。壊れてしまいましたが、祭壇の下を調べてみてください」

 幸いその辺は向こうも分かってくれた。

 言われた通り奴が叩き壊した祭壇の残骸をどけてみると、その下に棺のようないかめしい石の箱が安置されていた。

 流石に硬かったのか、奴の爪痕は残っているものの、破壊は免れている。


 「おお……?」

 見た目のわりにスムーズに開いたふた。

 その下から現れたもの――奴の目玉と瓜二つの宝石と一振りの刀。

 「先立つものと武器を用意してあります……私がというより、かつての私の信徒たちに捧げていただいたものですが」

 捧げられた本人――本柱か?――が差し出してくれたのでありがたく使わせてもらおう。


 「それと、懐を確認してください」

 「ん……?」

 言われて初めて、何かが入っていることに気づく。

 言われるままに取り出したのは一枚のカード。予めセットされた知識が、その正体を無記名の武器類携行許可証であると教えてくれる。

 つまり、これからこの物騒な代物を持ち歩いてもお咎めなしという事だ。

 ――ただし、記憶にあるのはそれだけではない。


 「これ……本物?」

 普通、しかるべき役所でしかるべき審査と手続きをしてしかるべき手数料を納める必要がある。

 思わず漏れた疑問。それから一瞬の間。


 「……所定の手続きを経たものではないという点以外は本物です」

 大した神様がいたものだ。


 「ただ、外見上の区別はつきませんのでご安心ください」

 そっと懐にそれを戻す。海賊版の神を信じるとしよう。

 まあ、とにかく。これで丸腰一文無しではなくなった訳だ。


 用意された刀を手に取る。

 この聖堂の雰囲気には似つかわしくない、日本刀型の曲刀。

 やや沿った片刃の刀身と質素な丸鍔。さび止めを施した鉄の鞘と、ご丁寧に用意された幅広の刀帯。この辺りは日本刀のそれだ。


 だが鍔は刀身と一体成型で、柄も日本刀のようなソケット式ではなく、木材に滑り止めの溝を刻んだもので中茎を挟んで鋲で止めただけ。

 鋼塊を日本刀の形に削り出して、それに持ち手を付けただけのような代物だ。


 だが、十分実用に足りるということは、体が知っていた。

 鋭い切っ先を天に向けて、それから何度か振ってみると、成程先程とは打って変わって重さも特に感じず手に馴染む。


 「どうやら問題ないようですね」

 鞘に戻したところで空から声。

 「こんな状態で放置されていたにしては随分状態がいい」

 「それはオーマ鋼という、この世界独特の希少金属製です。不朽鋼とも言われ、帯びている魔力によって劣化することがないとされています」

 随分と便利なものがあるものだ。ステンレスの物凄い版といったところか。


 「先程のようにあなたの能力を発動しても、その刀であれば問題なく使用できましょう。勿論、その体に剣技は仕込んでありますので、実戦でも十分に扱えるでしょう」

 実戦――その言葉を聞いてふと思い立ち、再度新たな愛刀を引き抜く。


 「あー……その体、というか髪の毛ですが」

 「はい。なんでしょう?」

 「切ってもいい?」

 答えを待つ間もなく片手で首の後ろ辺りで束ねてうなじに刀身を滑り込ませる。切れ味も良好だ。


 「視界に入ると動きにくいもので」

 言いながら恐らく祭壇を支えるのに使っていたのだろう古い縄を一本残骸から引き抜いて適当な長さに切り、耳ぐらいの高さで纏める。

 うなじの辺りに毛先が触れるポニーテール。適当に結ったがこれなら邪魔になるまい。

 「お似合いですよ」

 「それはどうも」

 お許し頂けたようでよかった。


 「では、他に何もなければ追跡を始めてください。こちらの世界ではスマートフォンは使えませんが、相手の足跡を追う能力はあなたのいた世界と同様に使用できます。これより少し行ったところにある三本松のある高台を超えて、南側に向かって降りていくと小さな入り江に出ます。恐らくそこに彼の足跡があるはずです」

 「了解。そこに行けば?」

 言われた地形もすぐに頭の中に思い浮かべながら問い返す。


 「はい。そこには間違いなく彼が来ています。……追跡に加えて現地でもう一度詳しく彼を追ってほしい理由を説明することになると思います」

 そこであれば先程の質問に答えてくれるというのか。実際に見た方が早いだろうという事か。

 幸い、そんなに遠くではないという事は頭の中の地図から分かっている。その周辺に何があって、今日の夜はどの町を拠点にすればいいのかも。


 「では、行ってきます」

 「はい。よろしくお願いいたします」

 言葉を交わし、腰に巻いた刀帯に刀をぶち込むと、私はこの新たな世界に一歩を踏み出した。

 聖堂の廃墟を出てしばらく進む。頭の中にインプットされていたのと同じ光景が目の前で再現され、奇妙な感覚を覚えながら。


 聖堂の周囲は、あの廃墟が物語っているように誰も訪れないのだろう、建物同様に荒れ果てていて、腰の高さまで伸びた藪の中を漕いで進み、それを抜けてようやく道らしい道に出た時には、既に進行方向にひょろりと伸びる松が見えていた。


 「……」

 その松に向かって進みながら考える。

 何故奴は神に目をつけられているのだろうか。

 日本にいる時の奴は神に追われるような一大事とは無縁だった。

 一応高校時代クラスでいじめを受けていたそうだが、カウンセラーや心療内科の受診歴はなく、特にトラウマが残ったわけでもない。卒業後にネットの匿名掲示板で問わず語りに開陳する程度のダメージだ。


 つまり、よくある話。


 高校を卒業後、浪人生とは名ばかりの引きこもりニートになった19歳。SNSでアニメキャラのアイコンを使って平日の昼日向から青臭い政治論を垂れ流しながらガチャを回すだけの日々。


 無為、無気力、しかしネット上では饒舌。


 どこにでもいる若者の姿。

 それが奴だ。

 今現在人ならざる者から受けている扱いにはどうしてもギャップを覚える。


 「ま、今考えても仕方ないか」

 そう呟いて思考を打ち切る。

 どの道、この先の入り江に行けば分かるのだ。それなら今色々考えても仕方ない。

 三本松を超えて言われた通りに丘の南側に降りていくと、不意に涼しい海風が頬を撫でた。どうやら正しい方向に進んでいるようだ。


 「ここか……」

 そしてそれから体感で数分後、私は件の入り江に降り立っていた。

 私の他に人影は見えず、波の音に混じって沖の方からウミネコの鳴き声だけが聞こえてくるだけの静かな海岸を、乾いた砂に足を沈ませながら進んでいくと、不意に陸地側がむき出しの絶壁から一段高くなっただけの草原に変わった。


 「こっちか……?」

 代わり映えのしない海岸線から寄り道感覚でそちらに向かう――正直歩きにくい砂浜よりそっちに進む方がありがたい。

 それなりの広さのある草原。決して誰かが手入れしている訳ではないのだろうが、草の背丈は聖堂の周辺よりだいぶ低い。


 だが、草原の中にでんと置かれた大きな石に目が行ったのはそのためだけではなかった。


 「おっ、あれか」

 人の膝ぐらいの高さのある石。それだけなら他にも転がっているだろう。

 だが、その前で光を放っている見慣れた足跡――コンビニの前以来の。


 つまり、こちらで正解だ。


 「さて……」

 その前に膝をつき、光に触れる。

 奴はここで何をしていた?


(つづく)

今日はここまで

書き溜めてある分が終わるまでは毎日投稿予定です。

それでは、また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ