森の影を追って3☆
それから再び道沿いに南へ。
それまでと同様に俺を先頭に、後ろに姉妹が並んで歩く三角形の隊形を維持する。
特にこれと決まっている訳ではないが、正面と左右を警戒しつつお互いに離れないようにした結果自然とこの形に落ち着いた。
とはいえ、先程以降モンスターの襲撃はない。向こうも警戒しているのか、単純にこの辺りにはさっきの奴らしかいなかったのか。
「おっ?」
そのため順調に進んでいたその探索はしかし、モンスター以外の妨害で足を止められることとなった。
「倒木ですね」
「ここだけ枯れちゃったのかな」
二人もそれに気づく。
道の左右に無数にそびえたっている背の高い木。
その一部が枯れたのか腐ったのか、俺の腰ぐらいの高さで幹が折れて、道を塞ぐように倒れている。
それも一本ではなく、道を挟んで両側、ある程度の範囲で起こっている。
「木の病気とか?」
植物に別段詳しいわけではないが、この辺りだけ、となるとそれを考える。
だが自然とは凄いものだ。その倒れて積み重なった、いわば死んだ木の上にも、それにネットをかけたように蔦が生い茂り、その蔦のものだろうテーブルのような大きな花が咲いていた。
四枚の真っ赤な花弁を持つ大きな花。空に向かって突き出したボールペンのような大きさのおしべは、ほのかに甘い香りのする花粉を纏わせていた。
「きれいな花……」
セレネがそれに対して率直な感想を述べる。
その場にいる誰もが同意見だった。
――が、ずっと見ている訳にはいかない。
「これじゃ通れないな……」
「他の道を探しましょう」
辺りに目をやるが、流石に森の中だけあって周りは木がびっしりと並んでおり、そう簡単に迂回できそうにない。
結局少し道を戻り、森の中心=遺跡があるとされている方向に向かう別れ道を発見してそちらに舵を切った。
「また行き止まりでないといいけどな」
「ですね」
遠くに見える遺跡と思われる石造りの壁を正面に捉えて歩き出す。
恐らく内環に向かう道なのだろうが、やはり草木が道までせり出している場所が複数あり、それらをよけながら進むために正面に見えていた壁が左によったり右によったりを繰り返す。
だがそれが道に迷っている訳ではないという事は、唐突に視界が開け、件の壁に隣接しているもう一本の道にぶつかったことで証明された。
「ここ……道だよな?」
「ええ、恐らくは……」
その交差点で立ち止まり、俺たちはそれを確かめ合う。
道幅は恐らくそれまで歩いていた外環より広く、もしかしたら馬車でも入れそうな程だ。
だが、進むのに少し躊躇したのはその高さにある。
内環は一段低い場所にあった。より正確に言えば、人一人分ぐらいに低い所に。
左右を石垣のように固められて、低く掘り下げられたスペース。どうやらこれが内環のようだ。他に道が見当たらないことからそうとしか考えられないというだけだが。
「なんだってこんな造りに……」
言いながらしかし、他に行く道もないためその掘り下げられた道に降りる。
対岸は遺跡の壁面が道ぎりぎりにまでせり出してきているため、恐らくこちら側によじ登るのは不可能だろう。
「ここ、なんの遺跡だったんだ?」
その壁を見上げながら言葉を漏らす。
まるで侵入を拒むかのようなこの道からしては、何らかの要塞か何かだったのだろうか。
だが、その仮説はすぐに打ち消された――すぐ後に続いたフレイによって。
「そういえば、以前聞いたことがあります。かつてある研究者たちがこの辺りに栄えたロストールという国の遺跡の調査を行い、その際にここの遺跡を祭祀場か、何らかの慰霊施設だったと結論づけた、と」
祭祀場ねぇ……。
「それをこんな風に造る意味があったのかな?」
「さあ。ただ、棺のようなものが発見されたり、墓地のような場所も見つかったそうですよ」
まあ、そういう事ならそうなのだろう。
もしかしたらそのロストールとかいう国の宗教では死者を壁と空堀で厳重に守るという教えがあったのかもしれない。
「良く知ってるね」
「ええ。昔……色々な本や物語を読み漁っておりましたから」
そういって懐かしそうに――そして少し寂しそうにフレイは微笑んだ。
荒鷲の兄弟団の団長だという彼女らの父。その父のもとで籠の鳥だった彼女たち。きっと、外の世界――もっと言えば何のしがらみもなく自由に出歩ける外の世界というのは憧れの的だったのだろう。
そんなやり取りをしながら、壁の裏手に回り込むように道を進んでいく。
壁があったのは俺たちがこの道に降り立った場所の周辺だけで、それからはこの道からは距離を置いて何か所か倒壊せずに残った残骸があるだけだった。
高さの関係上それらがどうなっているのかは見えないが、どうやらそれらから徐々に距離が開いていくという事だけはなんとなく分かった。
そしてその道のりはすぐに終わるという事も――こちらはより明確に――分かった。
「行き止まりだ」
この道も終わっている。
それも先程のように倒木で塞がれているのではなく、塞いでいるのはそれまで左右に続いていた石垣が前に回り込む形で、だ。
つまり行き止まり。
ここでおしまい。
「どうしましょうか……」
フレイの言葉に腕を組んでうなることで答えるが、それでどうにかなる訳でもない。
二つの道は二つとも塞がってしまった。
話によればターゲットのアルラウネが目撃されたのは森の南部、水の汲み取り装置が設置されている近くらしいが、そちらに向かう道は二か所とも使えない。
――森の中を突き抜けていくか?
いや無理だろう。それなり以上に木々が密集していて通り抜けられないだろうし、無理にそんなことをしても先程のようなモンスターに襲われた場合に対処できない。
「お姉ちゃん!ショーマ!」
そんな悩みは背後から聞こえたセレネの呼びかけによって中断された。
「こっちから上に上がれるみたい!」
振り返った先には倒木の山を指さすセレネ。
俺たちが降りてきた側の石垣に寄り添うようにして転がっている太い木の幹は、確かに踏み台にするのにちょうどいい。
「あ、ちょっとセレネ!」
それを実証する様に先にそれを足場にしてよじ登るセレネに、フレイが呼びかけながら駆け寄る。
「お、川がある」
「え、本当に?」
だがお構いなしに登り切った妹はその発見を伝え、姉も――そして俺も――不用意に動くなという注意よりそちらに意識が向いた。
彼女に続いて道からよじ登ると、確かに言う通り行き止まりの少し向こうで水面がキラキラ光っている。
そしてその水がゆっくりと、しかし確実に南に向かって動いている。
「という事は……」
そしてその川に沿うように、細い道が一本伸びていて、周囲の木々もまばらだ。
「よし、この川沿いに進もう――」
そう言ったまさにその時、川下の方から気配と音を感じ取った。
「「「ッ!」」」
全員がそれを聞き、身構える。
先程の戦闘の記憶はまだまだ鮮明に残っている。
「え……?」
だが、数秒後現れた姿に、俺たちは意表を突かれた。
それは少女だった。
年齢は恐らくセレネより下だろう。
白い――というか青白い肌をしたその少女は、突然木の陰から現れて俺たちと見つめあったまま少しだけ固まっていた。
「……」
だが、それは恐怖や混乱といった様子ではない。
まるで、目の前にいる俺たちが何者なのか見極めているように思えた。
「あの、君――」
「ついてきて」
何か言おうとした瞬間、彼女はそういって踵を返すと、ひょいと茂みの中に消えた。
「あ、待って」
「追いかけようよ。村の迷子かもしれない」
セレネがそう言って先陣を切る。
「よし」
それに俺が続くのにかかったのは一瞬だった。
(つづく)
今日はここまで
続きは今夜20時頃に投稿予定です




