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救出16☆

 そうだ。生きて帰る。

 シェラさんやシギルさんや、勿論フレイとセレネも、みんな一緒に。

 俺はそのためにここにいる。

 それをするためにここまで来た。弱き者のための剣の主として。


 「……こんなところで止まっていられない」

 続いた言葉もまたしっかりと腹の底から出たものだった。

 そしてその言葉は、しっかりと背中越しにフレイにも通じていたようだった。

 「……ええ!絶対帰りましょう!」

 その返事に、俺は自分の中に熱いものが巡っていくのを感じる。

 改めて剣を構える。ゾンビ衛兵どもはまだまだ大量に俺たちを囲っている。

 「さて……どうやって切り抜けるかな」

 言いながら、既に目は柵を越えるための最短距離を探している。


 「来ます!」

 フレイの声。そしてそれに続く詠唱。

 彼女の方に向かった連中に合わせるようにこちらにも数体が襲い掛かってくるが、最早恐れるに足らない。

 「はっ!!」

 軽くあしらい、転ばせ、或いは切りつけて下がらせる。

 その後に続くように更に後続が、倒れた衛兵たちを踏み越えてきたのを、更に斬りつけようとして中断。

 「……っと」

 目の前の相手に向けた剣を下ろし、同時に組み付いてきたその横の相手をいなして、足を払う。目の前の相手も転ばせた相手もその服装からして元は衛兵ではない。


 「おらっ!!」

 転ばせた相手を挟んだ向こう側にいるそいつもまた蹴り飛ばして距離をとる。彼らは民間人だ。剣を向けるわけにはいかない。

 ――とはいえ、それだけでは少しの時間稼ぎにしかならないのも事実だ。


 「……いや」

 だが、それでいい。

 彼らに武器はない。彼らは衛兵ではない。つまり、俺の守るべき、助けるべき相手を傷つけようとする者達ではない。

 なら、弱き者のための剣の主が、それに剣を振るうことはできない。


 「なあフレイ!」

 「はい!」

 「こいつらを一網打尽にする方法はないかな?」

 背中越しに尋ねる――同時に纏わりついてきた相手を引きはがす。

 それと同時にもう一度の詠唱。きっと背中の向こうで光の玉が帯となって、連中を拘束しているだろう。

 「術者に辞めさせるか、或いは……」

 その後が続かなかったのは、別に他の襲撃に対処していたからではないだろう。

 だが、それで十分伝わった。

 そして、これだけの数を相手にするより確実な生還方法はそれであるという事も。


 辺りに目を配る。

 ふらふらと揺れながら近づいてくる衛兵たちの輪は何重にもなっていて、夜の闇もあって先程の男がどこにいるのかは分からない。

 ――どうする?頭の中に浮かぶ選択肢は二つ。


 一つ目の選択肢:何とかして奴を探し出し、大元を絶つ。

 安全に脱出するには一番確実な方法だろう。だが、それにどれぐらいの時間と労力を割けばいいのか、どれぐらいのリスクを冒す必要があるのかが分からない。どこかの建物に隠れて、密室に立て籠もられてでもいればかなり面倒なことになる。


 二つ目の選択肢:この大群を相手に何とかして道を作り脱出する。一つ目の選択肢の抱えているリスクを考えれば、却ってこの方が手っ取り早いかもしれない。ただし、けが人とそれを担いでいる介添人にスピードを合わせて逃げなければならない分、逃げ切れるかどうかは微妙なところだ。


 微妙に揺れ動く天秤。しかしあまりゆっくり考えてもいられない。

 そこに現れた幸運=新情報は背中越しに与えられた。

 「セレネには探知魔術が使えます。結界が完成したところで使わせますか?」

 探知魔術。前のパーティーにいた時に名前は聞いたことがあった。

 強力な魔術はその性能に見合った強大な魔力を必要とする。そしてその強大な魔力がどこから発生しているのかを探し当てる魔術が存在するという事だ。

 召喚術には強大な魔力が必要なことは既に分かっている。それも本来これほど大量に召喚することが出来ないはずの召喚獣を同時に扱えるあいつのことだ。探知できないはずがない。


 「そうしてもらおう!」

 「全部聞こえたよ!」

 声の方に反射的に目をやると、扉の前に立ちふさがったゾンビ衛兵に、全身をゴムボールのように弾ませ、渾身のドロップキックをかまして声の主が現れたところだった。

 「「セレネ!」」

 俺とフレイが同時に声を上げる。

 「ちょっと待って!その前に――」

 足元に踏んづけたゾンビ衛兵から飛び降りて俺たちの方に駆け寄りながら杖を構えるセレネ。息を弾ませ、それでも慣れた呪文を紡ぎだす。


 「我が魔力よ、今ひと時仮初の魂を纏いて、影となり舞い踊らん!」

 一気呵成の詠唱に合わせて、彼女を中心に放射状に飛び出していく無数の影法師。

 襲い来る大群の中に浸透する様に入り込み、その中を泳ぐように移動しながら踊るそれは、ゾンビ連中の左右非対称に動く瞳には俺たちなど比較にならない程魅力的に――或いは脅威として――映るようだ。

 たちまち逃げ回る影法師の奪い合いが始まる。奪い合いといっても、誰一人捉えられていないのだが。


 「千里を見渡す天上の眼よ、我が願い聞き届け給え。流れる力の源流を我に示せ」

 その影法師を生み出した詠唱から途切れることなく唱えられた新たな詠唱。

 それに合わせて空に突き上げられた杖の先端からブーンと耳鳴りのような音が一瞬だけ響き、それからすぐに杖は降ろされる――先端を本来の入り口である門の方へと向けて。

 「あっちだ!門の前にいるよ!!」

 「よし!」

 分析完了。そしてその結果に答えると同時に、俺たちはそちらに向かって走りだした。


 「この……っ!どけっ!!」

 影法師に踊らされている連中を躱し、或いは弾き飛ばし、最短距離で示された方向へと急行する。

 門の前、数人の衛兵たちに囲まれた状態で杖を振りかざしている目標の小男も、すぐに自分の手勢の異変とその中を突っ切ってくる俺たちに気づいたようだった。

 「小癪な……行け!奴らを止めろ!!」

 正気を失っていても与えられた職務に忠実な者というのはいるらしい。

 奴の側近だった衛兵たちは遠くに見える影法師にも引き寄せられず、突入する俺たちの前に立ちはだかろうとする。


 「我が魔力よ、今ひと時仮初の魂を纏いて、影となり舞い踊らん!」

 それを威嚇する様に響くセレネの詠唱。

 影法師たちは俺たちを隠すように衛兵たちの前に飛び出していく。

 まるでぶつかり合うアメフト選手のように、影法師とゾンビ衛兵の二つの勢力がぶつかり合った瞬間、今度はフレイの詠唱が響き渡った。

 「清らかなるものよ、善なるものよ、その力を鎖とし、その意志を錨とし、我に向けられし悪意を戒め鎮めよ!」

 影法師の足止めと、それが成功した瞬間に衛兵たちを包み込む光の帯が、一瞬のうちに衛兵たちを無力化した――そう、衛兵たちを。


 「出てきたよ!!」

 「ショーマ!お願いします!」

 「ああ!」

 動かなくなった肉体を切り捨てたウィル・オ・ウィスプが向かう先は俺たち。

 そしてそれを引き受けるのは俺の役目だ。


 一斉に襲い掛かるガス状の集団。

 だが、それでも完全に一致したタイミングではない。

 「はあああっ!!」

 一番に俺の間合いにたどり着いた奴を斬り捨て、その勢いのまま振り下ろした剣を跳ね上げてその次の奴を斬り、突っ込んでくる三体目を躱す動作で再度剣を加速させてそいつと、その後続とを斬る。

 体が軽い。そして意識すらしない内に動く。


 全てのウィル・オ・ウィスプを迎撃した時、俺は最後の一体を始末した勢いで奴に迫り、剣を構えて――奴に突き付けた。


 「くっ!!」

 「――抵抗をやめろ」

 思わず飛び退いた小男。あえて追わずに宣言する。

 「お前はもう逃げられない。召喚術を解いて降伏しろ」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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