第2話 ヒモになって職探しをしました
あらすじ
連邦冒険者組合に属するイワン・ベトロフは、パーティ(党)を追放され、冒険者資格を剥奪され、その身分と特権とを失った。
パーティ(党)を追放され、同時に冒険者という職も失った私は、疲れ果てながら自宅の党員用アパートへと戻った。
部屋に入ろうとしたら、扉に何やら紙が貼ってある。
『イワン・ベトロフ殿
本アパートメントは党員向けアパートメントです。よって、パーティ(党)から追放処分を受けた貴殿は、本アパートメントの入居資格を失いました。
明後日午後までに退去を命じます。退去に応じない場合、刑事罰の対象となりうることに留意してください。
また家具類はアパートメントの備品のため、持ち出しを禁じます。
パブロヴィチグラード市 住居配分局』
「なんてことだ……」
アパートメントからの退去要請だった。
このパブロヴィチグラード市を含む都市部では、市民の住居は党が決定し、割り振りを行う。そして、住居を持たない人間は浮浪市民として強制移住の対象となる。
既に都市に住居を持っている人間が住居を失うことは、ほとんどない。転職する場合は、新たな職場が住居を用意してくれる。退職して年金生活を送る場合は、年金生活者向けの住居を行政機関が用意する。自分から職を辞する場合でも雇用調整局から新たな職場が通達・認可され、必要ならば次の住居が決定しないと辞めさせてもらえない。もし働けなくなったとしても、住居は当面の間は保障される。
だが俺は、不当な懲戒処分によって次の仕事が決定していないのに失職してしまい、しかも住居が仕事と結びついていたため、こうして住居を失いかねない事態に陥ってしまった。
住居が無ければ新たな職に就くのは難しいし、就職できなければ新たな住居を探すのは難しい。すぐに次の住居が見つかるとは到底思えない。私は途方にくれて、その場に立ち尽くした。
そうしていたら、隣の部屋のドアが開き、人が出てきた。金髪碧眼で、あどけない顔をした美少女だ。その女の子は、隣の部屋の前に立つイワンを見ると、顔をほころばせた。
「あ、イワンさん!」
彼女はアパートの隣の部屋に住んでいる、アーニャ・ロゴフスキーさんだ。彼女は党員で、市庁舎で働いていると言う。
「アーニャさん…………」
「今日は帰ってくるの早いですね。依頼が無かったんですか?」
彼女は2年前に高卒でこのアパートに入居してきた。最初はごみ出しも出来ず、買い物をしようとしても店が分からない彼女に見かねた私が、ここでの過ごし方について色々と教えた。以来、彼女とはこうして親しげに話す仲である。
「実は……」
私はアーニャさんに、パーティ(党)を追放され、冒険者資格を剥奪された顛末を話した。
「ええ!? そんなことがあったんですか!? ひどすぎます! 警察へは行ったんですか?」
アーニャさんは、俺に起こった悲劇を、我が事のように憤っている。
「行ったのだけど、証拠がないからと相手にしてもらえなかったんだ……」
「とにかく次の仕事を探しましょう! 私も協力します」
彼女が私の手を掴んできた。怒りからか、体温が高くなっている。
「いやそれはできないよ……」
「なんでですか!」
「私は、明後日までにこのアパートを出なくちゃいけないんだ」
私はそう言って、部屋のドアに貼ってある退去命令書を指差した。
彼女はそれを読むと、わなわなと震え出した。
「アーニャちゃん、大丈夫?」
「出なくていいです!」
震えながら、彼女は言い切った。
「え?」
「イワンさんがこの部屋を出る必要はありません!」
「そんなこと言っても……」
「私の部屋に一緒に住みましょう!」
「え!?」
私は押し切られる形で彼女の部屋に住むことになった。幸い、党員用アパートメントなだけあって、一般的なアパートよりも広い。ちょうど良く使われていない個室があったので、そこに間借りさせてもらうことになった。
翌日、私は市庁舎に行き、雇用調整局へ求職申請を出した。本来は以前の職場が出すべき申請だが、マリンコスキーはそれをしてくれなかったようだ。パーティ(党)からの追放処分を受けている、ということで良い仕事は見つからないだろうとも、役所の人間は言っていた。それでも、とにかく今は仕事を見つけることが先決だ。
雇用調整委員会からの連絡を待つ間、俺はアーニャさんの家で家事などを行なっていた。連邦では、給与はほぼ同額なので、店で買えるものもあまり多くないので、金銭のやり取りにあまり旨みはない。恩は、こうやって体で返すしかなかった。彼女はそんなことはしなくていい、と言っていたが、私の気がすまない、と言って押し切った。
2週間ほどが経って、私の新しい仕事先が、雇用調整委員会から通達された。
「アーニャさん、新しい仕事先が決まったよ!」
私は市の紋章が描かれた封筒を掲げて、アーニャさんに報告した。
「おめでとうございます! イワンさん」
彼女は、我が事のように喜んでくれる。
「市の請願審査局の事務員の仕事だ! パーティ(党)を追放された私に、市の職務が割り当てられるなんて」
「良かったです!」
「だから、明日から市職員向けのアパートに入居できる!」
住居を失ってしまった私に同情して、彼女は自分の部屋に私を住まわせてくれたのだ。新しい住居に移れるなら、すぐに移った方がいいだろう。
「…………え?」
「今日まで住まわせてくれてありがとう!本当に助かったよ!」
「え?」
「明日からすぐに荷造りをする。なるべく早く出て行くから安心してね!」
「は?」
職探しって書いたけど、申請書類出しただけ……。
次話は明日(1月29日)の夜に投稿予定です。
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