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第1話 パーティから追放されました

「同志ベトロフ、君をパーティ(党)から追放したい」


 冒険者組合(革命前の冒険者ギルド)第233支部の書記室で、私は支部書記(革命前のギルドマスター)のマリンコスキーにそう言われた。


「マリンコスキー書記、どういうことです? 私が何をしたと言うんです?」


 私としては納得がいかなかった。今まで全ての規則を順守してきたのだ、追放される謂れがない。


「君は我が支部の戦力になっておらず、皆の足を引っ張っている。だから私の権限で追放を決めた」


「そんな横暴な! 党冒険者規則129条に記載されている通り、冒険者党員の党員資格を剥奪するには、4つの要件を満たした上で連邦冒険者組合中央書記局の裁可を……」


「ベトロフ、お前のその規則好きにはうんざりなんだ! お前は依頼もこなさずに、書類仕事ばかりしている。鏡を見てみろ、そんな格好をした冒険者がいるか!」


 私は七三分けにスーツと革靴という姿で出勤していた。書類仕事をやるには、他の冒険者が着ているような鎧や剣、ブーツは不要であるし、動きにくくて仕事の妨げになる。


「冒険者は冒険をするもの、お前のような奴は冒険者に不適格だ! この支部から今すぐ出て行け!」


 マリンコスキーは怒鳴るように言ってくる。しかし、私も引くことはできない。反論しようと口を開く。


「冒険者に不適格、とあなたは言いましたが、私は党が実施した冒険者党員資格付与審査に合格しています。私はいつも、このように審査合格証を党員手帳に入れて……」


「よこせ!!」


 私が党員手帳を胸ポケットから取り出すと、マリンコスキーはそれをサッと取り上げた。


 唖然とする私の前で、彼は党員手帳を床に投げ捨て、どこからか取り出したマッチに火をつけて、その上に放り投げた。一瞬にして燃え上がる。


「何をするんですか!?」


 私は慌てて燃える手帳を靴で踏みつけて火を消したが、使われたのは冒険者用の高火力マッチだったらしく、既に何か分からないほどの燃えカスになってしまっていた。


「マリンコスキー支部長、これは立派な刑事犯罪ですよ! すぐに警察を呼びます!」


 これは許されることではない。党員手帳や党員証など、党員の身分を証明するものを故意に破損することは刑法60条違反、重大な刑事犯罪だ。死刑もありうる。


「同志ベトロフ、君は党員手帳、党員証および冒険者党員資格審査合格証を紛失した。これは懲戒処分に値する。連邦冒険者組合第233支部書記、ゲオルギー・マリンコスキーの名において、君、イワン・ベトロフをパーティ(党)から追放・除名処分とし、その冒険者資格も剥奪とする」


 憤る私に対して、マリンコスキーは淡々と言った。


「何を言っているんですか!? あなたが目の前で燃やしたでしょう!」


「そんなことは知らないな」


 マリンコスキーは冷ややかな目で俺を見ている。どうやらシラを切るつもりのようだ。


「アントノフ! ゲリュトノフ! こいつを支部から追い出せ!」


 マリンコスキーが、部屋の外に声を掛けると、2人の大柄な男が支部長室に入ってきた。支部長の忠実な側近であるアントノフとゲリュトノフだった。彼らは俺の腕を掴み、持ち上げる。


「やめろ! 触るな! 何の権限があって……」


「黙れ!」


 2人は私の口にボロ布のようなものを放り込んできた。口が塞がれて声が出せない。


 そのまま、俺は持ち上げられたまま入口まで運ばれる。


 その途中に、多くの冒険者が待機しているホールを通過した。


「お、書類虫がついに追い出されるぞ!」


「あいつ、全然依頼を達成してなかったからな」


「お前みたいな軟弱者は、冒険者には向いてないんだよ!」


 彼らは、運ばれていく俺を見て、罵倒の言葉を投げかけてきた。


 支部の入口まで運ばれた私は、蹴り出されるようにして外へと投げ出される。私は組合の前の地面に叩きつけられた。


「うぅ……」


 痛みと屈辱で涙が出てくる。衝撃からか、体を動かそうとすると鋭い痛みが走る。




 この連邦では、冒険者組合、以前の冒険者ギルドは党によって運営されている。


 革命の際、党に加入していた冒険者人民たちが中心となって、ギルド内部の特権的階級による冒険者人民からの不当な搾取と、運営プロセスの非民主性に大規模な批判が行なわれた。ギルドの旧幹部たちは軒並み反革命分子として糾弾・排除され、冒険者人民たちによる自主管理体制を経て、連邦の成立後に党はギルドを「冒険者組合」に改めて直轄下に置いた。


 なぜ党が冒険者ギルドを運営するかというと、冒険者が自らの力で問題を解決する仕事であったことに理由がある。連邦では、「国家の武力は、党が独占する」という原則があり、冒険者は武力を用いる仕事として、党の支配下に置かれたのだ。


 現在では、全ての冒険者は、同時に党員でもある。冒険者となるためには、その適性を見るための実技試験に加えて、政治的・思想的調査や身辺調査などの厳しい審査を潜り抜けばならない。私は、実技試験はギリギリだったが、政治的・思想的に党に忠実な人間となりうると評価され、何とか昔からの夢だった冒険者となれた。


 冒険者の仕事は、市民や役所からの依頼を受けての魔獣退治や護衛、市内での各種雑務が主であり、それに関連して魔獣の処理や資材の訓練資材の手配などの書類仕事があった。革命前は専属の受付嬢たちが書類仕事もしていたらしいが、現在は冒険者たちが自分たちで書類仕事を行なっていた。


 私は冒険者にはなったが体格が小さく、力も弱かったので、他の冒険者たちから書類仕事を押し付けられた。それを続けていたら、いつの間にか私は依頼を処理することはほとんどなくなり、それに熟達してしまった。自分で思うが、冒険者の仕事ではない。けれども俺の職務が冒険者たちを支えている、と思って一生懸命に頑張ってきた。そんな思いで、高校を卒業後、4年間もこの仕事を続けてきた。


 しかし今、突然に私はパーティ(党)から追放され、冒険者ではなくなってしまった。


 夢が破れた……という喪失感はあったが、それ以上にこれからの生活をどうしようか、という不安感があった。職も身分証明も同時に失われてしまった。次の仕事も見つかっていないし、あまり貯金もない(そもそも連邦では貯金なんて事が難しいのだが)。



 組合支部の外に投げ出されてからしばらく経ち、ようやく痛みが治まってきた私は立ち上がった。どこかでじっとしていたい気持ちはあったが、やるべきことは山積みだ。まずは私の党員手帳を破棄したマリンコスキーを告発しに行くことにした。



「ベトロフさん、あなたの主張には何ら物的な裏づけがない。我々は日々、もっと明確な犯罪者たちとの戦いに忙しくて、そんな話に付き合っている暇はないんですよ。お引取りください」


 警察署に行った私は、ほとんど門前払いのような対応を受けた。党員ならば優先的な扱いをしてもらえるのだろうが、パーティ(党)を除名された私は逆に、まったく人間扱いされなかった。


 告発の対象となるのも、冒険者組合第233支部書記のマリンコスキーだ。高位の党員というわけでもないが、ある程度の権力はある。警官たちも彼の機嫌を損ないたくはないのだろう。


 私は失意の中、とりあえず何か食べ物を買いに行くことにした。家に帰っても、このままでは食べられるものがない。


「申し訳ないがベトロフさん、党員手帳か党員証を掲示できない相手には何も販売することができないんですよ。規則でしてね」


 いつも使っている党員用スーパーへ向かったが、党員でなくなった私には何も売ってくれない。


 仕方なく、一般市民用のスーパーに向かうと、平日の昼だというのに、既に長蛇の列が出来ている。


 ようやく、当座の食料(いつも買っているものよりもランクが落ちる)を買えた頃には、あたりは真っ暗になっていた。退勤する人々の姿が見える。


 私は激動の一日で疲れ果てた体を引きずって、家へと向かった。


パーティが追放ものが流行っているので、党(Party)追放ものが書きたくなりました。


全4話予定、次話は明日(1月28日)の夜に投稿予定です。


感想・評価、お待ちしております!

また、作者の別作品も良かったら読んでいってください!

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