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人生は夢だらけ

作者: 中倉三利

 「人生ってなんだろう?」


 スクリーンに大きく文字が浮かぶ。黒い背景に、真っ白な文字がよく映える。場面は変わり、見慣れた景色がそこに映し出される。校門のすぐそばにある用務員室の窓から、これもまた見慣れた初老の男性がこちらに向けて手を振っている。

 

 「人生とは、たくさんの子どもたちの笑顔を見ることである。」

 

 そう答えた初老の男は、茶色く染まった歯を見せて笑った。

 

 また場面が切り替わり、見たことのある風景が映し出される。下駄箱が両脇に並ぶ中、真ん中に真っ直ぐとした姿勢で立つ少女が話す。

 

 「人生とは、耐え難い恐怖である。」

 

 彼女の手には、ハートのシールで封をされた便箋が握られてある。彼女はその便箋を下駄箱の一つに静かに入れる。 

 

 場面は教室の一室。教団に立つ男は、シェイクスピアの本を手にしている。

 

 「人生は、選択の連続である。」

 

 かの偉人の有名な台詞を口にし、男は授業を始める。何の変哲もない、国語の授業だ。

 

 舞台は体育館のステージになる。スーツに身を包み、古臭いシルクハットを被り、明らかに付け髭と思われるちょび髭を生やした太った男が映し出される。スクリーンを見る誰かが「校長じゃん」と反応すると小さく笑いが湧く。

 

 「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。」

 

 喜劇王の姿で力強く放った言葉は、カメラ越しの観客たちに伝わったのだろうか。ヒゲダンスを踊る校長の姿を見て笑う観客たちからは、その答えは分からない。


 場面は変わり、音楽室。坊主頭の男子生徒が野球のユニフォームを着ている。

 

 「人生とは、挑戦である。」

 

 その場に似つかわしくない格好で台詞を放ち、男子生徒はピアノに向かう。一瞬の静寂の後、鍵盤を優しく叩く。

 

 舞台の端っこにスポットが当たる。一人の少女がマイクを手に立つ。スクリーンに向けられた多くの目は、彼女へと移る。

 

 「人生って、なんだろう。」

 

 少女は静かに語りだす。 

 

 「たった16年、17年しか生きていない私たちに、そんなことを聞くのは間違っているかもしれない。けれども、私たちは答えたい。人生とは、挑戦で、選択で、恐怖で、笑顔で…。」

 

 ピアノの音が止む。

 

 「…夢だらけであると。」

 

 スクリーンに映し出される映像はいつの間にか終わり、ピアノの音も止んでいた。…少女が、歌い出す。

 

大人になってまで胸を焦がして 時めいたり傷ついたり慌ててばっかり


 彼女の声にあわせてピアノが鳴る。

 

この世にあって欲しい物を作るよ 小さくて慎ましくて無くなる瞬間

こんな時代じゃあ手間暇掛けようが 掛けなかろうが終いには一緒くた

きっと違いの分かる人は居ます そう信じて丁寧に拵えて居ましょう


 舞台の反対側にもスポットが当たる。そこには、スクリーンに映っていたラブレターを手にする少女がいた。彼女もまた、ピアノに合わせ歌い出す。

 

あの人に愛して貰えない今日を 正面切って進もうにも難しいがしかし

実感したいです 喉元過ぎればほら酸いも甘いもどっちも美味しいと

これが人生 私の人生 ああ鱈福味わいたい

誰かを愛したい 私の自由

この人生は夢だらけ

 

 スクリーンはいつの間にか無くなっており、舞台に照明が点く。そこには、坊主頭の男子生徒がピアノを弾き、吹奏楽部の有志が演奏をしていた。

 二人の少女は舞台中央へと歩きだし、再び歌い始める。

 

この世にあって欲しい物があるよ 大きくて勇ましくて動かない永遠

こんな時代じゃあそりゃあ新しかろう 良かろうだろうが古いものは尊い

ずっと自然に年を取りたいです そう貴方のように居たいです富士山

二度と会えない人の幸せなんて 遠くから願おうにも洒落臭いがしかし

痛感したいです 近寄れば悲しく離れれば楽しく見えてくるでしょう 

それは人生 私の人生 ああ誰のものでもない

奪われるものか 私は自由


 少女達の頬は紅く染まっている。緊張なのか、興奮なのか。一つ息を吸い込み、台詞を放つ。

 

 「長い人生では、この時間は一瞬だけど、きっと忘れない。」

 

この人生は夢だらけ

 

 演奏が終わり盛大な拍手がなる中、出演者が舞台前に並び手を握る。大きく一礼すると、拍手はより大きなものになった。

 マイクを手に少女達が叫ぶ。

 

 「これより、第18回〇〇高校文化祭を始めます!」

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