プロローグ クリスマスイブの再会
目前を白いものが落ちていく。一つ、また一つと落ちていくそれは、一瞬でコンクリートのシミへと変わった。
暗闇の空を見上げると、灰色の雲から雪が降っていた。
空気が一段と寒くなったように感じ、立花龍之介は背中のリュックをかけ直し、足早に自分の家へと向かう。
色とりどりな明かりに照らされた仲良く並ぶカップルたちを見て、友人の言葉を思い出す。
――クリスマスイブだってのに、バイトとは寂しいやつだな。
そう言った友人も恋人がいないので、お互い様だろうと思う。別に恋人が欲しいわけではないし、そんな自分を寂しいとは一度も思っていない。
ひたすら歩いていくと、自宅のアパートに近い公園が見え始める。
雪が徐々に積もり始め、家まで走って行こうとした矢先――
「龍くん!」
もう聞くことはないだろうと思っていたあだ名。しかも、それが聞き覚えのある女性の声だと理解する前に、立花の足は止まった。
声が聞こえた公園の方を振り返ると、今にも弾け飛びそうなキャリーケースを両手で引きずる女性が目に入る。
亀のように一歩ずつ歩くのと同時に、後ろで一つにまとめた長い黒髪が馬の尾のように揺れていた。
女性が呆然とする龍之介の前に止まると、一気に白い息を吐き出す。
「……柊木か?」
幽霊でも見たかのように絞り出すと、女性がえへへとあの頃と変わらない照れ笑いを浮かべた。