一走入魂の先に
電光掲示板に映し出されたタイム。
同時に映されたゼッケン番号が、そのタイムが俺のものである事を教えている。
「先輩、決勝進出おめでとうございます」
凛とした声が、すぐ側から聞こえた。
音が、色が、輪郭が、全てが元通りに構築されていく。
あぁ……────
彼女が〝横〟に居た。
輪郭も、存在も何もかもはっきりとしている。
なのに、何故かその視界はすぐにぼやける。
熱いものが頬をつたった。
右と左と、両側からの流れが、ゆっくりゆっくり。
早鐘をうつ心臓を落ち着かせるように。
ふと、その流れがせき止められた。
雫よりも熱い、否、あったかい。
やわらかく、ふっくらとした、小さな感触。
彩光の指先が離れた。
再度戻ってくる視界。
それを確認してか、彼女の表情が変化する。
優しげな瞳。
俺を祝福し、俺だけを見つめていたそれ。
そこに光が宿る。
俺が見惚れた彼女の姿。
先を、未来を見つめる瞳だった。
「────共に」
彼女は、その一言そう言った。
うん
そう頷きたくて
やっと隣に。だからこれからは
────共に
それを伝えたくて
乾ききった口、唇。
忘れていた限界が目を覚ます。
舌が動かない。
呼吸が……。
止まっていた、脳の命令系統が危険信号を送る。
とも……
その言葉は紡がれることなく、意識の中で泡になる。
足の感覚は既になかった。
でも、突然訪れた浮遊感が、うっすらと事態を教えてくれる。
小さな身体に包まれるのを最後に、俺の意識は途絶えた
★
一走入魂
★
「俺を出させて下さい!!」
真っ白な部屋に数人の影がある。
ベットの上の影だけが、鼓膜を震わせた。




