加速する世界 どこまでも行こう
まだ……まだだ……────まだ加速できる
プチッ
何かの切れる音。
毛細血管だ。
過剰な血液供給が、血管の容積を圧迫している。
まだ……まだ、……足りない。
細部の欠損など関係ない。
〝前へ進む〟
それだけを求め、身体は稼働する。
鼓動が早くなる。
血管が〝増えた〟
いや、正確には、見えるようになった、である。
まだ身体の表面には出てきていなかった、無数のうちの一つ。
日々の走りで生産されるのは、体力、スタミナ、スピードなどだけでない。
筋肉と同様に見える変化も訪れる。
毛細血管の増加。
破壊、修復、破壊、修復。
何度も繰り返された痛みは、より強いものに再生する。
────だから
それを使えばいい。
隠す意味などない。今まさに、瞬間の現実に全てをさらけ出す。
心拍が上がる。
途切れなく侵入してくる酸素。
それを惜しげも無く、確実に、迅速に、全身へと供給する。
残り250メートル
3人が力尽き、残り5人。
普段なら、俺が仕掛ける〝第二のスタート地点〟
その普段ほどの加速は望めない。
それはそうだ。既に身体はトップスピード近い。
加速は不可能ではないが、このままでは走りきれな────い……
なんだろう?
でも、……なんかもやもやする
青い空が見えた。
どこまでも続く、果てしなく、一直線に
まるで、あいつの瞳のように
白い1羽の鳥。はるか高空を飛ぶ小さな光。
『待ってますよ』
……そうだったな。どうせ、俺の想いも知らずにいつまでも待つんだろうな。
なら、やはり、このままじゃいけないな。
いつも通り、〝俺の走り〟それを魅せなきゃ男が廃る。
スッ……、ハッ……、スー……、ハー……
鼓動が徐々に遅くなる。
同時に呼吸に穏やかになっていく。
歩幅はそのまま、いや、ゆったりしていく中で、少し幅は伸びる。
足の回転がゆっくりになり、はっきりと足の動きが確認できる。
全てがゆっくりに。
でも変わらないものがある。
スピードだ。
全てがゆっくり、嵐の前の静けさを貫く時、足と地面はその付き合い方を変えている。
母指球。親指の付け根に位置するポイントへ、力が収縮していく。
一歩一歩。尺実に移動する重心。
それが目的地へ近づくにつれ、身体がやや前傾姿勢気味に安定していく。
母指球へと送られた力は、余すことなく地面へと伝道する。
また、伝わった力は同等の力をもって、足裏へと跳ね返る。
上に上に、跳ね返りの力は身体を持ち上げる。
上方への力の奔流。
あまり、知られてはいないが、この上方への力こそが、人に前へと進む、最大効率の力を与える。
代償は、莫大な体力のみ。もちろんそこには、筋肉の持久力も含まれる。
母指球が白線の上に降りた。
俺にとって、特別な意味を持つ白線。
残り200メートルを告げる、スタートライン。
一陣の風が先頭へと食らいつく




