800メートルを走り知る
景色が後方へと吹っ飛んでいく。
線となる風景。
空が、木が
客席が、芝が
遠い方から徐々に輪郭が失われていく。
凹凸が目に付く真っ赤なタータントラックも、同じく凹凸があり真っ白に輝いていたラインも。
等しく線となり、それは遥か前方まで続いている。
第一コーナー
800メートルという競技で〝独り〟を感じる数十秒。
セパレートスタート。
レーン毎に分かれた競技者たち。
斜め前方、斜め後方。数メートルずつ前後にズレた競技者が〝独り〟でカーブに身を傾けている。
もうすぐカーブが終わる。
線となる景色に輪郭が混じり出す。
数は7つ。
敵の数だ。後2メートルで第二コーナーを曲がりきる。
下を向いていた視線が、小さく黄色いマーカーを捉えた。
オープンレースの合図である。
それを越えれば、レースは完全に戦場へと姿を変える。
よし今!
左足が確かにマークを越える。次の一歩は、すかさず内側へと向いている。
つま先は己の進行方向へ。見えない道が瞼へと描かれる。
内側へと切り込む攻撃的な進路。
垂直に右足をおろし、最大の反動をつかむ。
ここで躊躇は許されない。
エネルギーに方向性を
カーブを曲がる要領で、身体を左側へ傾ける。
スライドするように身体が内側へと割り込んでいく。
一レーン。一番内側の戦場に身体がおさまった。
身体1つ分空けて、前方に影が3つ。
すぐ後方に息遣いが2つ。
残りの2つは、更に後方に聞こえる。
とりあえず、意識するのはすぐ目の前の影だけ。
足の回転数を上げ、身体1つ分の隙間を埋める。
そして回転数を戻す。
無駄な体力は使えない。
────我慢の時間だ
目の前に影の斜め右後ろに張り付く。
身体が軽い。
影の背中が俺を来るべき時まで引っ張ってくれる。
楽なペースだ。
更に前方にある2つの影も速度を上げる気配がない。
遅いペースは選手を集団にさせる。
後方で息づかいが横並びになるのを感じた。
その息遣いは徐々に俺に近づいてくる。
このままでは飲み込まれていしまう
仕方ない
腕の振りを大きくし、身体を2つ分前に乗り出す。
大きな腕振りは確かな気流を作り、目の前の背中を辿り、持ち主の意識へと語りかける。
背中の速度が上がった。
狙い通り
俺が抜くのを警戒した影は、それを嫌うように前との隙間を詰める。
異様な光景だった。1つ1つ、彼らはバラバラに走る敵であるはずなのに。
彼らは何かに引き付けられる否、集団という空間に縛られている。
8つの影が1つの塊としてトラックを回っていく。
そして、そのまま……
第四コーナーを過ぎた




