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はしりたい

 総体 四日目 午前2時


  朝と言うよりは、まだ夜と言いたげな雰囲気が辺りに漂っている。

  窓を開け、冷たい風を浴びながら、俺は空を仰いだ。


  満月だ


  雲がないためか、その姿は一段と大きく、そして明るく見えた。



  今日、総体最終日となるこの日。

  控えるのは800メートル、準決勝と決勝。


  正直な話、俺の今のベストタイムでの決勝進出は難しい。

  それでも、……俺の目標は変わらない。


  優勝


  誰の背中も見るつもりはない。


  俺は、見せたい────魅せたい!


  俺のスタートダッシュを

  俺の腕の振りを

  俺の足運びを

  俺のラストスパートを

 

  一番高い場所に立つ俺を


  そこで、そこでやっと俺は並べる。

  そこに登れば……、

  俺はやっと、彼女と同じ高さに。



  星が少しずつ地へと傾いていく。

  黒が藍色になり、やがて時のグラデーションは、多幸の恵みによって真白く染められる。


  一瞬、世界の輪郭は全て無くなる。


  人はその一瞬を直ぐに忘れてしまう。

  いや、それどころかその一瞬を目撃することがそもそも稀なのである。


  でも、俺はその真っ白な一瞬が好きだ。

  偶然でなく、必ず毎日行われる必然の一瞬。

  それが俺を掴んで離さない。


  俺はそんな一瞬になりたい。

  記憶に残る一瞬に。





  今日は彼女と共に舞台へと向う。

  二人の間に会話はない。


  手も繋がれていない。


  歩幅も腕振りも、何もかもがバラバラで思い思いに動いている。

  自由奔放に。


  それでも、どうしてだろうか。

  この二人を目撃し、不思議と目を吸い寄せられた人々は必ず、こう感想を述べた。


  〝未来を走っているようだ〟と


  彼らにも一つだけ、共通点があった。


  目だ。


  遠くを、確信を持って見つめる目。


  歩く彼らの視線はようやく競技場を捉える頃。


  二人の沈黙は、破られた。


「先輩、私、先輩が今何をしたいのか、当ててみましょうか?」


  弾むように紡がれた言葉は、いたずらっ子の響きを持って耳に届く。


「いいよ。でもその代わり、俺も彩光が何をしたいのか当ててみてもいいかな?」


  こちらも、いたずらっぽく紡がれた言葉には確信犯の響きがある。


「じゃあ、せーのっ! で、いいですよね?」


「ああ、望むところだ」


 せーのっ!!



  まだ人気の少ない競技場、そこでその声は周囲を巻き込んで円を創る。



「「走りたい!!」」



  純粋な叫びだった。


  常に〝終着点〟を更新し続けた彼らの欲求。


  その原点が彼らの力だった。



  パァンッ!



  聞こえぬ音が聞こえたかのように、二人の脚は地を蹴った。


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