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過程は信じない 結果が全てだから……そう思っていた

 

「5組目の選手、準備を始めて下さい」


  補助員からお呼びがかかる。


  建物二階分に相当するコンクリートの天井。

  普段の地面より足の分だけ低い床。


  奥に行くほど暗く、ただただ闘志に満ちた戦士達の瞳が光る半地下の空間。


  トラック第一コーナーに一番近いメインスタンドの半地下。

  そこが800メートルの招集場所である。


  10組。計80名がこの場に集合している。


  否、集合〝していた〟と言うのが正しいだろう。

  その内、既に40人はこの場をあとにしている。


 

  準決勝への参加資格は

『2位+4』


  つまり、組内で2位なら無条件に準決勝進出となり、残り4人はそれ以外の3位以下の選手全てで速い者順に準決勝進出となる。


  例年の準決勝進出平均タイムは2分04〜2分05秒。

  ちょうど俺のベストタイムあたりである。





  さて、行くとするか



  戦場へと踏み出す呪いのように、一度、一瞬の接地で太ももを叩く。


  パアンッ!


  いい音だ。


  迷いなく、でも一歩を噛み締める想いは忘れずに。

  真っ赤なタータン────一般的なゴム製のトラック────に痕を付ける。


  スパイクの針の先。

  無数の穴が刻まれたタータントラック。


  でも無数の穴は、一つたりとも同じところには刺さらない。


  一歩、二歩、三歩、四歩、新たな痕が刻まれる。

  去年、一昨年、俺は全く同じ経路で戦場を歩いていく。


  それでも俺の針は決して同じものは残さない。


  予選敗退


  四字に込められた、悲しみ、苦しみ、どんな努力も無駄に思えるその言葉。


  結果が全て。


  過程が大事だから。そんな慰めにすがりたくなる、そしてそれが正論であると納得してしまいたい感情。


  それでも俺は過程を否定してきた。

 

 

  雪だるまを作り、その完成への最終段階。

  そこで目を創る適当な物が用意出来ていないことに気づく。

  不完全な雪だるまに価値を見いだせず、それを思いっきりぶち壊す。

  そんな感じ。


  また俺は、拳ほどの雪玉を転がし始める。


  短絡的で、暴力的で、自己中で、……でもとっても頑固で強い心。



 ────あの冬の日、彼女は目を携えてやってきた。


  目はただ前を見ていた。

  でも、その視線はいつの間にかはるか上方に存在している。



  ……なぜ?



  雪だるまは巨大な雪山の上に乗っていた。


  歪でただ乱暴に積み上げられたいくつもの雪。

  ところどころに未だ塊が残り、土色に染まっている。


  まるで、雪だるまの破片を積み上げたかのような。



  〝先輩。どうして先輩は雪だるまを作ろうと思ったのですか?〟



 〝どうしてって……朝起きたら雪が積もってて、それで何となく作ろうかなって〟



 〝じゃあ、どうしてそこまで完成にこだわるのですか?〟



 〝『過程を信じたくないから』〟




 〝ふふーん〟



  意味深に笑う彼女。

  彼女の〝目〟は俺の足元に注がれている。


  そこには、昔、今までに壊し続けてきた塊があり…………そのはるか麓に地表があった。



 ────『否定って、主観なんですよ』


 


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