先に日と熱を伝えたい
景色が前から後ろへと流れていく。
それをよく確認したくて俺は首をひねった。
窓に映る自分と目が合った。
ふと心が奪われる。
最初に目に映りこんだのは全体像だ。
まばらに席の空いた電車内の一角。
そこには、ふたりの人間が静かに座っている。
男がひとり、女の子がひとり。
女の子は安心しきった寝顔で体重を男の肩にかけている。
ふと窓の外が光った。
夕日だ。
〝彼は〟最後の力だ!
と、でも言うように、一瞬強く光、その姿を山の影に隠した。
残像が残った、真っ白ではない。
ただただ、日の一番明るかった一瞬が今なお消えずにいた。
──── 山本湊汰 予選突破
彼の日はまだ消えていない。
彼の走りがまた一つ俺を追い込む。
★
あれからどれくらい経っただろうか、いつの間にか電車外は漆黒で、変わりによりくっきりと、ひとりを映している。
800メートル予選開始まで残り13時間。
友のドヤ顔────……それとそっと呟かれた一言が俺に前を向かせる。
あいつはすれ違い際に言ったのだ。
まだ喜ぶな、そう諭されてから不意打ちだった。
不意打ちは俺の心に一石を投じ、真っ赤に焦がした。
窓にふたりが映る。
明日、この窓を染める日は幾つであろうか。
目を焦がす日はいくつか。
減るか、増えるか。
真っ赤の心が、徐々に黒く染められていく。
果てなく続く夜空のように。
肩だけが熱かった。
俺の一番星はまだ寝息をたてていた。
『先に待ってる』
残像とともに親友の心(言葉)が瞬いた。




