競技場 そしてお前誰だよ!親友part1
「────それでは各自、各々の力を出し切るように」
先生の挨拶が終わった。
一周400メートルのトラックと、それを囲む無数の客席。
メイン側は2段の客席で、中央は屋根付きの快適席。
その反対側は一段で屋根もない通常席。
それらの間を埋める、真っ青な芝生席。
金がないからと言っては、元も子もないが、個人的には緑を身近に感じれるこの競技場が好きだ。
俺達の屯所があるのはその広大な芝生席の一角。
着替え用と、コーチ用の二つのテント、それとブルーシート三枚。
それが俺達の陣地である。
今、まさにその場で総体始めのミーティングが終わった。
後は、各人、自由に最終調整に取りかかる。
まぁ自由と言っても、それはある大事なルールを守る上で成り立っている。
〝仲間の走りを応援すること〟
その原則だ。
共に歩み、いや……走り。
そして共に闘ってきた仲間。
当たり障りのない言葉ではこんなところか。
でも、俺達の心はもっと単純でわかりやすい。
友の喜びを
友の悲しみを
友の苦しみを
友の雄叫びを
友の全力を
友の走りを
ただそれを間近で見届けたい。
それが俺達、霞駆高校陸上部だ。
1日目 午後2時 5000メートル予選
いく人かの涙────喜か哀か。
それを見届け、ついに親友の出番が来た。
来年のない3年。
「頑張れよ。湊汰」
そう、肩に手を置き、声をかけたのは30分前。
「久しぶりだな」
帰ってきた言葉に絶句する。
「なんだよ、やぶからぼうに」
本当は理由も分かっていた。
「行ってくる」
「行ってこい」
湊汰との会話はいつもこうだ。お互いが、お互いの考えを推測する。
その推測も長い付き合いではもう確信である。
彩光との出会いは、付き合いは。
相対的に親友2人と過ごす時間を減少させていた。
それでも、繋がった心に変わりはない。
スタートラインに選手が並んだ。
組で2位以内なら、決勝進出確定である。
「オン・ユア・マークス」
戦士がまた一人、戦場へと立つ。
パアンッ!
山本湊汰
ラストラン




