表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/47

ただそれだけの一日

  光


  瞼の裏。暖かで儚い光を感じる。


  直接感じたいと思えば、直ぐに出来る。

  でも、……何となく暫くはこのままの体勢でいたい。


  記憶も意識も感覚も。

  覚醒直後にも関わらず、鈍りはない。


  いや、それどころか、今までより、より敏感にさえ思える。


  たくさんの人に呼ばれている……気がする。


  幸せを……。


  そう願い、俺はまた瞼を閉じた────



 ★



 ────よく寝てる


  木の葉が優しくざわめいた。

  葉が擦れ、我慢しきれなくなったものが、ひらりと空中に身を躍らせる。


  くるりと一回転。そのまま先っぽを天に向け、真っ直ぐに昇っていく。


  淡い橙色に、そいつは向かっていく。


  緑の葉は橙に染まり、やがて桃色へと変化を遂げる。


  葉はいつの間にか、夕焼けと同化し、天へと消えた。


  上がった視点を元に戻す。


「あら? お目覚めですか?」


  ちょっとからかい気味に、それでも随分待たされた事への皮肉を込めて言ってみる。

  膝の温もりはちゃんと答えてくれる。


  「……うん、おはよ……う?」


  まだ寝ぼけているのか、あどけない〝彼〟の様子に心がはねる。


 

  先輩、無防備ですよ



  そっと、心の中でつぶやき、その代わりに彼の頭の上に、手を乗せる。


  髪の流れにそって、ゆっくりゆっくりと撫でていく。



  いつもとは逆だ



  飼い主と飼い犬が入れ替わった感じ。


  既に競技場には夕日が射している。


  最初こそ心配して集まっていた仲間も、遠にあとは私に任せて帰ってしまった。


  それからどれくらいの時間が経ったのか、それがどれ程であれ、私達の〝時〟は変わらない。


  膝から伝わる微かな鼓動、肌に置かれた吐息。

  いつもより近い感覚が、私達を一つにする。


  物理的ではない。確かに今、心の距離が近い。


  ふと、膝が軽くなった。


「んっ!」


  とっさに手に力を込めて、その頭を元の位置に戻す。


「……まだ甘えてて下さい」


  行動は反射だった。でも心は正直で────


「まだ……、も少し……」


  言葉にならない。言いたいことが、伝えたいことが。

  ふわふわとしたまま、目の前を泳いでいる。


「……────一緒に」



  そうして、やっと。


  出てきたのはたったの三文字。



  膝に重みが戻った。


  先ほどより重い。


  彼の心の重さだ。彼の全てがそこにあった。


  強がって、隠して、気づかれないように。

  男の子の意地。そんなものは置かせない。


 今のように、私の膝は彼専用なのだ。


  見栄っ張りな一面も。そんな邪魔なものはいらない。



  彼は私に心を見せてくれた。

  私は彼の心を求めた。





  ────ただそれだけの一日────


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ