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こぶしの距離がなくなるね

  変わった


  なにが変わったかって? それを聞くのは野暮というものではないかな……?



「せんぱーいっ!」


  これは今までとは変わらない。

  平穏な日常に割り込んだ、笑顔。


  でも────


「ぎゅー!」


  効果音を付けて抱きついてくるのは、今までとは違っていた。



  そして更に

  今、俺の手は彼女の頭の上でゆっくりと動いている。


「ふにゃ〜」


  耳まで真っ赤にして、でも最高に気持ちよさそうに。

  彼女は俺の腕の中に包まれている。



(まったく、自分から来ておいてこの反応なのだから困る)


  うん、なりふり構わず、本能的に頭をなでたくなるから困る!



  今は朝の登校時間。


  道端で出会う生徒は多くもないが、もちろん少なくもない。


  けど、その複数の目線に負の感情があるものは一人もいない。

 


  その瞳に浮かぶのは、憧れと、何かほっとする安心感。



  あの告白から一週間、その事実は瞬く間に全校へと広まり、今はやっとその興奮が一段落した頃である。


  (確認のために言っとくが、興奮はあくまでも〝一段落〟誇張抜きで今なお、学校での最大の話題は俺達の事である)




  事実と噂


  その違いは時に誤解を生む。


  でも、今回学校で響いた音はもっと透きとおった────感動であった。




  彩光の走りに憧れを抱いた


  俺の走りに陸上の形を見た


  2人の交わす言葉に、2人で創られる〝何か〟への期待をよせ


  2人の駆け引きに息を呑み、惹き込まれ、いつの間にか感覚を溶け込ませる感覚に浸り


  2人のゴールした瞬間に、意識を外に引き戻され、完成一歩手前の芸術をその瞳に納める


  2人だけの世界


  最後だけは特別慎重にはめられるピース


  それに、純粋な感動以外を覚えるものはいなかった。




  学校までの道のりは変わらない。


  今まで通り、教室へ向かう時点で暫し別れる。

  昼休みの一緒に弁当を食べる。

  放課後に一緒に走る。



  目立った変化は無いのかもしれない……、いや、そうでもないな、



  ちょん


  ふと、当たる柔らかい感触。


  風で体温を奪われた手の甲に、小さな幸福がその存在を告げてくる。


  きっと俺の口元は抑えきれない想いでにやけ、更に頬をうっすら赤く染めている事だろう。



  いつもと同じ道のりで、2つの影に距離はない。




 ────高校総体まで、残り一ヶ月と半分





 


 

 

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