キャプテンの想い
本日2度目のスタートライン
スタートを見送った男は静かに戦士2人を待っていた。
お膳立てをしたのが自分である以上、見届ける責任が僕にはある。
純の走りが変わったのには直ぐに気づいた。
ある冬の日から、あの子が陸上部に入部してから、徐々に。
それを肌で感じる為に一度俺は彼と練習を共にした。
一番は練習と練習との間。
俺は観察するという目的を忘れ、彼の姿勢に学ばされた。
『常に戦士であれ』
そう言っているようであった。
彼の瞳は常に一歩先を〝見つめよう〟としている。
それが〝見つめる〟に変わる時、彼は一段、階段を登るのだろう。
────前を見つめ続けようとする彼はあまりにも純粋な戦士だった。
そしてまた彼女も、こちらもまさに一片の陰りもなき純度。
ただ走るのが好きで
ただ足を動かすのが好きで
ただその瞬間が楽しくて
そんな彼女が彼の横で天を見あげている。
2人の戦士が帰ってきた。
トラック二周半を走りきり、またスタート地点までの半周をジョギングしてくる。
共に心が空を、同じ空をを上げている。
僕の心にざわめきが生まれる。
キャプテンのしての勘なのか、それともアスリートとしての勘なのか。
いずれにしてもこの感覚は心地よい。
右足は引き、前に出すのは左足。
やや前傾姿勢でその時を待つ。
変わらない姿。
少なくとも横からではその変化は気づきにくい。
低く下げられた頭部。男ながらも短い髪の毛は彼の身を隠している。
だが、今見るのはそこではない。その若干下の部位。
この男。自覚しているかはともかく気持ちが表面化しやすい。
(笑ってる)
それが何の笑みであるのかは分からない、でももうじき分かるだろう。
キャプテンとしての行いはこれで十分だ。
あとは、────同じ部活に所属する、1アスリートとしてその走りを見届けたい。
「オン ユア マークス」
「「お願いします!!」」
全く元気のいい事だ。
呼吸さえも止まるその一瞬、全てを見つめれるのは僕だけだ。
(見届けたい、この2人の走りを、その道を)
パァン!
────二度目の音が地を這った




