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デートコースに自然はいかが?

  香る。


  太陽と森と川と


  木漏れ日と葉と根と濡れた岩と


  彼女


  全身を真っ白に覆い、森の光と一体化している。


 

  森の小道。

  駅から徒歩10分の所からその小道は始まる。


  それまでの田園風景に対して、遠くを見る事は叶わない。

  だから、余計に俺の目に映り込むその影。


「ん?」


  そんな俺に気づいたのか、小首をかしげた影は真っ直ぐに俺の瞳を捉えている。


「いや、べつに」


  ちょっとの含み笑いを含めてその影に答えると、その顔は素でふくれっ面を創る。


(冗談抜きでリスみたいだな)


  心の中の笑いに、表の表情も感化され、更にその感情は瞳を通じて江川に伝わる。


「先輩! 今絶対人のことバカにしたでしょう!」


「してない、してない」


  どう言うわけか、こいつといると心が穏やかになる。


  その澄んだ瞳で捉えられると、その全てが浄化されているのであろうか。


  もし、そうであるのなら……、俺もせめて彼女にだけはそうである存在になりたい。


「っと!」


  突然彼女が繋ぎっぱなしだった手をほどき、こちらに手を伸ばしてきた。


  頭に向かってくるその動きは速い。

  前言撤回。こいつリスじゃなくて、やっぱりネコだ。


  ネコだと認識した俺は、本能的に敵の爪を察知して回避行動をとろうと姿勢を低くし、更に重心移動を始めようと……。


「動かない!」


「はい!!」


  ……と、する所までは叶わず、結局俺は彼女と同じ高さまでかがんだ状態でその動作を封じられる。


  我ながらに間抜けだとは思うのだが、どうしてかこいつの言うことには逆らえない。


  彼女の柔らかい手が頭の上の何かを掴んだ。


  と、感じたのだが、その手は直ぐにはどかされない。

  二度三度、優しく撫でるようにさまようと、最後に名残惜しそうにてっぺんに止まり、そして離れる。


「木の葉、付いてましたよ」


「ありがとう」


  残ったのは、その名残と残り香。


  その後訪れるのは静かな時。


  土から、木の穴から顔を出した生命に驚き

  木の葉と土の絨毯、それに所々の木の根にステップを踏み

  湧き水の冷たさを手の平に感じ、それを相手の顔に共有させ


  空からひらりひらりと落ちてくる葉。それには、

  それをとろうとジャンプして、互いに頭をぶつける。


  感嘆符以外の声は出さない。

  意思の疎通は眼を見ればそれだけで十分だ。


  そんな自然との戯れに一時の別れを告げる。


「見えたよ」


  俺が指さす先にあるのは、一件の丸太小屋。


  森が円く開けた中央にそれはある。

  窓からは幾つかのテーブル席と、カウンター席。


  それとその店の店主なのだろう、まさに予想通りと言うべき、白髪のおじいさんの姿がみえる。



  チリン〜


  木の扉を開けると、内側に付けられた金色の鈴が一声を上げた。



「こんにちは!」

「こんにちは」


「いらっしゃい」


  客は俺たちだけ。

(運がいい、貸切だ)


  俺達は並んでカウンター席に着くと、どちらともなく顔を見合わせる。


 〝いい感じの店ですね〜〟

 

  全く分かりやすすぎるネコである。


「注文は?」


「あっ、俺はブレンドコーヒー。江川はどうする?」


「私も同じので!」


「承りました」


  また、静かな時間。

  新たな景色は


  豆を挽く音

  そこからのコーヒーの香り

 

  何となく、俺のは江川の頭に伸びていた。

  気づいたの彼女はそれを拒まない。


「ふにゃ」


  緩んだ頬が赤くなっている。


「……やっぱり先輩はずるい人です」



  それが聞こえたのは俺と……店主のおじいさんであった。

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