彼女の思惑
ようやくメイン主人公の登場です。
足の小指がちょっぴり痛い。
やっぱりヒールで長時間はきびしいかな。
少し足を休めたい。
セオ、買い物大丈夫かな…
したことがないって言ってたけど。
ちらっと店内の様子を見てみると、会計の女性店員さんは、うっとりしながらセオにお釣りとパンを渡していた。気持ち分かる。すっごく分かる。
だから私も…あ、セオが出てきた。
「地べたに座るなんて品がない。
公園に行くぞ、立て」
相変わらず冷たいんだから。出会って3日目、
まだ信用されてないのかなぁ。つべこべ言わずに連れていけなんて言っちゃって、思いっきり嫌そうな表情してたしなぁ。頑張るしかないよね。
「おばあちゃんみたいなこと言わないでよ……
もう歩けない」
お店には申し訳ないけれど、
パンはここで食べちゃいたいな…
明日も歩くだろうし、足があんまり痛くなり過ぎないようにしたい。手を伸ばしてパンを貰おうかな。
「ねぇ」
じっと視線をセオに合わせてアピールする私。
パン、ちょうだい。
「お前なぁ…」
セオがかがむ。
なんだ、自分だって疲れているんじゃない。
それなら――
「よっと」
「ひゃっ!」
体が持ち上げられてる!待って待って待って、
なんでそうなるの!
私ダイエットしてない…じゃなくて
「やだやだやだ、は、はずかしいってば」
「自分でねだったくせに」
不思議そうなセオ。いやいやいや、どう解釈したらお姫様だっこになるの…あぁもう、
「違う違う、私はそこでパンを――」
食べようと思って手を伸ばしたの。
最後までしゃべるまえに
「よっと、よし、これなら落っこちないな。
おぉ持ちやすい」
しっかり抱えられたうえに歩きはじめてる。
「ちょっと!人の話しは最後まで聞いてってば。
ねぇちょっと本当に待って待って待って」
「なぁそっち車来てないよな」
「うん大丈夫今のうち――っじゃなくて」
うわぁ、大通りだからすっごく目立ってる。
通りすがりのおばあちゃんは「いいじゃない若い時だけよ」なんて言うし、買い物帰りのおばさんは「あらまあ羨ましいわぁ」と手を振ってる。
もう…こんな…
こんな人にお姫様だっこなんてほんとに――
「さいこ…じゃなくて最悪」
だめ、せめて顔を隠したい。
恥ずかし過ぎる。
「うぅ」
セオの肩のあたりに顔をうずめてみるけど、
「よう兄ちゃん!今からハネムーンか!」
がはは、とおじさんが冷やかす。もうやだ。
「んん」
羞恥心から逃れたいから、必死にセオの
体を掴んで肩に顔を隠すけど、
「わあおひめさまだっこ~」小さな女の子の声。
「ぎゅ~ってしてるいいなあ~」別の女の子まで。
だめ、悪化してる。
「公園は?」
顔を隠してるせいで景色が分からないけど、
こうなったらはやく着くしかないよね…。
「もうついた」
「! ありがとうもう大丈夫降ろしていいよ
ねぇってば」
むしろはやく降ろして!
「ん、ちょい待った。おい、そこのおまえ」
「俺のこと?」
野球帽をかぶった男の子が小走りでこっちにきた。
今度は何?
「悪いけど、これでそこを拭いて欲しいんだ。
このパン分けてやるから」
「あ、これ知ってる!すっげぇうまいんだ!
いいよ!」
「よろしく頼む。丁寧にな」
「分かった!」
男の子は一生懸命にベンチを拭き始める。
セオは私を見ると、
「雨上がりで砂があって」
ふんわりと微笑んだ。
見ると、確かに砂がまとわりついてる。
「あ…ありがと」
ふんわり微笑んだセオは最高にカッコいい。万人受けする端正な顔立ちにさらに磨きがかかってて、
もう極上って言っていいと思う。ほんと世界一。
私、明日死んでも悔いないかも…
セオの体があったかい…心臓がとくとくしてる…
あぁ幸せ…。
なんて私が惚けているうちに、いつの間にか男の子はパンを受け取って友達の所へ戻っていくところだったから、私は急いでお礼の声をかけた。
セオは少し膝をおって、とんとん、とベンチの背を手で払ってから私をベンチに降ろした。
「あの、ありがと」
「いや、まぁ、別に」
おずおずとお礼を言うと、
セオはちょっと照れた様子でつん、と答えた。
ねぇセオさん、照れるポイントが違うと思うよ?
「それで、どこが痛いんだ?」
「え?」
げ、しっかりばれちゃってる。
「歩けないんだろ?」
まるで、私が大怪我でもしているかのような
声のトーン。
いや、痛いんだけど、そこまでの痛みじゃないっていうか…なんだか申し訳ない気分。
「へ、平気。大丈夫」
「よし、靴脱げ」
「いや、朝からずっと履いているし蒸れて」
いるから絶対に嫌、って言いたかったのに。
「それっ」
「ひゃっ!」
また言い終わる前に靴と靴下がずらされた。
「ちょっとやめてってば」
抵抗むなしく、調べられる私の足。
風にふれて足がすぅっとする。
「ねぇ平気だよ、大丈夫」
まさか匂ってたり…しないよね。大丈夫だよね。
昨日シャワーをしっかり浴びていて
本当によかった。
そのうち、セオは指まで調べ始める。
「ちょ、くすぐったい、あはは!」
あまりにこそばゆくて、私は思わず足を引っ込めた。絶対、わざとだよこれ。楽しんでるに決まってる。今度は仕返しで脇腹をくすぐってやるんだから。セオは引っ込められている私の足首を掴むと、
「小指を触るぞ。承認しろ」
不思議なことを言った。
「はい?」
この人何を言っているんだろう。
「いいから。痛くしないし、くすぐったくもしない。分かったと答えろ。ほら、はやく」
「…分かっ…た?」
仕方なく言うとおりにした。
セオは、ちょっぴり靴擦れになっている小指をそうっと両手で包むと、すぐに放した。靴と靴下を返されたから、私は急いで履き直す。
「ねぇ、今のは何?」
「さあな。
痛くなくなりますようにっていうおまじないだよ」
なんでもないって顔で、セオはさらっと答えた。
そんなに心配かけちゃったかなぁ…。
ちょっと反省しなきゃ。
「ありがと」
なんとなく立って足踏みしてみると、
「おまじない効いてる、痛くないんだもん!
すごいすごい!」
お世辞じゃなくて本当に良くなっていた。
「平気なんじゃなかったのかよ」
「あ…」
しまった。
「まあいいけどな。それよりほら、蒸しパン」
私は受け取って食べはじめる。う~ん、町で評判なだけあってすごくおいしい。食べ終わると、セオはふたつめを私に差し出してくれた。
でも私を公園まで運んでくれたし、昨日だって、
少ない食糧をセオは私に譲ってくれた。
今回は私が譲らなくちゃ。
だって、こうでもしないと――――
「セオは?」
「何が?」
セオはきょとんとしている。もう。
「だって、私がこれを食べたら、
セオの分がひとつだけになっちゃうから」
「腹減ってるんだろ?
気にしなくていいって。ほら」
う~ん、それなら…
「…はんぶんこしようよ」
「俺は店の中でひとつ食ったから大丈夫。ほら」
ぐいっと私の手の中に蒸しパンを押し込まれる。
うぅ~ん、そうきたか。それなら、
「えいっ」
セオの顔に蒸しパンをおしつけた。
そうしたら、
セオは店の中で食べたなんて嘘を言うから、
「店の中で食べたなんて嘘ばっかり。会計してすぐ出てくるの、私、ちゃんと見てたんだから」
そのまま私は反論した。
「くっそぅ……」
セオはすごく悔しそうにムスッとしてる。
続けて、私は無理矢理、昨日二人で決めた賭けの条件にあわせつつ、蒸しパンはセオのものということにした。自分でもかなり強引だったと思う。
でもそのわりには、真横で食べていられると
やっぱりちょっと欲しくなってしまって、
ひとくち、もうひとくち、
と、ちょっぴり分けてもらっちゃったけれど……。
でも、なんとかセオの旅に同行する許可を取り付けられたから、本当に良かった。
まずは、第一目標はクリアってところ。
あとは仲良くなって、信頼関係をしっかり築くの。
何をしてでも、どんな手を使ってでも、
例の3ヶ年計画を阻止するんだから。
だって、そうでもしないとセオは、
この世界から、消えるつもりだから――――