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ある少年の話し

はじめて作って投稿いたします。設定はまったく詰められていないので、どうかご容赦ください…

兄ちゃんが死んだ。


いつも優しくて、オレがねだったら必ず一緒にサッカーしてくれた。作ってくれる朝ごはんはすっげぇまずくて、じいちゃんとオレはいつも塩っからいって文句言ってた。じいちゃんは兄ちゃんに、さっさと料理上手な嫁さん貰えって文句言って兄ちゃんは軽く聞き流してた。その度にオレは、今の三人暮らしがいいって言って、兄ちゃんは嬉しそうに笑ってた。じいちゃんに塩っからい朝めしがいいのかって聞かれたけど、兄ちゃんが誰かに取られるのはいやだったからだ。


けんかも強くて、クラスメイトにオレが絡まれてたら、必ず助けてくれた。一度、ジャンっていう一番意地悪なやつが自分の兄貴をつれてきて、締め上げられそうになったことがある。町の裏通りで、ほとんど人は通らないし、殴られそうになって恐くて目をとじたら、いつのまにかジャンの兄貴はふっとんでて、兄ちゃんがオレの前にいた。


それに、道で困ってる人がいたらぜったいに放っておけないお人好しで、迷子になっているばあちゃんを道案内したせいでだいがくじゅけんにちこくして、いちろうになった。

いちろうって何?名前がかわるなんてへんだ、兄ちゃんの名前はエリックじゃん、って言ったら、ちょっと困った顔して、オレの頭をなでた。11こ年が離れてるから、兄ちゃんの手はおっきくて、冬なのに温かくて、本当はもう少しなでて欲しかったけど、なんだかそれを言うと女みたいだからがまんした。

学校に行かずに家で勉強するんだよって言ってたから、じゃあ毎日サッカー出来るじゃん、ってすっげぇうれしかった。

働きながら勉強するけど、なるべく時間を作るって兄ちゃんは言った。働くの?って言ったら、勉強にはお金がかかるんだって。


だから、なんとかって名前の軍みたいな組織に入って、兄ちゃんはそこで働きだした。

お金のいらない試験にまぐれで受かったんだって。



でもじいちゃんは最後まで反対してた。

初日の朝なんて、じいちゃんが玄関の前にバリケード作って居座ってた。

兄ちゃんはオレに耳打ちして、オレは言われた通りにティッシュでこよりを作ってじいちゃんの耳をくすぐって、その隙に兄ちゃんは出発した。

オレにこっそりグーサインをしたから、オレもグーサインした。


なんでじいちゃんが反対してたのか、ちっとも分からなかった。工房はもうからないってじいちゃん言ってたし、頑張って働きながら勉強して、楽させてやるって兄ちゃんは言ってた。

だからそんな兄ちゃんが憧れだったし、早く大きくなって兄ちゃんみたいに頑張るって決めてたから。



もうすぐ初給料だから、そしたら三人でうまいもの食べに行こうって言ってくれて、楽しみだからカレンダーにマルをつけて、その日がくるまで、1日終わるごとにバツをつけて、あと何日って数えてた。



でも、その日は永遠に来なかった。誰かをトラックから助けて、兄ちゃんは死んだ。トラックにのっていたしめいてはいはんは捕まって、たくさんの男の人がじいちゃんとオレの家に来た。なんだかよくわからない間に兄ちゃんはお墓に入った。悲しいはずなのに、ちっとも涙が出なかった。



それからは、毎朝起きるのが嫌だった。

朝ご飯は塩っからくないし、じいちゃんと兄ちゃんのお嫁さん論争はなくなって、あんなにうるさかった朝は静かになった。

大嫌いだった兄ちゃんの朝ごはんが大好きだったってやっと気づいた。

じいちゃんも同じで、塩がたりんって言ってなんでもかんでも塩をたっぷりかけていた。

それに、サッカーはひとりでしてもつまんない。だってじいちゃんはへたくそすぎる。ジャンは毎日家まで来て、うじうじやろうとかひきこもりって言ってたけど、ジャンが変な顔をしていたからかちっともこわくなかった。



そんな毎日だから、起きると今日も兄ちゃんはいないんだって思って、目を覚ましたくなかった。

寂しいのに、悲しいのに、なんで、どうしてって泣いて叫びたいのに、やっぱり涙は出なかった。なんだか心にぽっかり穴があいたみたいだった。そんなだから、何ヵ月も学校に行かずに、兄ちゃんの墓の前に1日中座ってた。



あるとき、兄ちゃんの墓の前にいたら、トイレに行きたくなった。公園のトイレに行って戻ろうとしたんだ。

そしたら、墓の前に知らない人がいた。兄ちゃんと同じくらいの知らない男の人と、女の人。

男の人は地面に片膝をついていて、なんだか昔の騎士みたいな姿勢だった。黒髪で、整った顔をしていて、右腰には銃があって、左胸あたりには兄ちゃんがなんとかって組織から貰ったのと同じ赤いバッチがあったけど、それ以外にも、金色の鷹の紋章のバッチがあった。女の人も、腰に銃をつけてたけど、男の人よりは小さな銃で、珍しい髪の色で、男の人の後ろに立っていた。


ふたりが何を話しているのかが気になって、近くの木に隠れて聞き耳を立てた。



知っている人なのって女の人がきいて、男の人はいいやと答えた。


墓石の右下に鷹の紋章があるだろ。

女の人がうなづいて、同じ○○○○○の一員であるあかしだと男の人が言った。それに、○○○の花が一緒に彫られているのは。


男の人は一度そこで言葉を切って、兄ちゃんの墓を右手でそっとさわると、息を吸って、また続けた。


じゅんしょくしたことを表しているんだ。

女の人が驚いた顔をして、胸に手を当てた。


隊員は常に、一般市民のせいめい、安全を第一に行動することを求められる。俺が入隊した時、ある人に言われたんだ。前線のむごさを知るべきだと。一人ひとりに家族がいること、せっぱつまったじじょうがある人。いろんな人がいること。お遊びで気晴らしなら一員であるとは自分は認めない、出ていけと。


女の人は、なんだか少し怒った声で、セオにどんなじじょうがあったか知らないくせに、あの年齢で入るなんてよっぽどなのに。その人こそ、セオのことを知るべきって言った。


セオと呼ばれた男の人は、兄ちゃんみたいに困った顔で優しく、エレ、そう言うなと笑った。その通りだと思ったと、男の人は続けた。それで、いつの間にか毎朝ロイにじゅんしょくほうの冊子を持ってきてもらって、必ず目を通すようにしたんだ。師匠は……じいちゃんのことがあるし、そんな冊子があることを俺には伏せてたからこっそりな。


男の人は立ち上がって女の人の頭をぽんとなでた。

それをみて、なんだか兄ちゃんみたいだと思った。

いつか読んだときに、この人の名前があったんだ。

男の人が続けた。覚えてるのって、女の人が驚いてて、全部じゃないけどなるべく覚えようとはしてる、年が近くて、入隊して数週間だったから印象的だったんだと男の人は言った。

女の人は悲しそうに、そっか、とうつむいた。夕方の太陽の光が女の人の髪にあたってて、髪の色が金色だったからなんだかまぶしくて、初めてみる髪色だから、変なのって思った。だって普通は黒か茶色だから。


男の人は兄ちゃんの墓に向くと、兄ちゃんが俺に教えてくれた敬礼をした。

同士として、誇りに思う。

まっすぐに兄ちゃんの墓を見ている男の人の表情を、オレはじっとみた。ゆらぐことのないその人の目をみて、すごく強い人だと思った。でも兄ちゃんにほっぺたをつねられるかもしれないと思ったから、あわてて心の中で訂正した。

女の人も兄ちゃんの墓に静かに敬礼をした。

生きていて欲しかった、どんな手を使ってでも。

男の人が静かに言って、オレも思った。

助かった誰かを見捨てでも、オレは兄ちゃんに生きていて欲しかった。でも兄ちゃんは、そんな、誰かを見捨てるような人じゃない。いつもオレやじいちゃんや他の誰かのために一生懸命で、自分のことは後まわしだった。

だから、兄ちゃんのあの性格じゃあなんだかしょうがないか、とも思った。


あんたの名前を俺は覚えておく。誇り高い同士として。

腕を降ろした男の人のきりっとした表情が印象的で、きれいだと思った。


長期の任務を命じる。―――――しろ。いいな。


男の人が低めの声で言っていたけど、ちょうど風で木の葉がゆれてあまり聞こえなかった。

そうしたら、了解です、任せてくださいっていう兄ちゃんの声がした。

そんなわけない。

それぐらいはオレにもちゃんと理解できる。

でもはっきりと聞こえたし、不思議と兄ちゃんの笑顔を見たような気がした。

だって、声が明るかったから。それで、なんだかすごく安心したし、あんまり兄ちゃんに心配かけたくなくて、ぐずぐずするのは止めようとも思った。それに、仕事中は兄ちゃんはいつもこんな感じだったんだなと思って、やっぱり兄ちゃんはオレの憧れだと思った。


とどいたかな、と男の人が苦笑いして、きっとね、と女の人が言った。女の人はそっと男の人によりそうと、男の人は女の人に何かを言った。女の人はうなづいて、ついていくって決めた時からかくごしてると言った。女に二言はないとも言っていて、金色の長い髪が風にゆられていて、なんだかかっこいいと思った。

いざっていう時は、ちゃんとセオを―――してあげるから大丈夫だよ。

それをきいた男の人は優しい声で、ありがとうと言っていた。



そのうち女の人が、そろそろ行かないと見つかってしまうと言って、男の人もそうだなとうなづいて、ふたりは町の中央駅にいってしまった。

階段を降りるときに、男の人が女の人に手を差しだして、女の人はちょっぴりはずかしそうに手をとっていた。

いつかお嫁さんにしたい人ができたらまねをしようと思った。



家に帰ってからすぐにじいちゃんに話した。

兄ちゃんは長期の任務を任されたこと。

兄ちゃんは笑顔だったこと、だから兄ちゃんに心配かけないようにがんばること。

セオっていう人は兄ちゃんより…じゃなくて同じくらいかっこよかったこと。

きっとああいうのをいけめんっていうんだ。

女の人もかっこよくて、なんだかふたりはあいぼうって感じだったっていうこと。

じいちゃんはうんうんとうなづいて、ゆっくりオレの話しをきいてくれた。

あんなに決意したのにぐしゃぐしゃに泣いてしまったけれど、一生懸命話した。

じいちゃんはなぜか良かった良かった、安心したというから、泣いてるのになんで良かったのかちっとも分からなかった。

だからじいちゃんにそのまま聞いたら答えてくれたけど、まだぐずぐず泣いていたしなんだか難しくて、よく分からなかった。


ひととおり話し終えたら、じいちゃんはオレに、ふたりはどんな様子だったか、話しはしたか。

バッチは確かに鷹の紋章だったのか。

他にはどんなバッチがあったか色々きいてきた。

鷹以外にも、いくつかバッチがあったし首飾りもしていたといった。剣の形だった気がする。

じいちゃんはそれを聞くと、床に座り込んで、そんなお方がエリックのことをとなぜかビックリしてた。

それでオレに、ふたりのことは、絶対に覚えておけと念押しされたから、約束でゆびきりした。

理由を聞いたけど、じいちゃんはへなへなになっていて、いくらきいても教えてくれなかった。

いつか絶対に教えてもらおうと思った。

それからその日は夜おそくまで、ずっと兄ちゃんの思い出を二人で話した。



そのあとしばらくしてから、せいふの人が男の人と女の人を探していると言って、じいちゃんとオレに会ったことあるだろ、どこにいったか教えてくれとききにきたけれど、まったくでたらめな町の名前を言って、ふたりが見つからないように追っ払った。


学校に行くようになったらジャンはあいかわらず意地悪だけど、軽く聞き流している。


だって、そんなことよりも、たくさん勉強して、兄ちゃんよりも強くなって、あの赤いバッチをつけて、あのふたりに会いにいって、ありがとうっていいたいし、とどいたよって教えてあげたいから。

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