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12/22

取引

日はすっかり沈み、真っ暗な空に星が綺麗に瞬いていました。


「よし、あと1箱……」


窓の外を見て息を吐くと、若い男性の刑事さんは言いました。捜査一課の部屋の一角には、大きくて薄汚れた茶色の箱が20~30ほど積み上がっています。指で目を軽く押さえてふぅ、と息を吐くと、新たに箱を開けて中にある大量の資料を取り出しました。


適当に資料を一束掴むと、


「これもちがう……これも……関係なし、こっちは………」



床に座り込んで1枚づつ真剣な表情で読み進めていきます。



朝から何度も呟いている言葉を漏らしながら、目を皿のようにして資料を見つめています。



「これも……関係ない、これも……ちがう、これ……は?」



が、ついに、ある資料で手を止めました。



手に取って掲げた資料を、目を丸くして見つめます。



「"あらゆる可能性を信じて調べ尽くす 真実は必ずそこにある" ……か」



空中を舞う埃を払いながら、若い男の刑事さんは言いました。



「やっぱりあの人、マジですげぇ……」



とても嬉しそうで、楽しそうで、そして、



「あははっ、最高!」



とても幸せそうな表情でした。




















複数の男性や女性が、自分たち捜査一課の部屋に戻るために警察庁内を歩いていました。いくつも会話が交わされます。


「――なんだけどね。ねぇ、ところでひなちゃんは大丈夫かなぁ……どのくらい進んだと思う、ミリアン?」



「なんたってあの量だからね……まぁ3分の一くらい進んでたら万々歳ってところじゃない?マリー、あんたは?」



「ん~、7・8箱……はちょい厳しいかな。5箱見終わったくらい?」



「まぁ、妥当なところだね」



「あ~あ、重犯課の人員もっと増えないかなぁ。いくら事件を複数抱えているのが常とはいえ、今回はさすがにひとつに集中させて欲しい……」



「皇主様の事件にね」



「そーそー、招集なんてひどーい。むしろこっちが優先されるべきでしょーが! ねぇ、ケイトりん、早く総監になって改善して~」



「ん、了解」



後ろにいる同僚の刑事さん達のくだけた会話に、ケイトと呼ばれた女性の刑事さんは振り向くことなく、すぱっと短く答えました。緩くウェーブのかかった長く艶やかな亜麻色の髪が、背中で小さく揺れています。



( 「わぁぉ……ケイトりん本当に改善してくれるって」 )



(「こういうことに関してはあの子、冗談は通じないからね」)



(「ん~、人生の先輩としては誇らしいわぁ」)



(「私も」)



というのも、同僚の女性刑事さんがひそひそと会話を続ける一方で、午前中の出来事を思い出していたからです。



「……(やっぱりちょっと言い過ぎたかなぁ、でも一刻も早く手掛かりを見つける為には時間は無駄には出来ないし……なんたって皇主様だし。でもなぁ……ぶつくさ言いながら資料を見るならジャスティンにさせるから帰れは……う~ん……止めた方が良かったかも……)」



他の人の会話はつゆ知らず、女性の刑事さんは思考していました。



「(でもなぁ……それくらいの気持ちで業務にあたって欲しいし……う~ん……)」



そうこうしているうちに、一課の部屋に着きました。女性の刑事さんを先頭に、ぞろぞろと順番に中に入ります。電話をかけようとしていた若い男性の刑事さんがそれに気づき、お疲れさまですと言いました。



「ひなちゃ~ん、どう?進んだ? おねーさまが手伝ってあげましょう!」



「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ終わりましたから――それより、」



若い男性の刑事さんがあっさりと言いました。



「……え、うそ、 本当に? わぁぉ……」




マリーと呼ばれていた女性は思わず目をしばたかせました。室内にある山積みの大きな箱は全て開けられていて、日付や各地方の分署、また種類毎に、綺麗に仕分けられていました。




「おいおい……」



「すげぇ……ぐっちゃぐちゃで各分署から送られてきたのに」



他の男性刑事さんも口々に呟きます。



一方で、若い男性の刑事さんはそんなことはどうでもいいとばかりに、



「警部!」



先頭で部屋に入った女性の刑事さんに駆け寄りました。女性の刑事さんが、2枚の資料を受け取ります。



「全ての資料を精査いたしましたが、この2枚が……」



「ありがとう、ご苦労さま…………って、え? 全部?」



「勿論です。だって"まきで"とおっしゃってましたから」



「………(いや、確かに言ったけれど)」



一瞬、女性の刑事さんはぽかん、として若い男性の刑事さんを見つめます。が、



「そんなことより、この資料見てください」



若い男性の刑事さんは表情をきりりと引き締めて言いました。



「どちらも寝台列車の路線沿いの地域なんです」



「…………」


女性の刑事さんが、真剣な表情で資料を見つめます。



「係長、どうですか?」



「皇主様の事件と関連性はありそうですか?」



他の男性の刑事さんが、口々に女性の刑事さんにたずねます。



「日付も、彼らの行方が途絶えてからそう経っていません」



「これ……」



女性の刑事さんは、2枚の資料を交互に見比べて、



「大至急調べましょう――重犯課、全員注目!」



その場にいる全員に向けて声をかけます。声を受けて、部屋の端で雑談をしていた人も集まりました。女性の刑事さんの澄んだ茶色の瞳が、一人ひとりに向けられます。


「2週間前、ヴォルテアス地方で旧リーワース橋が陥落しているのを市民登山家が発見し通報、現在ヴォルテアス中央市役所が建設会社とともに処理で動いてるもよう、また、同地方コートリッジ西南地区で10代の男女を60代の男性が保護、翌朝には男性の家から二人がいなくなっていたため、男性が二人を案じて13番分署生活安全課に連絡、そこから同地区の鉄道全駅に、体調の悪い乗客は速やかに医務室へ案内するように再度徹底するよう通達が出されているわ。――マリー、現地に行くから皆の振り分けをお願い、イーサンは鑑識と科捜研に連絡、時間が惜しいわ何人か一緒に来て貰う、男性の自宅、あとテロの線から一応橋も調べるわよ、反政府派の団体をリストアップしておいて、コールは市役所と13番分署に連絡、建設会社の担当者も呼ぶようにお願い、ホリーは鉄道会社に連絡、彼らが乗った車両と同じ型の車内を見せて貰えるように手配して、あと全駅の防犯カメラの映像も取り寄せて科捜研に送るよう手配して、アーロン、今朝鉄道会社からもらった従業員名簿の洗い出しの進捗状況を教えて、なら……ジャスティン補佐を頼める?ありがとうお願いね、ミリアンは備品と車の手配、マリー、人数が決まり次第ミリアンに伝えて、他は7人が今抱えている仕事をカバーして。マリーの振り分けが完了次第引き継ぎをする、現地組は明朝4時にここに集合、現地へ向かう、以上質問は?――ないわね、各自動いて!」



「「「「「「了解!」」」」」」」



女性の刑事さんが矢継ぎ早に素早く指示を出し、メンバー全員が返事をしました。皆は一斉に動きます。



「マリー」



「ん、りょ~かい、頑張ったもんねひなちゃん」



女性の刑事さんは同僚の刑事さんに指示をして、若い男性の刑事さんに向き直りました。



「ダン、あなたはボードに詳細を書いて、あと片付けね、各分署に送り返すように手配して。それが終わったら直ぐに帰ること、いいわね」



「え……? 俺も何か手伝いますよ?」



若い男性の刑事さんがきょとん、とした様子で目をぱちくりとさせました。



「早朝4時から仕事が出来るように疲れを取っておきなさい」



「…………っ、かしこまりました! ――あの、今朝は申し訳ありませんでした。やっぱり警部のおっしゃった通り、あらゆる可能性の中に手掛かりはありましたね」



若い男性の刑事さんは、眉をへの字に曲げて柔らかい表情で言いました。



「え……あぁ、それは……分かればいいのよ」



女性の刑事さんはまばたきをして、穏やかに、でもちょっぴり嬉しそうに言いました。



「北側の地方から攻める作戦が当たりましたね、やっぱり警部は最っ高にすごいです! 」



若い男性の刑事さんは、キラキラとした目で女性の刑事さんを見つめます。とても純粋で、尊敬をたっぷりと込めているのがひとめで分かります。



「あはは! その言葉、そっくりそのまま返す」



女性の刑事さんは思わず吹き出して笑うと、真っ直ぐに若い男性の刑事さんの目を見つめて言いました。



「へ? 俺は資料を探しただけですよ?」



若い男性の刑事さんは、真面目に不思議そうに言いました。



「…………………」



女性の刑事さんは一歩、若い男性の刑事さんに近づきます。



「ふぅん…………」



「えと……なにか?」



女性の刑事さんは、じ~っと若い男性の刑事さんの黒い目を見つめます。



「やっぱり……」



「やっぱり?」



ぱちぱち、とまばたきをすると、



「あなたって変わってる」



柔らかく微笑んで言いました。



「……???」



若い男性の刑事さんは、真っ直ぐ見つめられてほんのり赤くなりつつも、よく分からないとばかりに首をかしげました。



「指示したことをお願い――ロシュ、少しだけ皆をお願い、ゲイリーに決裁を貰ってくる……っと電話ね――お待たせ、どうしたの?分かった、それなら」



女性の刑事さんは、若い男性の刑事さんに仕事に戻るよう促すと、通信機にかかってきた電話に応対しました。一瞬で表情を引き締めて話し出します。長い髪が少し揺れて、女性の刑事さんの頬をなでました。



「…………」



その様子をぽーっと見ていた若い男性の刑事さんのほっぺたを、



「はやくこれをどかせ~、邪魔だろうが――ほい」



「だぁっ、痛い痛い痛いっ!」



ロシュと呼ばれた男性刑事さんが、ぎゅうっ、と思いっきりつねりました。



「惚けてる暇なんかねぇぞ~、頼まれたことがあるだろうが」



にやにやしながら、若い男性の刑事さんを小声でおちょくりました。



「ぁ、ぃゃ、ぇっと…………はい!」



若い男性の刑事さんはさらに頬を赤らめると、慌てて業務に戻りました。



「やれやれ……」



ロシュと呼ばれた男性刑事さんは、自分の仕事に戻ります。


若い男性の刑事さんはふと腕時計を見て、



「……あれ、まだ夜の7時半だ……あれ?さっきからずっと7時半? あれ?」




小さく呟きます。



「本当に1時間が10時間になった?――まさか……」



「………?」



「お願いは取り消し……なんてね。片付けよっと」



ひゅん、と室内に、不自然なそよ風が起きましたが、




「…………?」




若い男性の刑事さんの呟きとそよ風に気付いたのは、電話を終えた女性の刑事さんだけでした。














女性刑事さんの二人が――同僚にはマリー、ミリアンと呼ばれています――列車内を見渡しながらひそひそと話しています。




「これに……皇主様が乗ったの……?」



「みたいだね」




「ふつーの観光列車じゃん……」




「清潔感はあるけれど、どっちかというとむしろ……」




「ボロい方……よね」




一方、



「二人が泊まったコンパートメントは?」



女性の刑事さんが、案内役である制服姿の男性の車掌さんに尋ねます。



「こちらの、一般的なクラスになります」



車掌さんが扉を開けて、どうぞと女性の刑事さんを促しました。



「わぁぉ……」



マリーと呼ばれている女性の刑事さんが言いました。が、表情はやや引きつっています。



続いて入る数人の男性や女性も、同じくやや引きつった表情をしますが、




「かわいい……」




最初に案内された女性の刑事さんだけは、ちょっぴり素を出して笑顔で呟きました。




「警部はこういうのがお好きで?」



中年男性の刑事さんに尋ねられて、




「……ん?」




若い男性の刑事さんが、ちらりと女性の刑事さんに視線を向けました。


女性の刑事さんは、



「……っ、いいでしょ、別に!」



あたふたと中年男性の刑事さんに答えます。女性の刑事さんはくるりと向きを変えて、



「展望デッキも見たい、案内して」



「かしこまりました」



案内役の車掌さんに言いました。車掌さんは笑顔で答えました。



「マリー先輩も、かわいいって思います?」



若い男性の刑事さんが尋ねました。尋ねられた女性の刑事さんはにやりと笑うと、



「ひなちゃ~ん、ケイトのいう"かわいい"ってのはね……」



車内の廊下を進む女性の刑事さんを小さく指差して言いました。


女性の刑事さんは、



「こっちから奇襲を受けたら向こうに回ってかかとで落とす……向こうから来たら死角を利用、こう来るからいなして背後にまわって絞め落とす……上から来るならあっちに逃げようかな……内装が赤だから色調を利用して……も出来る、うん、完璧だわ。この列車、最高ね!」



声を抑えながら小さく感嘆します。




「………あの人って……」



「ね。分かった?」



呆れながら女性の刑事さんが若い男性刑事さんに言いますが、



「あははっ、マジで最っ高!」



若い男性刑事さんは、とっても楽しそうに言いました。



「…………ぉ~ぃ」



女性の刑事さんは、やっぱり呆れながらも、



「警部! あの――」



あっという間に女性の刑事さんに話しかけに行ってしまった若い男性刑事さんを見て、



「やれやれ……」



微笑んでため息をつきました。



一方、



「あっちから来たら、一人が引き付けてその隙に……して拘束しません?」



「それいいわね、あなたがおとりで私が仕留める、うん、バッチリ」



「それずるくないですか? 俺頑張ったのに――手柄は後輩に譲るものですよ」



「連れて来てあげたでしょう」



「え、それでチャラなんですか?」



「それでチャラよ」



「1日で見つけたのに……」



「資料を探しただけなんでしょ」



「むぅ…………」



「あははっ!」




若い男性の刑事さんは、女性の刑事さんにからかわれていました。
























幾人もの男性や女性が、資料を見たり互いに話しながら捜査をしています。



そんな中、



「あそこで微量の塗料が検出されてる……金メッキの塗料……もしかしてアクセサリー? 彼女が首からかけていたペンダントかしら……」



展望デッキで資料を片手に、女性の刑事さんが低い柵に手をかけて、車両後方部に鋭い視線を向けました。



「不可解ですね……」



髭のある男性の刑事さんが、女性の刑事さんに同調しました。



「…………」



女性の刑事さんは少し考え込んで、辺りを見渡します。




展望デッキには、景色が見られるように、コイン式の双眼鏡がありました。



「…………」



女性の刑事さんはおもむろにそれに近づきます。少し手を触れるだけで、すぐに遠くの景色に目を移します。タタン、タタン、と列車の走る音が静かに広がります。


思考する女性の近くでは、



「うわぁ、これなんですか!? すっげぇ! おもしれぇ~これ!」



「え、お前知らねぇの!?」



「はい? こんな変わったもの、初めて見るに決まってるじゃないですか?―――うわぁ、すっげぇ遠くまで見られる! 」



「お前、ちょいちょいずれてるよなぁ……」



「はい?」




若い男性の刑事さんが、恰幅の良い男性刑事さんと話していました。



が、



びゅうっと強い風が吹きました。



女性の刑事さんは手で長い髪を抑えますが、



「……………。」



視線は鋭いまま、巨大な川を見つめたままです。



若い男性の刑事さんは、何の気なしに女性の刑事さんに視線を向けて、




――長く艶やかな髪は踊るように風に揺れていて、




――澄んだ瞳は力強く、どこまでも真っ直ぐに前を見つめ、




――白くきめ細かい肌は、巨大な川面に反射する光よりもまぶしく、




――つまりはとても




「……………………………。」




視線をそらすことが出来なくなりました。




一方、当の女性の刑事さんは、




「………。もしかして……」




今しがた若い男性の刑事さんがはしゃいでいた、観光客用の双眼鏡をもう一度見つめます。



「………隙をつかれて……揉み合った? 車体の指紋は誰かに拭き取られていた……彼が取りに?……いいえ、違う……彼なら安全を優先するはず、彼女が……」




独り言を言いながら、



「取りに行った……? 取りに行けるかしら……少し行けば取れそうには思えるけれど……よし、こういう時は体験するに限る!」



ヒールの先に何かを付けて、低い柵を乗り越えてしまいました。



「えっ、ちょ、警部!?」



若い男性の刑事さんの制止は華麗に流し、まるで平らな地面を歩いているかのように、高いヒールの靴のまま車両の上を歩きます。



「大丈夫! 車両に傷が付かないようにちゃんと付けてるから!」



あっという間に柵から離れている女性の刑事さんは、列車の音にかきけされないようにやや大きめの声で言いました。



「いやそうではなくっ! 危ないですって!」



「指紋が拭き取られていたのはこの辺り……うん、彼女はここを手すりにして……こうね。なるほど、勇気あるわね、彼女すごい!」



「け~ぶ~!」




「塗料があったのは……ここね……確かに運が良ければここに引っ掛けられる……すごい確率だけど……」



「もうすぐカーブですよっ!」



「この震動……そうよね……カーブが来たらさすがにペンダントは震動や円心力に耐えられずに落ちるはず……そっか……きっと慌てて取りに行ったのね……」



「けーぶってば!――あぁもぅっ!」



若い男性の刑事さんは、慌てて柵を乗り越えて急いで女性刑事さんを追いかけますが、



「戻るわよっ」




「へ?」




カーブにさしかかる前に、若い男性の刑事さんが女性の刑事さんに追い付く前に、



「よっ――と」



トントントン、と車両の上を小走りして若い男性の刑事さんを避けて、女性の刑事さんはあっさりと戻ってしまいました。柵を乗り越えて、無事、展望デッキに着地します。




「さすが。ご無事で、係長」




髭のある男性刑事さんがさらりと言いました。



「うん」



なんでもない、とばかりに女性の刑事さんは返事をします。


そして、



「列車に乗ってから行方が途絶えた…車体には誰かの指紋が拭き取られた形跡……もし奴等と争っている最中に彼女がペンダントを取りに行って落ちたとしたら……!」



すぐに通信機を取り出すと、



「彼も彼女を追うかも大変っ……!――ロシュ、私よ。彼らが河川に落ちた可能性があるわ、旧リーワース橋周辺一帯で、ダムや観光施設の監視カメラの映像がないかを探して!えぇ、そうよ、あと、彼らの行方が途絶えた前後の日で、観光に来ていた人達から写真や映像の提供をしてもらえるように手配して。――えぇ、それもお願い」



本庁にいる部下に指示を出し、通信機を上着にしまいました。



「河川に落ちたと?」



髭のある男性刑事さんが眉をひそめます。



「……保護された10代の男女が彼らであることを祈りましょう、ザックとレイスからの連絡待ちね。イーサン達は?」



「もうじき橋に着きます。」



「着き次第、調査開始ね……――鑑識と科捜研の皆に彼らの血痕が橋に付着しているかも調べるように伝えて。皇主様の血液型の情報が要るわ、ゲイリーからロイ……オギノ班長を通して。それが一番早い」



「かしこまりました」



男性刑事さんはすぐに通信機を取り出します。



一方、女性の刑事さんの後ろでは、



「はぁ………良かった……」



女性の刑事さんの指示を聞きながら、若い男性の刑事さんは安堵のため息とともに柵を乗り越えて、展望デッキに戻っていました。



「鮮やかな着地に、ん~……10点満点!」



「体幹がいいんだろうなぁ……」



「本当、良い身体してるよなぁ……――イッテェ!何しやがるマリーてめぇ!!イタタタタッ、違っ、そうじゃないそうじゃなくて良く鍛えてるなって意味だイタタタタッ!」



「相変わらず恐ろしい女だよな……」



マリーと呼ばれている女性刑事さんや、その他男性刑事さんが女性の刑事さんの華麗な着地に対して口々に感想を言っています。



ところが、




「ちょっと、けーぶ!」




若い男性の刑事さんが、鮮やかに着地を決めた女性の刑事さんに詰め寄りました。



「なぁに?」



不思議そうに女性の刑事さんは言いました。少しだけ微笑む表情に、



(「いちいち可愛いよなぁ……」)



(「あれだけで飯3杯は食える……」)



後ろでは小さく会話が交わされます。




「なぁに?じゃありません! もう二度とこんな危なっかしいことはしないでくださいっ!!」



「あのねぇ、遊んでるんじゃなくて捜査をして」




「捜査上必要なら俺がします! だから警部は二度としないでください! また同じことをやったら、次はマジで怒りますからね!」



「……………。」



女性の刑事さんは、目の前の若い男性の刑事さんをぽかん、として見つめています。




「怒るってお前なぁ………」




「ぶん殴るつもりかよ~」




周りの男性刑事さんが揶揄しますが、




「 いくら心配でも女性は殴りません、代わりに一課の共用冷蔵庫にある警部専用のデザートを食べてやります」



若い男性の刑事さんは静かに言いました。



「ぉぃぉぃ……」



「お前なぁ……」



揶揄した男性刑事さんがため息をつきます。



「行方を追っている彼らのことはさておき、俺にとってはあなたの身の安全の方が世界中の誰よりもよほど大事なんです! あなたは神様でも精霊様でも何でもない、ただの人間なんですから、何かあったらどうするんですか!? 」





(「なぁ、あれは心配しているのか……?)



(「本人はそのつもりなんだろうなぁ~……。まぁ結果として、ただただ口説いてるっつーか、全力で口説いてるっつーか……」)



(「すっげぇどストレート……よくあんなこと言えるよなぁ」)



(「案外何も考えてないんじゃねぇのか?ある意味羨ましいわ」)



(「やっぱひなちゃんって天然よねぇ……」)



周囲の人達がひそひそ話す一方で、



「………………。」



女性の刑事さんは目をぱちくりとさせて若い男性の刑事さんを見つめます。



一方で若い男性の刑事さんは、



「…………あっ、」



今しがた自分が言った発言内容をようやく理解して、耳まで赤くなりました。



「ぃゃ、そのぅ、ぇっと……」



あたふたする若い男性刑事さんですが、



「あははっ! 分かった、心配かけてごめんなさい。車両には登らないって約束する」



女性の刑事さんは右手の甲を鼻に当ててケタケタ笑うと、あっさりと若い男性の刑事さんに謝罪をしました。柔らかい表情のまま真っ直ぐに若い男性の刑事さんを見つめます。そして腕を組むと、



「だから許して?――ね?」



遊びも入れた声色で女性の刑事さんは言いました。首を少し傾けたため、長い髪が少しだけ、すくめた肩から落ちました。



「ぁの、ぃぇ、はぃ、ぃゃ、許すもなにも怒る権利ないですし……すみませんっ」



女性の刑事さんの仕草が逆効果だったようで、若い男性の刑事さんはさらに赤くなりつつも、もごもごと返事をします。



「……。」



その様子を見て女性の刑事さんはやれやれとため息をつくと、



「そんなことない、対等な仲間でしょ――ありがと」



「………っ」



こつん、と若い男性の刑事さんのおでこを小突きました。




「ぁ、ありがとうござい――あ、ちょ、けーぶ!車両以外には登る気ですね!? だめですよ!」



「チッ、ばれたか……」



女性の刑事さんは小さく悪態をつきます。



「約束はっ!」



若い男性の刑事さんのツッコミに、



「はいはい、分かった分かった、もういたしません」



女性の刑事さんは両手をヒラヒラさせます。



「うわ軽っ、ぜってぇ分かってねぇし!返事は一回!」



「は~ぃ」



「ちょっと警部!」



やいやい話す若い男性の刑事さんと、それに軽く付き合う女性の刑事さんを見て、



「………。(ありゃぁ係長、気付いてねぇや、絶対……)」



「………。(階級が絶対の縦社会なのに……器の大きい女だよなぁ、さすが上に立つだけはあるわ……ていうか気づけよ係長~……気づこうぜ……)」



「………。(捜査に関しては抜群の観察力なのによ……気づいてやれよな……)」


「………。(天然と鈍感ねぇ……これはこのマリー様にとっても大仕事だわ……)」



「………。(1日1回は必ず口説いてるのに全部スルーだもんな。あいつはあいつでタフだよなぁ……)」




その場にいる他全員がやれやれとため息をつきました。





























「本当に民家があった……よく見つけましたね、警部」



中年男性の刑事さんが、女性の刑事さんに尋ねました。



「車両に登った時に一瞬見えたから」



女性の刑事さんは平然と答えます。



「少しでも手掛かりがあればいいんですがね……。でも皇主様はあんな普通の列車に乗られて、大丈夫だったんでしょうか」



「あえてあれをお選びになったと思うわ。」



「あの列車を…ですか?」



「実際に見て分かったけど、彼……皇主様は賢いわ。敵を向かえ打ちながら彼女の身を隠せるような車体の構造であることや、逃げ道が複数確保出来るような場所にあるコンパートメントをわざわざ選んでいる……おそらく彼女の安全の為ね」



「なるほど……」



中年男性の刑事さんは頷きます。



すると、



「でも何かが起きて、行方が途絶えた……」



若い男性の刑事さんが呟きました。女性の刑事さんがそれに答えます。



「そこまで安全を考えていても、まだ18歳だもの。加えて、初めて外に出た……双眼鏡を覗いて背後の警戒を怠っても無理ないわ」



「ですかね……」



「例えばこんな感じにね」



女性の刑事さんは、一本のペンをちらつかせていました。



「へ?――あ!」



若い男性の刑事さんは自分の上着を確かめたあと、ペンを指さして声をあげます。




「現役の刑事でもこれよ。ね、想像つくでしょう」



「ちょっと、いつの間に!」



「だから、あなたが双眼鏡を覗いている時よ」



「…………。」



「さ、住人に話を聞きましょう」



「はい!」 「はい!――ぁ、俺……のなんだけどまいっか」



女性の刑事さんはペンを上着にしまうと、スタスタと民家へと歩みを進めました。








民家には、30代の夫婦と幼い子供1人の3人が住んでいました。夫婦は困惑しながらも、1ヶ月程前の記憶を必死に掘り起こしながら、どこにいたのか等、捜査に協力します。





民家の2階、子供部屋では、



「そっかぁ三輪車ひとりで乗れたんだ、すごいね~!」



「うん!!」



若い男性の刑事さんが、幼い男の子と話をしていました。



「ねぇねぇ、おにいちゃん。おとーさんとおかーさんは、なんのおはなしをしてるの?」



「うん? ちょっと大事なおはなしをしてるんだよ」



事件の捜査なんて言って恐がらせる訳にもいかないため、若い男性の刑事さんは、なんとか濁そうとします。


が、



「ふぅん……」



男の子はちょっぴりつまらなさそうに、うつむきました。




「………。」




その様子を見て、若い男性の刑事さんはよし、と小さく呟くと、



「ねぇ。君は……ゆうた君は、何か変わった……は分かりにくいかなぁ………不思議なものを見なかった?」



男の子に尋ねました。



「なんで? どーして?」



男の子はなんだか嬉しそうに聞き返します。



「んと……」



若い男性の刑事さんは部屋を見渡して、



「実はね……」



男の子に手招きをして、耳を寄せてもらうと、



「"お姫さま"を探してるんだよ」



「わあ!」



小さな声で言いました。



皇主様と()()()のなら、あながち間違ってはいないだろうし、と心の中で付け足します。



「ぼく、お姫さま知ってるよ!」



「え、ほんと?」



「うん、これだよ!」



男の子は自信満々に、1冊の絵本を若い男性の刑事さんに渡しました。若い男性の刑事さんは微笑みながらどれどれ、と言って受け取ります。



絵本の最後のページには、白いドレス姿で金色の長い髪のお姫さまと、剣を持った騎士の二人が描かれていました。



「ね! きれーでしょ!」



「あはは、ほんとだね~!」



きらきらとした目で絵本のお姫さまを見つめる男の子に、若い男性の刑事さんは思わず優しく頭を撫でてやります。



すると、



「だめだよ~、これはぼくのお姫さまなの」



若い男性の刑事さんから絵本を取り返すと、いたずらっ子な笑みで男の子は言いました。



「あはは、そっかそっか、分かった。盗らないからね」



若い男性の刑事さんは優しく言います。



そのとき、



「――ありがとうございます、記録可能な媒体は他にありませんか?」



「あるにはあるんですが……ねぇ?」



「ゆうたのあれか。う~ん――刑事さん、何も写ってないかもしれませんが、それでもよろしければ……」



「ありがとうございます。大変助かります、ぜひ」



女性の刑事さんの声が近くから聞こえました。




男の子は、若い男性の刑事さんに話しかけます。



「ねぇ」



「ん?」



「おにいちゃんのお姫さまは、どこにいるの? 」



「……へ!?」



幼い子供だから優しく応対しようとすっかり油断していた若い男性の刑事さんは、すっとんきょうな声をあげて思わず立ち上がりました。



その時、ちょうどタイミング良く、3人の人間が部屋へとやって来て――



「あちらの黄色のおもちゃです。」



「ありがとうございます――ダン、そこの黄色のおもちゃをお願い」



「え、」



若い男性の刑事さんは扉に振り返って、




「け………………………」



固まりました。




「………………? ダン、 聞いてる? 」




女性の刑事さんは不思議そうな表情で、返答を促します。するり、と亜麻色の長い髪が動きます。



「それ、取ってもらっていい?」



「……っ!」



若い男性の刑事さんは、これ以上ないというくらいに真っ赤になると、



「ぁ、 ぇと、はい!」



大慌てで黄色のおもちゃを取って女性の刑事さんに渡して、



「ありがと、」



「――あのっ、橋に手帳返してきます!!」



「え? あ、」



意味不明な言い訳をしながら、子供部屋からあっという間に走り去っていきました。



「あぁ、行ってらっしゃい………? ――ふふっ、何のこと? 」



女性の刑事さんは首をかしげながら、小さく手をひらひらさせて見送ります。



一方、



「…………。ねぇ」



「…………。おぅ」




夫婦は互いに顔を見合わせてにやり、と微笑み、



「あ!!」



男の子も嬉しそうに笑顔を浮かべました。




「?」




女性の刑事さんは、男の子に目線を合わせる為にしゃがむと、




「ゆうた君、これ……必ず返すから。少しの間、私たちに貸してくれるかなぁ?」




ゆっくりと、そして優しく問いかけました。




「人を探すために、どうしても必要なの。いいかな?」




女性の刑事さんの問いかけに、




「うん、いいよー!」




男の子はあっさりと、そして元気いっぱいに答えました。



「え、いいの?」



あまりにあっさりと了承がとれたために、女性の刑事さんはもう一度尋ねます。




「うん、おねーさんにならいいの!」




「あらま、ゆうたったら……」




「いっちょ前に男の子してらぁ……」




夫婦は小さく息子の評価を交わします。




「ふふ、どうもありがとう」




女性の刑事さんは男の子の頭を優しく撫でました。



その時、別の女性刑事さんがまた一人やって来ました。同僚からは、ミリアンと呼ばれています。


黄色のおもちゃを受け取った女性の刑事さんは、夫婦と何かを話します。一方で男の子は、やって来た女性刑事さんに話しかけました。



「ねーねーあのね! あのおねーさんは、おにいちゃんのお姫さまなの!」



小さな声で、しかし、誰かに話したくてたまらないといった様子で、男の子は言いました。



「あら~、そうなの?」



女性はつい先程廊下ですれ違った際の出来事を思い出してにやりとすると、びっくりしたフリをします。男の子は自信満々に頷くと、



「だからね、とっちゃだめなの」



「あはは! あ~、分かった! おにいちゃん以外の人に盗られないように、私が見張っていればいいのね?」



「うん!」



自分の意図を汲んでくれた女性に、男の子は嬉しそうに笑います。



「了解、でもこれは、私たちだけの秘密よ~」



「なんで?」



「お姫さまはねぇ、まだ自分がお姫さまだって知らないの」



「そーなの!? じゃあ教えてあげなきゃ! 」



「でもね、お姫さまは自分で気づかなくちゃいけないのよ。じゃないと、泡になって消えちゃうの」



「たいへん! たすけなきゃ!」





男の子はそう言うと、



「ねぇねぇ」



おもちゃを持っている女性の刑事さんの手を取って、おみみをかしてー、と言いいました。男の子と秘密を共有した女性刑事さんは、やっぱり子供ってすごい、と呟きました。




「ん、なあに??」





女性の刑事さんは男の子の言う通りにします。




男の子はいたずらっ子な笑みをすると、




「あのね……」




何かを女性の刑事さんにささやきました。



「え、どうして?」



女性の刑事さんはびっくりして目を丸くさせると、男の子に言いいました。



「おねが~い! これもあげるからー!」



男の子は元気いっぱいに言うと、女性の刑事さんにお姫さまの絵本も渡します。




「え……ふふっ、」




女性の刑事さんは、アーモンド型の綺麗な瞳を大きくさせて笑うと、




「うん、分かった。約束は必ず守るからね」



女性の刑事さんはしっかりと男の子の目を見て言うと、



「ご協力、感謝します」



家族全員に敬礼をしました。








刑事さん達が全員、民家を去ってから、



「ゆうた、お姉さんになんて言ったの?」



母親が優しく聞きました。男の子はそれに答えて、



「えー!」



母親は驚き、



「ははは! やるなぁ、ゆうた!」



父親はよくやった、と息子の肩を優しく叩きました。



男の子は、だってあみちゃんがけいたくんにゆってたんだもん、と、笑顔で答えました。












日が落ち、薄暗い空にはいくつか星がまたたいています。



「連絡ありがとうご苦労さま。えぇ、後で合流しましょう」



女性の刑事さんは通信機を切ると、



「みんなー! 当たりよ! 保護された二人は彼らだった!」



河岸で大声で叫びました。その声を受けて、



「ひゅう! やったぜ!」



「だあ~……良かったあ!」



他の捜査員は口々に感想を述べました。




「ふぅ……」



女性の刑事さんは額の汗を軽くぬぐうと、腰の辺りに両手を当ててうつむき、深く息を吐きました。その顔には、かなりの疲労がみてとれます。



「警部、引き揚げの準備は我々にお任せを。少しは休んでください」


それをみかねて、男性の刑事さんが声をかけました。



「アーロン、ありがとう。でも大丈夫、あなただって動きづくめなのは同じでしょう? 」



女性の刑事さんは明るい口調で答えます。



「警部の鬼のような目に睨まれて、何回も休憩を頂いてます。ここにいる大勢の中で休んでいないのは、警部だけでしょう。――それに、13番分署へ要請をかけて頂き、応援にも来て頂いてます。我々だけで十分です。」



「もう……大丈夫だってば」



女性は少しむっとした表情で歩き出します。



「いや、しかし!」



男性の刑事さんは粘ります。




一方近くのテントでは、



「ありがとう~! 先輩の飲み物20人分、全部当たり! 私覚え切れなかったのにあなたってすごい! まさに私の神さま精霊さま! あなたさまのお名前は!? 何年に入官!?電話番号を教えて!!今度是非お礼を!」



「……っと??」




若い男性の刑事さんは、分署の先輩女性刑事さんに両手を握られて言い寄られていました。




「お~、アイツもやるなぁ」




「容姿が整ってるって、やっぱトクだよなぁ……」




一課の男性刑事さんがその様子を密かに見守ります。




「――へぇ、じゃあ私の後輩君なんだ。ね、今度の非番はいつ!? お礼するから! ね?」




「あはは、別に俺はいいって」




「だめだめ、人の()()は素直に受け取らないと!」




女性は含みを持たせて言いました。




すると若い男性の刑事さんは、




「ん~……じゃあ炭酸がいい!」




「へ?」




あっけらかんと言いました。




ひっそりと見守っていた一課の男性刑事さんも、お?と注目します。




「キンッキンに冷えたやつでお願いします!」




周囲の注目はなんのその、若い男性の刑事さんは爽やかにいい放ちます。




「え? あ、うん……?――まだあるかなぁ……あ!」




女性は当然不思議そうにしますが、言われた通りに冷えた飲み物の入ったビンを一本手渡します。




若い男性の刑事さんは、




「良かった~、冷えてるのはこれが最後で、」




「――ありがとう、それじゃ!」



女性の話を最後まで聞かずにそれを受け取ると、近くの机に無造作に置かれていた同じ飲み物のビンをまた一本手に取り、




「んと……」




きょろきょろ、と少し辺りを見渡して、




「あ、いた!――――け~~ぶう~~」




あっという間に走り去っていきました。




「ッしゃぁ、俺の勝ち!」




「くっそう、あんのひな坊め……ほらよ、一万だ」





一課の男性刑事さんの一人はその様子に笑みを浮かべ、もうひとりは舌打ちをしました。













「ふぁ……」



女性の刑事さんは、大量の水が入った大きな保冷箱を一度地面に置くと、大きな欠伸をしました。



「ふぅ……中の水を捨てよっと――おもっ、」



上着の腕を捲り、さあ水を捨てようと箱を持ったその時でした。



「警部、変わります」



若い男性の刑事さんが、すっと優しく箱を奪って言いました。



「もう、だから大丈夫だってば」



女性はまた休めと言われるとばかりに、ちょっぴりつっけんどんに言い返します。



「あはは、違いますよ~、眠気をぶっ飛ばしたいときはキンッキンに冷えたこれに限ります! どーぞ」



若い男性の刑事さんはケラケラと笑うと、保冷箱を一度地面に置いて、ほら、と水滴が滴り落ちる冷えたビンを差し出しました。



「え? あぁ……ありがと……」



女性の刑事さんは、ぱちくりと瞬きをして、ビンを受け取ります。



「炭酸が効くんですよねぇ~。――これ、全部捨てちゃいますね」



若い男性の刑事さんは軽い調子で言いながら、あっさりと保冷箱の水を捨てきると、



「どーです?」



女性の刑事さんの横に並んで自分のビンも開け、ゆっくりと飲み始めます。二人は後ろにある大きな木に、もたれる格好になりました。



「ん~……、うまいっ!」



「あははっ! でしょう?」



女性の刑事さんはビンを少しだけ掲げて言いました。



「はぁ~……確かに、目が覚めたわ……

おいしい~……」




こて、と木に後頭部をつけて、女性の刑事さんはふぅ、とため息をつきました。結果として休息時間になっていることに、女性の刑事さんは全く気づいていません。




「読みが当たりましたね、さすがけ~ぶ」




若い男性の刑事さんは、女性の刑事さんの労をねぎらいました。



「あら、私はただ捜査をしただけよ? 不貞腐れずに資料を頑張って見つけてくれたのはあなたでしょう? しかもたった1日で」




女性の刑事さんはふんわり微笑むと肩をすくめて、前日からのやり取りをもじったお返しをします。




「ありがとう、お手柄ね」




「いえ、それはそもそも警部が……」




若い男性の刑事さんは遠慮しますが、



「ふふっ、人の評価は素直に受け取りなさい?」




女性の刑事さんは楽しそうに笑います。




ぱちっ、と二人の目が合って、




「あ~……分かりました、ありがとうございます」




若い男性の刑事さんは少し照れた様子でほんのり赤くなると、飲み物を飲んでごまかしながら言いました。




「ふふ、相変わらず誉められるのが苦手ね?」




女性の刑事さんは変なの、と笑いながら、若い男性の刑事さんの顔を覗き込み、



「ぇ、ぃぇ…」



「ふふっ」



若い男性の刑事さんは、やっぱり飲み物を飲んで赤い頬をごまかしながら言いました。




「係長、やっと休んでくれたか……」



「あのままじゃあまたぶっ倒れるところだ、ひと安心だな」



「容姿が良いから、二人が並ぶと栄えるよな」



一課の男性刑事さんは引き続き見守ります。



すると、



「お~、久し振りだな!」



ガタイの良い大柄の男性刑事が、若い男性の刑事さんを押し退けて間に割って入りました。女性の刑事さんと同じ階級を表す模様が上着の背中にあります。



「うわっ、――っと」



若い男性の刑事さんは、足元の木の根につまづき、思いっきり地面に尻餅をつきました。飲み物のビンはなんとか落とさずに済みました。



大柄の男性は、若い男性の刑事さんのことは気にもとめず、女性の刑事さんに話しかけます。




「会うのは去年の同期の研修以来だなぁ――なぁ、せっかく久し振りに会えたんだから、今夜一杯飲みに行かないか?」




「……。せっかくだけど、お断りするわ」




女性の刑事さんは、心底嫌そうなしかめ面です。




それもそのはずで、




「前の時もそう言っていただろう? ――なぁ、俺達警部以上の管理職は忙しくて、なかなか同期と集まる機会が少ない。そうだろう?」




大柄の男性は女性の刑事さんの肩にがっちりと腕を回していて、




「時間は自分で作るものよ、私はしょっちゅう会っているもの」




女性の刑事さんがぐい、と力を込めて、必死にその腕を押し退けようとしていました。ただ、疲労が溜まっていて力が入らないうえに、体格差がありすぎるので、腕はびくともしません。




大柄の男性は、つれないことを言うなよな、と、女性の刑事さんの肩を撫でながら体を近づけて粘ります。



女性の刑事さんは、おおげさにはならないようにやんわりと、しかしかなり迷惑そうに困った表情で、ちょっと、と言って大柄の男性を嗜めます。



「少し離れて」



女性の刑事さんは一歩後ろに下がろうとしますが、



「なぁ、2、30分でいいからよ」



「……っ!」



大柄の男性が女性の刑事さんの体に回した腕でそれを阻止します。



絶対に、2、30分で済みそうにはありません。



「だから断るって言ってるの、腕をどけて」



女性の刑事さんは、大柄の男性が逆上しないよう、強くなりすぎないように口調を抑えて言いました。



が、その程度で引く訳はなく、




「はん、やなこった」




大柄の男性は、女性の刑事さんをぐい、と自分の方に引き寄せました。さすがに女性の刑事さんはきゃっと小さな悲鳴をあげます。



「引き揚げたら後は分署で泊まるんだろう? 俺達は後から合流しようぜ?」




「ちょっ、離して」





そんな中、





「はじめまして先輩、そして――」




若い男性の刑事さんは口調だけは実に穏やかに、



「すみません、失礼します」



「あぁん!? なん、」




だおまえは、と続きを言い終える前にはもう、男性の額にそうっと右手を当てていました。



若い男性の刑事さんの目は全く笑っていませんが、それは一瞬だけで、すぐに素晴らしく優しい微笑みに変わります。



大柄の男性が自分の額に注目している隙に、若い男性の刑事さんは、左の手で男性の腕を女性の刑事さんの肩からあっさりと払いました。



一瞬のその動作はごくあっさりとしたものでしたが、力で若い男性の刑事さんが勝っているだけで、大柄の男性の体術がかなりのものであることを良く知っている当の女性の刑事さんは、肩が解放されたことに目を丸くしていました。



一方で、流れるような、あまりに自然な一連の動作に、当の大柄の男性本人は邪魔されたことに全くもって気づいていません。



そして、



「大丈夫、こっちにおいで」



若い男性の刑事さんは何かに優しく言いました。




「ちょっと!」




女性の刑事さんが悲鳴をあげます。




というのも、




「警部、追い払いますから大丈夫です――そうそう、何もしないからこっちにおいで」




若い男性刑事さんの手に移動したそれは、一匹の猛毒を持ったハチだったからです。



ぶんぶんと鳴る巨大な羽と、毒々しいお尻を揺らしながら、ハチは若い男性の刑事さんの手に移動しました。




「お、おい!」



さすがに心配になったようで、大柄の男性も声をあげますが、若い男性の刑事さんはなおもハチに語りかけます。




「寝ていたのにびっくりさせてごめんね。俺達、皇主様を探していて捜査をしていたんだ。もうすぐ引き揚げるから、それで見逃してくれる?」




「おい!」



「ん~? 大丈夫ですよ、びっくりしただけだからもう帰るって言ってますし。――ね?」



「はあ?」



若い男性の刑事さんは和やかに言いつつも、さりげなく立ち位置を変えて、女性の刑事さんの前に立って背中を向けました。


つまりは、大柄の男性と女性の刑事さんの間に立ちつつ、ハチが女性の刑事さんの方に行かないようにしました。




やがて、




「じゃあね――――――――ありがと」




ハチは彼方へ飛んでいきました。




最後のお礼の言葉はとても小さな声でしたので、大柄の男性には聞こえませんでした。



そして、



「刺されてないですよね、本当に良かったです」



若い男性の刑事さんは、ふんわり優しく、そして爽やかな笑顔で、大柄の男性に言いました。本当に心配していたように感じられますが、やっぱりその目は全く笑っていませんでした。




「………お、おう。ありがとな」




一方、すっかり毒気の抜かれた大柄の男性は、おずおずとお礼を言いました。若い男性の刑事さんが余りに爽やかに、そして柔らかく言ったため、大柄の男性はちょっぴり照れてさえいます。




すると、若い男性の刑事さんは、




「どういたしまして。――あのっ、ところでひとつ、お願いしてもいいですか!」




さっと表情を変えると、きらきらとした目で大柄の男性に言いました。




「あぁ?――あぁ……まぁ……」



「……?」



危ないところを助けて貰ったため、男性はすんなりと、しかし不思議そうに了承します。若い男性の刑事さんの後ろ、背中側では、やはり女性の刑事さんも不思議そうな表情です。



「ありがとうございます! あの、少しの間だけでいいんで、その上着、着てみてもいいですか?」



「あぁ? これか?」



「はい!」



「あはは! 何かと思ったら上着を着たいってか!?――ははは、着てどーすんだよ」



大柄の男性はゲラゲラと笑います。



「だってこんなに格好良いの、憧れるじゃないですか!――警部に頼んでも上着が伸びるだの、汗臭くなるだの言われて肩に掛けるのもさせてくれないんですもん……」




「え、ちょっと! 私は――……っ!?」




そんなこと言ったことはない――




若い男性の刑事さんは、自分の後ろにいる女性の刑事さんの言葉をぶったぎるように、コツン、と自分の靴で女性の刑事さんの靴先を優しく小突きました。




「……。」




合図の意図を察して、女性の刑事さんは言葉を飲み込み、様子見を決め込みます。





「あっはははは!そーかそーか、そんなに言うなら貸してやる、ほらよ、着てみな!そうれ、」



「やったぁ、ありがとうございます!」



大柄の男性は気を良くして大笑いをすると、自分の上着を脱いで若い男性の刑事さんに差し出してやりました。



若い男性の刑事さんは、持っていた自分のビンを女性の刑事さんに預けます。預けるついでに、そっと女性の刑事さんを後ろに下がらせるのも忘れませんでした。



女性の刑事さんは目配せでお礼を言いつつビンを受け取って、



「え……」



全く冷たくない、常温状態のビンに目を丸くしました。女性の刑事さんは、思わず自分の冷たいビンと見比べます。



そんな女性の表情は露知らず、若い男性の刑事さんは上着に腕を通します。




が、



「ははは、ぶっかぶかだなあ!」



「本当っすね、ひっでぇ~、手がお化けになってるし!――あはは!」



体格が違いすぎたため、ぶかぶかでした。



「背中の模様がすっげぇ格好良いんですよねぇ……鷹の向きはどっち……う~んもうちょい、あれれ……」



若い男性の刑事さんは、背中の模様を一目見ようとして、当然見られるはずもなく、




「う~ん……?」




くるりとその場で一回転、自分の背中を追いかけます。



その様子をみて、女性の刑事さんは思わず、




「あはは! なにやってるのよ、鏡がないと無理でしょう?」



吹き出して大笑いをすると、自分の上着から通信機を取り出してぱしゃり、と写真を取り、



「かわいい~……これは永久保存版ね」



ニヤリと笑いながら、画像を若い男性の刑事さんに見せました。



「まるで大人の服を子供が着てるみたい、ふふっ!」



女性の刑事さんは、笑いが止まらないといった様子で、若い男性の刑事さんを見つめます。




「けーぶ! 俺はちゃんっっっと、成人してます!

子供じゃありません!」




若い男性の刑事さんは、女性の刑事さんに突っかかります。




「先輩の体躯が良すぎるだけです!俺が小さいんじゃありません!」




女性の刑事さんの感想の何かが気に入らなかったらしく、若い男性の刑事さんは不満気です。




「あはは!――も~、冗談でしょう? むきにならないの」




女性の刑事さんは穏やかに言うと、




「ちょっと腕を貸して?――ん~、これでよし」




ぶかぶかの裾を3回折り、手首から先が両腕ともちゃんと出るようにしてやりました。




「どうです、似合います?」




若い男性の刑事さんは、大柄の男性に向き直って尋ねますが、




「全っ然」





男性が答える前に、女性の刑事さんが言いました。




「…………。」




若い男性の刑事さんは頬を膨らませて女性の刑事さんをにらみつけますが、なんだかちょっぴり悲しそうです。




その様子を、その頃には女性に声をかけた理由なんかすっかり忘れてしまっている大柄の男性は、当初の行動はどこへやら、おやおやと微笑ましく見守ります。




すると、





「他の人のものだもの、似合わなくて当然でしょう? 」





女性の刑事さんは、なんだか少し強気な、挑戦的な笑みを浮かべて、





「自分のを着なさい」





真っ直ぐに若い男性の刑事さんを見つめて言いました。





「早く発注しないと、人気だから売り切れるわよ~」





女性の刑事さんはおどけた口調で言いながら、若い男性の刑事さんの額を人指し指でつつきました。




「……っ、はい!」




若い男性の刑事さんは女性の刑事さんの意図を察して、ほんのり赤く頬を染めながら、それはそれは嬉しそうに言いました。




若い男性の刑事さんはすっかり元気を取り戻して、女性の刑事さんに話しかけます。




「け~ぶの鷹は右向きなんですね」




「2種類あるのよ。今あなたが着させてもらってるのは左向きね」




「そうなんですね! じゃあ俺も左向きにしよーっと」




「ふ~ん……なんで?」




女性の刑事さんがなんの気なしに尋ねて、




「なんとなく、です――えへへ」




「ふぅん?」




若い男性の刑事さんは無邪気に笑いました。









「大丈夫そうだな」




「やれやれ。あいつは誰とでも仲良くなるよなぁ」



「あぁ、確かに。静かにぶちギレたと思ったらさ、ほら見てみろよ……もう3人で笑って話してるぜ?」



「ぶん殴るかと思ってヒヤヒヤしたわ、俺……」



「今後のことも考えたんだろう、ああする方が自分に意識が向くからな。多分、次にまた係長があの男に会っても、もっぱら話題はあいつになるだろうよ」



「なるほどな。係長を救出して好感度も上昇、秘かに念願だったあの上着を着られたうえに、」



「そもそも、皇主様誘拐事件の手掛かりを発見する大手柄。――あいつマジですげぇ……」



「さすが、分署をすっ飛ばして本庁に直接配属されるだけはあるわな……」



「あ、そうか。いつもほぼ同レベルで会話しているからつい忘れるんだけどよ、ぴよっぴよの新人なんだよな、あいつ……」




そんな様子を、一課の男性刑事さんたちが見守っていましたが、




「さ、引き揚げの準備に戻りましょう」


「はい!」





並んだ二人の背中の鷹の模様が向き合う格好になっており、




「ははは。なんとなくだってさ」




「なるほどな~。そーゆーことか」




「あいつもやるねぇ……」




口々に感想をもらしていました。







一方、




「あ、そうだ、ちょうどいい!――ね、ビンをこっちに向けて」



「はい?――あぁ、どうぞ」



「ん、取引成立。――――よし、一緒にジュースは飲んだし、これで約束は守ったからね、いちおう……」



女性の刑事さんは、飲みきったビンを若い男性の刑事のビンに、こつん、と軽く当てて、後半は特に小さく言いました。空っぽのビンが2本、音を立てる中、女性の刑事さんはちょっぴりそっぽを向きました。




「取引って……なんのことです?」




若い男性の刑事さんは尋ねますが、




「え? 何が? 」



女性の刑事さんは、わざとらしい口調です。



「何がって……今、取引成立ってけーぶが」



「そんなこと言ってない」



「え? いや!今絶対、言ってたでしょう!?」



「言ってないってば」



「はいぃ? だっていま、」



「知ーらないっと」



「え、ちょ、待って!――――けーぶう!?」





女性の刑事さんはやっぱりそっぽを向きながら、素知らぬ顔であっさりと業務に戻りました。



その手には、男の子から預かった黄色のおもちゃが握られていました。










































若い男性の刑事さんが上着を返した後、撤収作業はいよいよ大詰めを迎えていました。



ピリリ、と音が鳴り、女性の刑事さんは通信機を取り出して、



「了解、どうもありがとう――――やっぱりね」



短く言うと、通信機を上着にしまいました。



そして、



「それで隠れているつもり? 耳と尻尾がはみ出ていてバレバレよ。――――さぁ、狩りの始まりね」




好戦的で、獰猛ともいえるような笑みを浮かべて、雑談の時よりも少し低めの声で言いました。




そして、




「狩りの始まり……良いですね、それ。」




若い男性の刑事さんも、にやりと微笑んで女性の刑事さんに同調します。




「加減してあげてください。警部と比べると相手は素人も同然ですよ」




若い男性の刑事さんも好戦的に言って、




「あら、全力で相手をしないと失礼でしょう? 礼儀に反するわ」




女性の刑事さんも調子を合わせます。




「ははっ! そうですか、なら遠慮なくどーぞ。

――もし俺が仕留めても、一番美味しいところはちゃんと残しておきますので、ご安心を」



「ふふ、」



女性の刑事さんは、若い男性の刑事さんを横目で見ると、



「美味しいところだけ? 冗談言わないで、全部よ」




くだけた調子で言いました。




「げぇ、総取りですか……いーなー」




「当然でしょう」





女性の刑事さんは、若い男性の刑事さんに向き直ると、




「群れのボスだもの」




ちょっぴり偉そうに、そして満足そうに微笑んで言いました。



「……」



若い男性の刑事さんは、一瞬女性の刑事さんに見惚れたあと、



「―――あははっ!」



声をあげて笑いました。




「さぁ、仕留めるわよ」




女性の刑事さんはくるりと若い男性の刑事さんに背中を向けて歩みを進め、ふんわりと亜麻色の髪が揺れました。




「はいっ!」





続いて若い男性の刑事さんも威勢良く返事をして、




「ふふっ」




女性の刑事さんは満足そうに、よし、と頷きます。




「ロッソがまだ微物の採取を続けてるから、上がれるか声をかけてあげて。あとそこの保冷箱もついでに運んで、あそこにあるのもお願い」




「はい!――あ、そうだ。警部、俺の」




ペン、と言う前に、




「ほ~ら、ぐずぐずしないでちゃっちゃと動く!」




女性の刑事さんは、若い男性の刑事さんに指示を出しました。




ペンは結局、若い男性の刑事さんに返ることなく、




「はい!――――あはは、またとられた……これ何本目だろう」




若い男性の刑事さんは、それはそれは嬉しそうに笑いました。





ケイトさんの階級は警部(特別な称号"警部監"も保持)、役職名は係長、なので、色々な敬称で呼ばれます。


それにしても、ケイトさんは、いったいゆうた君に何て言われたんでしょうか……??


ヒントは、両親の反応、です!

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