表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

迷惑な患者 ( 男性 68歳 )ある若い女性看護師の1日

大変おまたせいたしました。


( 登場人物、少しだけ追記、修正しています。

本筋にはあまり影響はありませんが。。。)


「はい、西南地区統括中央病院 お問い合わせ係です、どうされましたか?」



「 どうしたもこうもねぇ、たたた、大変なんだよっ! 」



「あらエディ、こんにちわ。どうしたの? お酒を飲んでいて転んだの? 整形外科の予約を確認をしましょうか?」



「おぅ、その声はいつものねぇさん、アマンダだな。大丈夫だ、予約は必要ない。もう俺も年だからな。酒は朝から夜までしか飲んでない、深夜はちゃんと我慢して眠ってる。前にあんたから言われた通り、時々散歩もしているよ。すこぶる元気だ」



「あら、元気そうで何よりだわ。でもお酒はほどほどにお願いよ。それで、どうして電話を?」



「それがよう、貰った飴玉を食べたら健康になったんだ!妖精に言われたんだよ、"健康体になったよ"ってな!」



「………。すぐに救急隊員を向かわせますので、そのまま自宅で待機を――ジョス、脳神経外科の緊急予約を、 」



「あああ、ちがうちがう! いや、あんたがそう言うのは分かる、俺も何が起きたか、実のところ、理解出来ていないんだ。とにかく! とにかくだ、救急隊員は必要ない、いいか、救急隊員は必要ないぞ! とにかく……もう心配する必要が無くなったから、いつもよくしてもらっているあんたには、ちゃんと報告しねぇとな、と思ってよ」



「分かったわ、じゃあ……この電話は緊急時用に空けておく必要があるから、一度切って、電話をかけ直すわね。ちょっと待ってて」



「おぅ、ありがとうよ」



「それじゃね――っと、よし、個人通信からかけ直そうかな。ホントは駄目なんだけど……ジョス、黙っててくれない? 大丈夫そうだけどなんだか心配で」



「おう、大丈夫だ、許可しよう。ところでエディじいさん、どうしたって?」



「それがね。貰った飴玉を食べたら健康になった、妖精に言われたんだ、って。」



「なんだそりゃ。また酒を飲んで酔っ払ってるんじゃないのか」



「ん~、話している様子は酔ってはなさそうなんだけど。あの人もう末期だし、脳の腫瘍のこともあるし。とにかく、詳しく聞いてみる」



「手術も出来ねぇんだもんな……」



「その間、悪いけど電話が来たら」



「任せろ」



「ありがとう―――もしもし。おまたせ、アマンダよ。さっきの話について、詳しく教えてくれる?」



「おう。それがよう、先週末の夜、近所にあるユークリッド大川の川沿を散歩してたんだ。綺麗な星が出てたから、嫁さんの写真を持ってな。そこで俺が何を見たと思う?」



「あの海みたいに大きな川ね。観光用の寝台列車が通る、大きな陸橋の所でしょ? 陸橋の片側は、人も歩けるように造られてるし。う~ん……分からないわ、教えて」



「川がな、こう……川の中が光っててよ」



「川が?」



「見間違いじゃあねぇぞ、それに頭もおかしくなっていない。それで気になって、下に降りたんだよ。川の中に入って、腰まで浸かるくらいになったところで、足に何かが当たってよ。」



「川の中に入ったの!? 夜に!? 無事で良かったわ……それで?」



「お宝かと思って、手探りしたんだ。光は、俺が川の中に入った途端に消えたから、夜間景観を演出するための、ほら、ピカピカ光ってるだろう?あの照明をたよりに手をこうしてだな……結構明るかったんだぜ! そうしたらよ、大きなボール……って言ったらいいのかな。適当な言葉が見つからない、うん、でっかい透明なボールが一番近いな。それを見つけてよう、転がしながら引き上げたんだ。その中にはな、」



「うんうん」



「なんと!眠っている男の子と女の子がいたんだよ。見た限り、まだ10代後半だったな、ありゃ。な、ビックリだろ?」



「なんだか先代文明のおとぎ話みたいね……」



「ああん? それはよくわかんねぇがよ。とにかくボールを岸に引き上げたら、その"透明"は途端に無くなったんだ。その男の子と女の子はおろか、川の中に入っていて濡れているはずの俺まで、全く濡れていなくてよ! すげぇだろ!周りに誰もいなかったから、俺一人で助けたんだ!」



「えぇ、それでそれで?」



「それで、タクシーのうんちゃんを呼んで家まで連れていったわけよ。二人ともなんだかぐったりしていてよ、近くの小さな医院で年寄りの医者に見せたんだが、問題は無くてな。その小さな医院の古ぼけたベットより、俺んちでゆっくり休ませた方がよさそうだったからな」



「怪我はなかったのね」



「そうだ、かなり疲れた顔をしていたからな。二人を家に運ぶときに、体に引っかかっていた鞄から、荷物が落っこちてな。その中に、寝台列車の切符があったんだよ。切符を切った跡もあったし、その時に印字される振り番もあったんだ。振り番の日付はその日の午前中だったからな、絶対に寝台列車に乗っていたはずなんだ。それなのに、なんでか知らねぇが、川の中にいたんだよ。陸橋から落っこちたのかな」



「まさか! 歩道がない側から落ちたとして、あの陸橋の高さからなら確実に体を打ち付けて、無事では済まない、あり得ないわよ。それより、続きをお願い」



「それもそうだよな……。それで、二人ともよく眠っていたから無理には起こさず、俺んちの家のベットに寝かせたんだ。あの観光タクシーのうんちゃん、マイルズっていう奴なんだが、親切だぜ!一緒に手伝ってくれたんだ! 一人づつベットに寝かせてさ。先に逝っちまった嫁さんのベット、残しておくもんだよなぁ……いやぁ、残していて本当に良かったぜ!しばらく様子を見てたんだが、一向に起きる気配もねぇし、深夜になって俺も別の部屋で休んだんだ。二人が起きたら分かるように、書き置きをしてな」



「どのような内容を書いたの?」



「おぅ。川の中にいたから引き上げて、医者に見せたことや、二人とも怪我はなかったこと、それで俺んちで休ませていたこととかな。腹が減ったら、冷蔵庫に果物、棚にはパンがあることも書いたかな。あとは気分が悪くなった時は俺を叩き起こせとか、いろいろな。」



「なるほど、それで?」



「朝になって二人の様子を見にいったんだが……」



「うんうん」



「いなくなっていてな。書き置きの手紙だけがあったんだ」



「何て書いてあったの?」



「それが、やたら綺麗な字と言葉使いでよ、ありゃ、感動もんだぜ。俺や、俺のせがれとは大違いだったな……手紙は、俺に対する感謝の言葉が主な内容だった。"問題が起きて、誰かの助けを待つしかなかった、とても感謝している"といった感じだった」



「へぇ、若いのに偉いわねぇ。手紙なんて私、もう何年も書いてないわ……」



「だろう? 文章の主語が"俺"だったから、男の子が書いたらしいんだがな、なんにせよ、俺は良いことをしたってわけだが……ことはそれだけじゃなかったんだ」



「あら、なにかしら」



「果物とパンを食ったみたいでな、それについても感謝の言葉があったんだが、まぁ簡単にまとめると……"助けて貰ったうえに、食事や体調への配慮をしてもらったことに対して、深く感謝している、返せるものが何も無いが、ぜひお礼をしたい"、といった内容だった。続けて、"永久(とわ)の感謝と、恒久の栄誉を 我は汝に授ける 追伸 手紙の横に置いてある飴玉を、必ず、食べるように!"、と書いてあったわけだ。なんだか最後はちょこっと偉そうだったが、まぁ、可愛いもんだ、ありがとうって気持ちが嫌ってくらい伝わる手紙だったからな、はははっ」



「無事で良かったわね。それでさっき、飴玉を食べたって言ってたのね」



「おうよ。さあてアマンダ、本題はここからなんだ! 手紙を読んで、俺は"いいってことよ"と思いながら、ありがたくその飴玉を食ったんだ。見たことのない、きれいなグラデーションでよ、俺んちの台所から拝借したらしいラップにくるんであったんだ。なんだかあまり味はしなかったから、お世辞にも旨いとは言えなかったが、あっという間に口の中で溶けちまったからな、まあ、そのまま飲みこんだわけよ。で、するとだな」



「すると?」



「目の前に妖精が現れてよ。"もう大丈夫だ、健康になったから。いつもの人間に会って、確かめたらいい"ってな」



「さっき言ってた妖精ね。それでそれで? (やっぱり、お酒飲んだのかしら。言ってることがめちゃくちゃなんだもの) 」



「それでそのまますぐに病院に行ったんだ。適当なことを言って頭を調べてもらってな、画像をとって貰ったわけよ。で、今朝、画像の結果を聞いたんだ!あいつ、主治医のスコットの表情をあんたに見せてやりたかったぜ! いやな、俺も半信半疑だったから、ちゃんと確かめてからあんたに言おうと思ってよ。」



「エディ、どうだったの? まさか、」



「そのまさかだよ、綺麗さっぱり、あのでっかい腫瘍が消えて無くなってたんだよ!! 直ぐにそっちに向かおうとしたんだか、近所のばあさんやら、せがれやらが来て大騒ぎでよ、やっと今家に帰って暇が出来たってわけだ。」



「そんなことって……あらスコット!! エディ、ちょっと待っててね―――えぇ、そうよ、ちょうど本人から連絡があって教えて貰ったところ。治ってるって本当? え、本当なの? 何度画像を撮って確かめても? そんなことって……。それじゃあ、とにかく、喜んでいいってことよね? えぇ、じゃあ後でね。――エディ!! すごいじゃない!! 良かったわ、なんだか訳が分からないけれど、とにかく、私もすっっっごく嬉しいわ!! 」



「ありがとうよ! そう言ってくれると思ったぜ、はははっ! まぁ、事務的に、定期的な確認の検査はするらしいが、頭の腫瘍も、転移していた所も、全部すっかり治っているらしくてな、どうやら手放しで喜んでよさそうなんだ!」



「最高のお知らせだわ! 良かったわね、エディ!」



「あはは、ありがとな! ところがだ、ここで1つ問題があるんだよ」



「あら、なあに?」



「すっかり健康になっちまったうえに、事務的な確認の検査は、かなり期間が空くからよ。」



「ええ、それで?」



「あんたと電話で話す口実が、めっきり減ってしまうんだよ」



「あら。それは大問題ね」



「だろう? 酒で転ぶのは痛そうだしな、かと言って、せっかく命拾いしたんだ、大病はもうごめんだ。歯医者は併設しているが、あいにく俺の歯は丈夫だしな。そこでだ、アマンダ、」



「なあに?」



「あんたはお問い合わせ係だろう? 」



「ええ、そうよ」



「なら、あんたに問い合わせたいんだ、ほどほどに病院に通える、適度な病気になる方法を知らないか? 」



「あら、それは難しい問題ね」



「だろう? 」



「考えておくわ。 ただ、せっかく良くなったんだから、お酒はほどほどにね。運動……散歩も続けてちょうだいね」



「ありがとうよ、分かった! それじゃあ、また電話するからな。考えておいてくれ! じゃあな!」



「はい、それじゃね――――ふぅ、終わった終わった」



「おぅ、お疲れさん、アマンダ」



「ありがとうジョス。」



「こっちは特に問題なし。カーラの婆さんがアマンダにお礼をってさ。」



「ああ、今日の昼前に診察出来るように融通してたからね。ありがとう」



「エディじいさんはなんて? マジで治ったらしいな、俺も画像を見せて貰ったぜ」



「えぇ、本当にビックリよ」



「なんだ、嬉しそうじゃないな?」



「嬉しいわよ、とってもね! でも本人は、ほどほどの病気にかかりたいみたいよ」



「あははっ、あんたと電話する機会が減っちまうからな!」



「無理矢理、不摂生なんてしないかしら……ああ、心配だわ。時々様子を見に行った方がいいかしら……あぁ、ものすごく不安だわ」



「ははは、あんたの悩みがまた増えたな。長電話から解放される日は遠そうだな?」



「ほんとそうよ。嬉しいやら、余計に心配になるやら……」



「まぁ、とにかく、あんたが倒れたらしょうがないだろ。ほら、一旦休憩を取ったらどうだ? 」



「そうね、そうするわ……じゃ、お言葉に甘えて。」



「気にするな、どうぞごゆっくり」



「えぇ、それじゃ」

























































「妖精か……。"世界書記"では精霊の幼体だったな。まてよ、精霊といえばあの方しか使役が……。いや、まさかな、一般地区になんていらっしゃるわけがない、あり得んな。――さあて、仕事をするか。おっと――――はい、こちら、西南地区統括中央病院 お問い合わせ係です、どうされましたか?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ