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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

屍姫

作者: Halu
掲載日:2017/06/17

青羽根シナリオラボ企画参加作品


ロストと同じ世界観です。

「できた!できたわ!!お父様!できたわーーーーー!!!!!」


城の中を駆け抜けて、私はお父様のもとに走って行った。お父様は青白い顔をして、国の重鎮たちと会議をしている最中だった。


「ついに出来たか…よくやった。間に合ってよかった」


お父様はとても悩んでいるようで、私の薬を受け取ったあとも、頭を抱えて悩んでいた。


「王よ、ご英断を。氷の女王の軍勢は六千ほど、我が軍は既に兵の半数を失い四千強です。戦況も次第に悪化し、敵は城の前の平原まで迫ってきています。かのものの魔術で我が軍の兵士もあちらに加わりつつあります…姫の作った薬にかけるしか、この国の存亡は望めません。ご命令を」


重鎮の一人が、決断を迫る。お父様はさんざん悩んでから、こちらに視線を向けた。


「カリナよ、もう一度、この薬の効果を説明してくれ」


「わかったわ、お父様」


私は机を囲む重鎮達のほうを向いて、一回咳払いをしてから説明を始めた。


「この薬は、この国に伝わる秘伝の書物『死術書』を読み解いて作った薬です。『死術書』は、皆さんご存知のとおり、死霊術を記録した書物で、数百の死霊術が記されていますが、死者を冒涜するとして長らく封印されてきました。読むと狂気に堕ちるなんて話もありましたが、ただの噂でしたわ。で、この薬は、今最も重大な問題の兵力不足を解消するためのものです。効果は簡単、兵士の亡骸を屍兵として戦わせます。屍兵は既に死んだ存在ですので、残念ながら私たちからの命令は聞きませんが、生前敵対していた相手を攻撃します」


「待て、つまり、最前線へ行って誰かがこの薬を兵士の屍にかけねばならないのか?」


重鎮のひとりが口を開いた。それには及ばないと、私は答える。


「この薬は空気に溶け込み広がります。なので、この城の大砲から打ち出せばいいのです。大砲の弾の代わりに、この薬を詰めた筒を打ち出して前線の上空に届かせればいいのです。敵に押されている現状であれば、造作もないでしょう?」


「だが、生者には効果はないのだろうな…」


「そういうと思っていました。お父様、薬を少しくださいな」


私はお父様から薬を奪って、一息吸い込む。


「どうですか?効果はないでしょう?薬は空気中に数時間残りますが、それが終われば効果は切れます。効果さえ切れてしまえば、そのあとに死んでも屍兵にはなりませんわ」


王は頭を抱えて唸ってから、ようやく決断を下して立ち上がった。


「仕方あるまい…カリナ、この薬はどのくらい作ってある?」


「はい、私の研究室に大量にありますわ。大砲500発分くらいかしら?」


「よし、将軍。直ちに研究室から城壁の大砲まで運べ!準備が出来次第打ち出すのだ」


「ハッ!姫、研究室におじゃましますぞ」


「はい、付いてきてくださいな」


将軍と共に研究室に向かう。この人は防衛を担う第三軍の将軍で、私の小さい頃は世話係だったこともあり、この人の子供はいつも遊び相手だった。この人の兵隊には私の薬はあまり効果がなさそうだから、後で私が協力してあげなくちゃいけないけど、この人には優しくしてあげよう。それにしても、やっぱり状況が状況だからだろうか、嘘八百の説明も、すんなり受け入れてもらえたようだ。


城の地下の研究室へと案内して、袋に入った薬を兵士に持って行ってもらう。


「姫、あなたも変わってしまわれましたな…かつてのあなたなら、こんな非人道的な薬は作らなかったでしょうに…まぁ、このご時世では詮無きことでしょうが…」


「あら、あなたも変わったわ。だって、以前のあなたなら私にそんなこと言わなかった。ダメなことはダメ、良いことは良いって、きっちりいう人だったのに」


「そうですな、確かにそのとおりです。ですかこうなってしまった以上、かつての悪も今は善になるのです」


「そうね。将軍、武運を祈ってるわ」


「ハッ、有りがたきお言葉。それでは、行ってまいります」


将軍が出て行った。静寂が戻ったのを確認して、獲物の鎌を背負う。


「さて、私も行かなくっちゃ」


ポーチの中に種を入れて、腰につける。『死術書』の中の一つ、さっき渡した薬より強力な効果を発揮する花粉を飛ばす花をつける、植物の種だ。この種を国中に撒き、屍の国を作る。そして、それを収める。それが、私の目標だ。そういえば、いつの間にこんな目標を立てていたんだろう?少し不思議に思いながら、部屋を出る。城の中を見つからないように中庭まで移動して種を植える。


「姫様?そのような物騒なものを持って、何をなさっているのですか?」


「あら、参謀様。私も用心しておこうと思いまして」


「…であれば、なぜそのように種を植えておられるのです?」


「…植えてはいけないかしら?」


「いえ。ですが、それが『死術書』に関係するならば、お教え願いたい」


疑われている。直感でそう思った。さて、なんて答えよう?


「それは…できません」


「なぜてす?たとえあなたでも、今は非常事態。私が合図をすれば、衛兵がすぐに駆けつけます」


「あら、怖い怖い。でも、それには及びません」


そう言って、私は鎌に手をかける。そして一線、参謀の首を薙ぎ払った。


「だって、あなたはもう死んでしまうのですから」


参謀が崩れ落ちる。その亡骸からは赤い血が流れ、種を植えた地面を血で濡らしていく。血を吸うと赤い葉がつくと書いてあった。本当にそうなるか楽しみだ。


「さよなら。さて、急がなきゃ」


城壁の大砲が並ぶ区画へ行くと、将軍とその部下が大砲を打ち出したところだった。私はここへ来るまでに殺してきた兵士の血で濡れたまま、将軍の前に歩み出る。


「姫様!いかがなされましたか!?まさか場内に敵が?」


「いいえ、違うわ。私はあなたを迎えに来たの」


そう言って、将軍とその取り巻きのこめかみを鎌でえぐる。


「あなたは、私の側近にしてあげる」


「姫様!?何を!」


「あなたも死になさい。私の国の礎になるの」


「ごぁあ!」


鎌を斜めに振り下ろして命を奪い、おどる様にその場にいた兵士を殺し尽くして、薬を振りまく。その時、大砲を使うために開けられた城壁の穴から、前線の様子が垣間見えた。


「あら、効果覿面ね」


戦場は混乱していた。こちらの軍も、氷の女王の軍も、死兵に襲われて大混戦になっている。氷の女王は、凍死させた亡骸を操って軍隊にしている。そして、私の薬は亡骸を死兵に変える。王や参謀には死兵は生前の敵を襲うと言ったが、それを殺した後は、今度は生者へと牙を向く。当然だ。だって、彼らは寂しいのだ。少しでも仲間がほしいのだから。


「将軍、そろそろ起きてくださいな?」


薬をふりかけてしばらくして、将軍は起き上がった。両腕をだらりと下げて、死に際の表情のまま、私についてくる。


「行きましょ。この国をもらうわ」


将軍とその取り巻きは、私に従って歩きはじめた。目指すは王座、この国の中心だ。途中で出会う生き物をひたすら殺し、私は王座にたどり着く。


「カリナ、これは一体何事だ!なぜ国内で死兵が生まれている…将軍、お前まで…」


「私がやったのよ、お父様。この国も、お父様の命も、私がもらうわ」


「なんだと…なぜだ、なぜそんなことを」


「たって、したいんですもの。なんでかしらね?『死術書』を読んでから、そう思うようになったの」


「……『死術書』の噂は本当だったか」


「ふふ、そうかもね」


「カリナよ、貴様は我が一族の穢れた…覚悟せよ」


お父様が剣を抜く。私も鎌を構えて、間合いを計る。


「はあああっ!」


お父様が私の左半身を狙って切りかかってくる。私は鎌を回転させて柄のところで剣を受け、そのままの回転運動でお父様の首をはねた。


「残念でしたね、お父様。私、その程度ではありませんよ」


お父様の首なしの亡骸にも薬をかけて、死兵にする。


「お父様、この国を死兵の国にするの。今すぐ、民を殺してきてちょうだい。将軍、あなたもお願いね」


お父様は剣を引きずって、部屋を出た。将軍も後に続いて部屋を出る。私は王座に座って、薄い笑いをうかべた。


「さあ、私の国の始まりよ」



ーーーーー



「親父、酒頼む」


若者が、ある街の酒場に入ってきた。酒場の親父は酒を出して、若者に話をふる。


「兄さん、旅の人か?もしかして、封鎖地域に行くのかい?」


「ああ、そうだ。この国の。王様に頼まれてな、封鎖地域の中の城にある、赤い葉っぱの木から葉っぱを取って来いってさ。葉っぱなんてなんに使うのかね」


「そうか、気をつけろよ。俺は何度も同じ任務のやつを見送ってきたが、あそこからはもうここ十年、帰ってきた奴がいないんだ」


「ま、マジか、そりゃあとんでもないのに首突っ込んじまったかな…」


「ああ、逃げるなら今のうちだ」


若者はその晩酒場の親父と語らい、次の日に旅だった。そして二度と、帰ることはなかった。


やがて封鎖地域は屍の国と名を変え、百年の後に幻の国として語られるようになった。今もその国を女王が収めていることを、もう、誰も知らない。


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