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ウタカタノヒカルさま  作者: 紗菜十七
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イチゴトレースナモンダイ

< 登校4日目 金曜日 >


この学園には野外グラウンドが3つと

ドーム型のグラウンドが2つあり

広い敷地内を生徒たちはカートを使って移動していた。

校舎横に常備されてあるカートに乗り込むと

画面に全てのグラウンド使用状況が映しだされた。


「レイが菖蒲グラウンドで、ドームの(たちばな)と桜は3Bと2Aか?

他のグラウンドもゴルフ場も使ってないみたいだし

…どこでトレーニングしてるんだろ?」


右近チームのメンバーは全員揃い

既にトレーニングを始めたと言う情報を桐壺が聞きつけた。

未だ召集がかからない左近チームに

焦りを感じた葵は、相手チームの偵察に乗り出したのである。


「あと考えられるのは室内ジムだけか…」


葵はカートをUターンさせ、再び校舎に向かって走らせた。

校庭にクラッシクな曲が響き渡り

2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。

葵はアクセルを全開に踏み込み道のりを急いだ。


偶然なのか必然なのか?

二階の窓越しに先程まで映っていた人影が

葵とタイミングを合わせるかの様にサッと消えていた。





葵がカートを所定の場所に停めていると

校舎の中から続々と生徒たちが出てきた。

セレブな生徒たちは30分休みを利用し

ブティックなどへ買い物に出かけるのである。


ようやく人が途切れ中へ入ろうとしたその時

葵の前に誰かが立ちふさがった。

左右に避けて通ろうとしたが、相手も同じ動きをする。

あまりのタイミングのよさに、疑い始めた葵は上目遣いで確認した。


「こんにちは、小猿ちゃん」


わざと道を塞ぎ、楽しんでいたのは朱雀弘徽であった。

弘徽は葵を見下ろし、いやらしく微笑している。

葵は血の気が引き足元がふらついた。


「…そこを…通してください」


葵の素っ気無い態度に弘徽は一瞬戸惑う。

だが再び余裕な表情を見せ、軽くため息をついた。


(ははーん、その態度は僕の気を引こうと

駆け引きしてるんだね?ふふ…面白いヒト)


弘徽の辞書では

〝自分を愛さない人はいない〟である。


「分かったよ。でも僕、面倒くさいのは嫌いなんだ。

つまらない男女の駆け引きは止めて

もっと自分の気持ちに素直になればいいよ」


葵は何を言っているのかさっぱり意味が分からず固まった。


「そうだ、今から僕の買い物に付き合ってくれる?」


そう言うと、弘徽は葵の耳元に手をかざし、声を吹きかけた。


「前の下着も可愛かったけど

もっと君に似合うセクシーな下着をプレゼントするよ」


「っ⁉」


その言葉を聞いた葵は一歩後ろへ大きく下がった。

一方、葵の出方を伺っていた弘徽は首を斜めに傾げる。


(アレ?まだ駆け引きを続けるの?)


なんとな~く疑問が生まれ出した時

葵の口から何やらモゴモゴと聞こえてきた。



「……い」


「なに?なんて言ったの?聞こえないよ、もっと大きな声で…」



「ど変態っ‼て言ったんです‼」



葵はそう叫ぶと、フンッとそっぽを向き行ってしまった。


「…ド・ヘ・ン・タ・イ?」


それを近くで聞いていた男子生徒たちはクスクス笑い

学園のトップアイドルには見られない光景に盛り上がった。


「あの朱雀がど変態だって~」

「確かに、普通ではないな?」

「きっと女子に何かイヤラシイことしたんじゃねーの?」


以前から弘徽の事を良く思わない

同レベルの金持ち連中は〝ひそひそ〟ではなく

あからさまに声を出し冷やかした。


その言葉の内容で葵が自分に対してドをつけた変態…

と言ったことがようやく分かる。

プライドの高い弘徽は自分に関心がない事と

みんなの前でさげすまれたことが許せず力いっぱい拳を握り締めた。


「この僕の好意を踏みにじったね?

こうなったら全力を尽くしてでも虜にしてみせる…葵」


弘徽の体中に熱いものが走り

生まれて初めて敗北を味わった記念すべき日となったのである。







夕食を終え風呂で疲れを落とした葵は

20畳程ある自分専用のクローゼットの中に入っていった。


薔薇の彫刻に金色の金具が施された白いチェストの引き出しを開けると

中には見るからに男慣れしているのではないかと思わせる

下着類がぎっしり詰められていた。


「やっぱりこれって普通じゃないんだ?

なんとなくおかしいとは思ってたけど…」


葵はハーッと息を吐く。

今まで舞衣が選ぶ下着の趣味など気にも留めなかったが

弘徽に言われた言葉が気になり急に意識し始めたのである。


「でも新しく買う余裕はないし」


迷った挙句、葵はその中でもまだ一番飾り気のない物を選び身につけた。

壁に設置された大きな鏡にスラリとした身体が映し出され

葵はそれを避けるようにクローゼットを出た。


豊かな胸はブラからこぼれ落ちそうになり

滑らかに括れた腰のラインがうっとりするほど美しい。

誰もが羨む完璧なプロポーションなのだが

葵の理想はあまりにもかけ離れていた。


とても贅沢な悩みなのだが、男性恐怖症にとって

そんな体形は余計なものだったのである。

今日は遅くまで桐壺とトーレーニングをしていたせいか

眠気が葵を包み込み、ベッドに入るや否や夢の中へと落ちていった。







< 休日 >


舞衣はニッコリ笑顔で可愛いリボンの付いた包み紙を葵に手渡した。

その包み紙を開けると

中にはイチゴとレース柄の2段重ねになったお弁当箱が入っていた。


「お弁当作っていたのバレてた?」


「んも~、葵ちゃんたら~ん!

それならそうとはっきり言ってよ~!」


(あれ…なんか嬉しそう?)


「で、お弁当の相手はどんな人?

同じクラスの子?それとも…年上⁉」


葵に好きな人が出来たのだと勘違いした舞衣は

マンガの様にキラキラ目を輝かせた。


「やっぱり。あのねぇ違うよママ

もう直ぐ学校で宴っていう大会があるんだけど

その代表にレイと一緒に出ることになったから

今トレーニングしてるんだ。

それでいちいち学レスまで行くの面倒だから、お弁当作ってるだけ」


舞衣に心配をかけたくなっかた葵は本当の理由を言わなかった。

楽しみにしていた予想が大きく外れた舞衣は

オーバー過ぎる程のリアクションで思いっきりがっかりする。


「なんだ、そうだったの…」


「ちょっと待って!行き始めてまだ一週間だよ?

そんな直ぐに好きな人なんて出来ないよ」


だが葵の心にふと将院の顔が過ぎった。


(いやいやそれは違う!

優しくされたから将院先輩はいい人カテゴリに入ってるだけ!

それにしてもママ、来週お見合いするっていうのに

いま好きな人が出きたら困るのパパじゃない?)


溜息と同時に笑いがこみ上げてくる。

そして葵はしょんぼりしている舞衣の隣に座った。


「でもまぁ~、いつかそんな時が私にも来るかもしれないし?

そのうち料理の作り方、教えてね!」


するとその一言で舞衣の顔がパッと明るくなった。


「本当に?」


「うん、ホントホント」


「え~葵ちゃんが料理だなんて夢みたいっ‼」


「そんな大げさな…」


「それじゃあ月曜日から、お弁当一緒に作りましょ♪」


「はい、お願いします♪」


舞衣はとても嬉しそうにテーブルの皿を片付け

もう直ぐ現われるかもしれない葵の相手を想像した。


一方、経費削減の為の弁当がバレなくて

ホッとした葵だったが

舞衣の顔を見ると居たたまれなくなり

いつから男が苦手になったのか?を疑問に思い始めるのであった。



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