トキハフタタビオトズレタ
靄がかった映像が瞼のうらがわで繰り返し流れていた…
…………… ……ま ………さま ………………
見たことある?…ってゆーかまた見た?
今日はしっかり覚えておこう…
朝になったら思い出そう……
頭の中で小さく何度も呟きながら
もう一度浅い眠りから深い眠りへとすい込まれていった
綺麗なうすいグリーン色した分厚いカーテンの隙間から
月と太陽が入れ代わろうとするのがぼんやりと見えていた…
< 登校初日 >
『…時が流れようとしても♪…ずっと…君を忘れはし~ない~』
「よっ!と」〝ピッ!〟
ヨーロピアンな花柄模様の
ふわふわしたクィーンサイズのベッドの中から
スーッと透き通る様な白い指先が伸びてきた。
まさかいま流行のアイドルの曲とは結びつき様もない
GールドでG―ジャスな目覚まし時計?的なモノに触れ
眠気まじりな声と共に軽快な音楽がとまった。
いつもならベッドの下にきちんと揃えられた
ブリティッシュ産の品の良いテディベアーのスリッパに
スラリとした足をいれ、眠い目を擦りながら
薔薇とゴールドで統一された洗面台へと向かうのだが
この日はどういう訳か
毎日繰り返されるパターンの様にはいかなかった。
「あぁ…やだ…ベッドから出たくない…」
葵はぶつぶつ呪文のように唱えながら
またモトの場所へと潜っていった。
…と言うのも1ヶ月ほど前のことである。
葵は教室の窓に肘をつき、肌で感じる心地よい暖かさと
頬を撫でてく優しい風に心を癒されていた。
『はぁぁぁ、すぐそこに春が来てるねぇ~…もうすぐ卒業かぁ』
あともう少しこの気分をあじわっていたかったのだが
ドタバタと凄い勢いで走って来る足音に遮られた。
親友のレイこと桐壺麗華である。
『あおい~っ‼』
はぁ~はぁ~っと、肩を上下させ息をしている。
全力で走って来たのが一目で解かった。
『急にどうしたの?そんな思いっきり走って?れ・い・か・ちゃん♪』
『その言い方やめろっつってんだろ!』
クールな桐壺には滅多にお目にかかれない走りっぷりに
思わずからかってみたくなった葵は、わざと親友の嫌がる名前で呼んでみた。
『ハハッ、ごめん。でも綺麗な名前だよ?麗華って』
キラーンと光った桐壺の鋭い目に殺気を感じた葵は
それ以上つっこむのは止めにした。
桐壺麗華は正真正銘の女の子なのだが
そこいらの男よりはかなりのイケメンというルックスの上
中身も男そのものだったのである。
『で、何?その慌てぶりは?』
『ったく~、葵にも関係あるから急いで来たんだよ』
『へぇ、私にもあるんだ?』
『いいかぁ、驚くなよ』
『うん、わかった』
桐壺は葵のノホホーン態度にため息をついたが、すぐに話を続けた。
『さっき里散花に会って聞いたんだけど』
つい一週間ほど前、桐壺に告白した2年の女子だ。
『俺たちあと少しで卒業して、それでこのまま高等部にあがるだろ?』
『うん、うちの学校はエスカレーターだもんね』
世間一般で言うセレブが通う学校である。
『それがそのままあがるだけじゃねーんだよ!』
『え?どう言うこと』
『今年の4月から兄妹高だった男子高と、合併することになったんだ!』
『へぇ?……えええっ!うそぉーっっっ!!!』
葵は軽い目眩を起こし、気が付くと床にしゃがみ込んでいた。
桐壷の呼ぶ声が遠くに聞こえる…
夢であって欲しい!
葵は現実から逃避するように堅く目を閉じるのであった。
そして今日がその記念すべき共学になる第1日目である。
正確には入学式の次の日なのだが……
体調が悪いと嘘をつき、初日早々ズル休みをしたのだ。
昨日の桐壺から送られてきた
『絶対に来いっ!』
のメールを思い出し
言う事を聞かない身体をなんとか動かした。
「はぁーっ…朝から何回ため息ついてんだろ?」
葵は鏡の前に座るとボサボサの長い髪をブラシで梳かし
何の飾り気もない黒ゴムで後ろに束ねた。
鬱陶しく伸びた前髪は目をスッポリ覆い隠し
リップクリームひとつさえ塗らない
化粧などもってのほか
どう頑張っても今どきの女子高生には見えない
良くない意味での貴重な存在だった。
やっとのことで制服に手を通し部屋の外へ出ると
緩やかにカーブした階段をゆっくり降り始めた。
天井からは太陽の光りが差し込み広々としたリビングは
眩しいほど輝いている。
そしていつもの様に一階から明るい笑い声が聞こえてきた。
(人生最悪、非常事態って日に…楽しそうに笑ってる?)
葵はどんよりとした表情で食卓に着くと、母親の舞衣が
カールした髪をルンルン揺らしながら
ニッコリ笑顔で朝食をテーブルに置いた。
「おはよっ!葵ちゃん」
「おはよ…」
葵は無気力な返事で返す。
(ママっていつも幸せそう。性格が良くて顔も可愛くて悩みなんて一つもない…)
なんてボ~ッと見ていると舞衣の視線と繋がった。
「あら?今日も顔色が悪いわよ?本当に大丈夫なの?」
すると先に食事を取っていた二つ下の妹の朝露が口を挟む。
「だってぇ、今日から共学だもんね~、お姉ちゃん!」
「へっ⁈」(なに?まさか知ってるの⁈)
葵は精一杯〝やめろ!〟と、微かに首を横に振り合図を送る。
「えぇ~どうして顔色が悪いのと共学が関係あるの?変なこと言うわねぇ…」
そして舞衣は天井を見上げ両手を胸のまえで組んだ。
「ママなんてねぇ、ず~っと女子校だったから、共学になるの憧れていたのよ~!
いいな、いいなぁ~葵ちゃん!」
「どっこがいーのよっ⁇男と一緒だなんて吐きが気する…」
(ハッ!)
ついカッとなった葵は思わず本音をぽろり。
(まっ、まずい!どーしよう⁈)
舞衣は予想外の言葉にびっくりした様子で…。
するとまた朝露がイタズラな目で葵を見た。
「あっれぇ!ママ知らなかったの~?お姉ちゃんねぇ…」
「あっ、朝露!ちょっと」
口を塞ごうと手を伸ばしたが間に合わず…
「お・と・こ・嫌いなんだよっ!」
朝露はあり得ないという風に肩を竦めて見せた。
(あぁぁぁぁ~!言っちゃった…)
「もう行かなきゃっ、ごちそうさまーっ行ってきま~す!」
鞄を鷲づかみすると、朝露は逃げる様に走り去る。
(最悪だ…)
葵が恐る恐る舞衣の表情を見ようとした時
タッタッタッと近づいて来る足音と共に両腕をガシッと捕まれた。
(そりゃショックだよね…)
とりあえず何か弁解をしないと…と、葵の口が重く開いた。
「それがその…」
しかし予想とは大きく違い、舞衣の目はキラキラ輝いている?
「やっだーっ!ステキ♡♡ロマンティックじゃないっ!」
舞衣の妄想は膨らみ、心は遥か遠い別世界へ飛んでいた。
葵はすっかり忘れていた。
舞衣はこの年になっても異常なほど夢見る少女だった事を…。
「それはね、いつか葵ちゃんの前にステキな王子さまが現れてぇ~
甘いキスをするの…そして、真実の愛に目覚めるのよ~ん!
なんてディスティニーなの!」
(それは〝Destiny〟じゃなく〝Disney〟の世界でしょ?)
葵はシラ~っとした目つきで舞衣を見る。
しかし超ドラマティック好きな母親であった為
気持が楽になったのも事実だ。
ホッとした葵は、本音を少しだけ話せる気分になった。
「あのねママ、自分でもはっきり分からないんだけど……
女の子を好きとかってゆーのではなくて」
(…レイみたいに)
「ただ男の人が苦手ってゆーか、近寄りたくないってゆーか…」
「んーんーっ分かるわ!きっとこれは運命なのよ
呪いの魔法見たいなモノで、時が来たら必ず解けるわ」
(呪いの魔法って、マジな顔で言えるママもちょっと怖い?)
「そーねぇ、葵ちゃんは15歳でしょ?
そろそろ解ける頃じゃないかしらっ?
きっと共学になったのも何か深い意味があるのよっ!」
舞衣は葵の手を取ると自分の手を重ね、
うっとりした顔で深くため息をつく。
…だがしばらくして何かを思い出したらしく
舞衣の顔色が急に青ざめた。
「あああっ!大事なこと忘れてたっ!」
いつもおっとりさんの舞衣が珍しく動揺したため
葵もただ事ではないと察知する。
「ど、どうしたの?大事なことってなに?」
「すぐに葵ちゃんの男嫌いをパパに知らせなくっちゃっ!」
「えっ‼なんでパパに知らせなくちゃいけないのっ⁈
黙っててくれてもいいじゃない⁉」
舞衣はモジモジしながら上目遣いで葵を見る
「ごめんっ、それがね…パパに頼まれていた事をすっかり忘れてたの」
「…なにを頼まれたの?」
「それがそのぉ…えぇぇっと実はね、葵ちゃんね…来週……
お見合いする事になっていたの!」
「おっ、お見合いーーーっ⁈」
私の頭の中で教会のベルの音がゴ~ンゴ~ン…?と言うよりも
お寺の鐘にしか聞こえない音が何回も何回も鳴り響いた。
チ~ン、ご愁傷さま…この世の終わりが近づいている。
そう疑わずにはいられなかった。
新しく通う学校は、葵の家から歩いて500メートル程という
近い距離にあり、きれいな桜並木を通り抜けた所にあった.
葵は上を見ながらトボトボと歩いていたのだが
桜の美しさなど一つも視界に入っていない。
「いつもあんなに明るく振舞っていたのに…
私ちっとも気づいてあげられなかった。ごめんね、ママ」
葵は今朝、舞衣が話してくれたことの重大さを思いだした…
『心配するといけないと思って、ずっと隠していたんだけど…
パパの会社ずっと前から危ないのよ』
葵は考えてもみなかった言葉に動揺した。
『それってまさか、倒産ってこと?』
舞衣は小さく頷いた。
『それでね、融資を受けられるかもしれないって会社が出てきたんだけど
その条件が親戚関係を結ぶこと。
つまりね、あちらのご子息さんとの婚約が条件だったの』
『そっそんな勝手なっ!それにまだ私十五歳だよ?』
『パパもそんな風に言ったらしいんだけど
あちらの方がおっしゃるには,十六歳の誕生日に婚姻届けさえ出せば
一緒に暮らすのは高校を卒業した後でも構わないって…』
『じゃあ会社の為に私が犠牲になるってこと?
そんなの今どき聞いたことないよ⁈ひどいよパパ』
葵の思いつめた顔を見ると、舞衣の目に涙があふれ出した。
『ごめんなさい、葵ちゃん』
(いつもニコニコ笑っている印象しかなかったのに?)
舞衣の泣いた姿など滅多に見た事が無かった葵は、それ以上責めるのをやめにした。
『ママ…』
葵はテーブルの上に置いてあったティッシュを手渡した。
『でもね…パパもね、必死だったのよ…代々続いた会社だし…
それに会社で働いている沢山の人々を
路頭に迷わす事になっちゃうでしょ…
パパも悩んだ末、最後の頼みの綱だったんじゃないかな…
もしも葵ちゃんが気に入ればそれはそれでいい
気に入らなければすぐに断って、会社は自分の代で終わらせるっ!て言っていたのよ』
葵に緊張が走った。
(それって私の返事一つにかかってるってこと?こんな男性恐怖症つかまえて?)
更に青ざめた葵の表情を見て舞衣は急いで涙を拭った。
『そっそんな真剣に考えなくていーのよ!
お見合いの日程だけ決まっているから行かなくちゃいけないけど
美味しい物食べて適当にお話して断っちゃえばい~んだから!ねっ葵ちゃん!』
(断る=倒産なのに、大問題じゃないっ⁉)
『パパもママもね、葵ちゃんの幸せの方がとっても大事なの
だから会社の事は一つも気にしなくていいのよ
お見合いは形だけ。さぁ、学校遅れちゃうわよ!行ってらっしゃい!』
そして舞衣はすっきりした顔で葵を送り出した。
葵の姿が見えなくなるまで…。
「あぁぁぁ~人生もうおしまいだ…。
共学にお見合い、そしてパパの会社が倒産ときた。
人生には波があるって言うけど、まさに今から落ちま~すって時なのかな?
でも15歳の少女にはまだ早すぎるんじゃない?」
などとぶつくさ言っているうちに、とうとう合併となった男子校に着いてしまった。
表向きは違っていたが、そもそも共学になった理由は
少子化や景気不況でセレブ高への入学が激減してしまったことらしい
その後は男子校に統一され女子高の広大な土地は売却となった。
「んもぉ~、何でもやる事が派手過ぎるからダメなんだよ!」
葵は通りを挟んだ反対側から学園を見渡した。
女子高の数倍はある広い敷地。そして宮殿の様な門構えの隙間から
噴水がメロディと共に優雅にリズムを刻むのが見えた。
中央にはエレガントにカーブを描く近代的超高層ビルが建ち
それを囲うよ様な形で両側にも同じ建物が建っていた。
門の前にはズラリと高級車が並び、次々と降りては門の中へと入って行く。
どうもタイミングが悪いのか?辺りを見回すと男子生徒ばかりで
女子の姿が一人も見当たらなかった。
「何でこうなるの…」
覚悟を決め行こうかどうしようか迷っていると……
背後からポンっと肩を叩かれた。
思わず葵は条件反射的に振り返りざま相手の手を捻り上げる。
「いてててててぇ!」
そこにはいつもの見慣れた顔があった。
「レイ⁈よかった~っ」
「よかったじゃねぇよっ、いてぇじゃねーか!」
何の手入れもされていない長い黒髪に雪のような白い肌。
そしてオシャレ気が一つも感じられないファッションスタイルからは
どう転んでもいじめられキャラが想像されるのだが…
それとは全くの正反対。
幼い頃から活発で、わんぱく極まりない少女であった。
「あははっ、ごめん痛かった?」
「慣れてるから大丈夫だよ」
桐壺はふて腐れながら、捻られた手首を摩る。
「それより昨日こないから心配したんだぜ~」
「あぁ、ちょっと調子わるくって」
と言うと、桐壺と目が合い直ぐに謝った。
「ごめん、ズル休みでした」
長い付き合いの桐壺に嘘は通じない。
「んっ!でもよく頑張って来たなっ!
まぁ一緒のクラスになれたし
担任も女だし、そんなに心配する事はね~よ」
「昨日、メールありがと!それ見てちょっと安心した」
「そっかぁ、送っといて良かったぜ!じゃ行くか」
「うん!」
葵は自分に気合いを入れるかのように深く頷いた。
二人がアンティークゴールド色した背の高い門を通り抜けると
何やらザワザワ騒がしい声が聞こえてきた。
かなりの数の女子たちが門の内側で列を成し、何かを待ち構えている様だ。
それを横目で見ながら葵は桐壺に話しかける。
「何マチこれ?この学校にジャミーズでもいるの?」
「それがよー…」
と桐壺が言いかけたその時
「キャーッキャーッ‼」
と周りが叫び始めた。
「ヒカルさま~!」
「コーキさま~!」
「ショウさま~!」
どうやら…ヒカル、コーキ、ショウ、さま待ちの様だ。
葵と桐壺は立ち止まり、女子の視線を追ってみる。
すると門から三人のメンズが入って来た。
みんなスラリと背が高く180cmは超えている。
しかもコレクションに出て来そうなほどトップモデル張りの
シャープで端正な顔立ちだ。
特に先頭を歩く男子は一際目立ち
遠目からでも何らかのオーラを放っているのが分かった。
「昨日同じクラスになった女子から聞いた話なんだけど
あの三人が学園のTOPアイドルなんだって」
三人が人気者だという事は、なんとな~く分かる様な気がする葵であったが
何しろ男性恐怖症なもので男を見る目が全く無かった。
「へぇ、学園のトップアイドルなんだ。
頭がいいのかそれとも運動神経が抜群とか?
……見た目は他の男と変わらないよね?」
別に悪気は無いのだが、つい口からサラッと本音が出てしまい…
まさか聞こえるはずのないこの距離で
なぜか偶然にも先頭を歩く源ヒカルの足はピタリと止まった。
そしてゆっくり冷たい視線が葵たちに向けられる。
「う、うそっ!なんかこっち見てない?」
「はぁ?こんなに離れてんのに聞こえる訳ねーよ」
「でも、顔の向きからして…この辺りのようなっ⁉」
「初日から変な風に考え過ぎだって」
だが案外冗談でもないらしい。ヒカルは依然ピクリとも動かない。
葵の身体はカチンコチンに固まり、さすがに桐壺も疑い始めた。
「うっそだろ、こっち見てる⁈葵っ、とりあえずあやまっとけ!」
「えっ⁉なんで謝んの?」
すると、前に立っていた女子たちの歓声が、より一層大きくなった。
「やだっ!ヒカルさまが私を見ているわ!」
「何をおっしゃるの?私を見たのよ」
「バっカじゃない?ヒカルさまがどーしてあんたみたいな
気取ったブスを相手にすんのよっ!」
「なっなんですって⁈」
ファンクラブの各リーダーたちが、自分だけを見ていると思い込み
とうとう言い争いの喧嘩が始まった。
この光景を目にした葵と桐壺はホッと肩を撫で下ろす。
「なんだ?葵じゃなくて、取り巻きの誰かを見てたのか?」
「よかった、てっきり睨まれてるのかと思った~」
「俺も一瞬そう思ったけど、やっぱありえねーよ…
それにしてもいい男だな。あいつが一番人気のヒカルかぁ?」
「……ふ~ん」
無表情な葵を見て無駄話しだったと桐壺は気づく。
そして段々膨れ上がっていく人だかりから
逃れるように二人は足早に立ち去った。
源ヒカルは、喧嘩になった女子などお構いなしで、
美しく冷たい視線を再び校舎に戻し歩き始めた。
「ヒカル、どうしてさっき止まったの?まさか気になる女の子でもいたとか?」
アクセサリー的なメガネを掛け制服にも自分のこだわりを入れた
中性的な魅力を持つ綺麗系男子、朱雀弘徽がヒカルに声をかけた。
「いや…別に何でもない」
表情一つ変わらないヒカルを見て、少し日に焼けた爽やかなハーフ系男子
頭之中将院がニッコリ微笑み
口元から真っ白な歯をキラーンと光らせた。
「気になる子がいたなら行ってこいよ。俺が女なら、迷わずヒカルに落ちるね」
「フッ、よく言うよ…知っている子かと思ったけど違ってた」
「そうだよね。あの中に僕達とつり合う女の子はいないよ」
女性のように白く綺麗な肌を持つ弘徽は美意識が高く
言葉を和らげることなどしない。
「そうかな?ちゃんと相手と向き合わないと、人の魅力なんて分からないものだよ」
髪と同じハニーブラウン色した瞳が優しく微笑んだ。
「綺麗ごと言ってもダメだよショウ。魅力がある人は
ちゃんとオーラや威圧感となって自然と外側にも出てくるものだから。
探さないといけないような魅力はゼロに等しいね。
ねぇ、ヒカルもそう思うでしょ?」
弘徽の問いかけにヒカルはただ無言で口元だけを微かに緩めた。
そして何事も無かったかのように、三人は校舎へと入っていった。