目覚め3
彼女に手伝ってもらいながら、青色の衣装に着替える。襟に白い小花の刺繍が入っている上品な品だ。
「大きさは問題なさそうですね」
「ありがとうございます。衣類を貸していただいて」
私が着ていた夜会用のドレスはとてもじゃないけど普段使いはできない。と言うかこの衣服も生地を見る限りかなり上等な気がする。
「でもこれ、かなり高級品なんじゃありませんか?」
「いいんですよ。このお屋敷でその服着る方はいませんし、着ていただいて有難いくらいです」
「それに」と言いながら彼女は手際よくお茶を淹れると敷物にすわっていた私に手渡した。
「女性のお客様なんて初めてですから、ちゃんとおもてなししたいですからね」
緑色の不思議なお茶を眺めながら聞き流しかけて動きを止める。
「…お客様?」
「はい」
「………」
「どうかしましたか?」
私の記憶が正しければあれは招待と言うよりも拉致とか誘拐と言うのではないだろうか。
「私の事はどう聞いていますか?」
「『ここに暫く置く』って聞いていますけど…」
そう言いかけて彼女は顔色を悪くしながらこちらを見る。
「もしかして、違います?」
彼女の反応を見ながら言おうか考える。
事情をよく分かってない様だし、正直に話したら脱出に協力してくれるかしら。
少し考えてから彼女に協力を頼むことにする。
「私、誘拐されたんです…」
なるべく同情を誘うように事情を説明する。自分の容姿が整っていたことに有難いと思ったのは初めてだ。
「…なので出来ればここを出て早く帰りたいのですが…ってあの?」
話が進むにつれてこめかみに青筋を浮かび上がらせた彼女はふらりと立ち上がった。
「少し、出掛けてきますね」
「あの、落ち着いてください?」
「大丈夫です」
そう言うと彼女は部屋を出ていった。部屋には私とさっきから隅に座っていた虎が残された。
虎は私を見ながらそわそわしている。
「飛び掛からないなら、此方に来てもいいよ?」
彼女がいつ戻るかわからない以上魔法を使うわけにもいかない。余計な警戒をされるよりもか弱い女性のイメージで行った方がいい気がする。
となるとやることがなく、それならと虎に声を掛けた。
虎はビクッと身じろぎすると、ゆっくりとこちらに近づいてきた。そして私の前に腹這いになると顎を私の膝に乗せてきた。