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決別

それは我が家も例外ではなく建国以来代々治めてきた北の領土の東側、東の領土との領境の一地域を6年前に振興貴族に奪われてしまった。


お父様が今だ北の領土を護る騎士団の将軍『水将軍』の名を賜っているお陰で侯爵位と領土として我が家の膝元のレーゲンの町は辛うじて護れたけれど、奪われた領地に住む民達は突然跳ね上がった税に今も苦しんでいるらしい。


『ティアル!』


さっさと帰ろうと回廊を足早に進んでいると後ろから声がかかった。

振り向くとドレスを揺らしながら親友達が走って来ていた。


「アナスタシア、スピカ」

「やっと追い付いた。あんた速いんだもの」

「私たちに挨拶も無しに帰るつもりだったのかしら?」


私に追い付くと2人とも腰にてを当て怒った風にする。


私よりも少し背が低め。少しつり上がった緑がかった蒼い目に流行にあわせて癖のある赤毛を小さくまとめ、ワインレッドのドレスを身に付けているのはアナスタシア・コードベル。

一方、私よりも背が高く、碧眼にサイドアップに結った輝く金髪。ふんわりとしたピンクのドレスなのがスピカ・セイレーン。


アナスタシアの家は代々ドレス職人で先代の時に爵位を授かった男爵家。


スピカの家は私と同じ古参の貴族だけれど、時流に上手く乗り海運業で名を上げた男爵家。


中等部で同じクラスになったこの2人。最初こそ戸惑っていたけれど、2人とも私を『没落貴族の娘』という色眼鏡で見ないうえに『侯爵と男爵』という開いている身分の差にも関わらず普通に接してくれる大切な存在だ。


「2人とも私とあまり関わると面倒事が増えるわ」

「いやねぇティアル、私達(わたくしたち)がたかがその程度のことで引き下がるとお思い?」


私の忠告にスピカが扇で口元を隠しながら表面上上品に笑う。


「それに私達(わたしたち)、元々ティアルが心配で来たようなもんだし」

「そう言えば2人ともこういう夜会はあまり好きじゃないのに…」

「スピカの情報網と私のお客様情報でね、ティアルにあまり不都合な話を聞いてさ、ちょうど私もスピカも招待状貰ってたし」

「時と場合とついでに相手のコンディションによっては私達で会場をメチャクチャにしてやろうと思っていましたの」


スピカの言葉にぎょっとする。この友人は表面上いつもふわふわおっとりを基本にしているけれどその調子のままとんでもないことをしでかしてくれるから油断できない。


「そういう事態にならなくてホント良かったわ。私じゃこいつ抑えられない」

「失礼ねアーニャ。ただ貴族風に相手の息の根を止めて差し上げようと思っていたただけよ」

「それが怖いの!」


2人の掛け合いに自然と顔が緩んでしまう。学校を自主退学してだからもう1年も前のことだ。


「でも、今回ばかりはスピカが正しかったのかも」

「え?」


表情を曇らせるアナスタシアにスピカも不安そうに私を見つめる。


「フェザーフロスト家は子爵位の振興貴族だけれど、没落した古参の貴族をいくつも吸収して、今やアクエリス家も無視できない程の発言力を持っていますわ」

「私達の家は男爵だからティアルに何かあったとき助けられないもの」


2人の家は貴族でもかなり裕福な部類に入るが(実際、2人にはそれぞれの家の事業関連で目立たない範囲でかなりの援助をしてもらった)、発言力としては貴族社会ではどうしても差がついてしまう。


「それが良いわ」

「ティアル!?」

「2人にはとても良くしてもらったもの。これ以上望んだら罰が当たるわ」

「そんなことありませんわ!困っているときに助け合うのが友達でしょう?」


詰め寄る2人に笑い掛ける。無理に笑顔を作ったため口元がひきつった気がしたけれど気にしない。


「2人が私なんかを大事に思ってくれているのと同じくらい、私も2人が大事なの。私のせいで2人が傷付いて欲しくない」


背筋を伸ばして2人を見据える。さぁ、最期の言葉を。


「2人が大切だから、私のことはほおっておいて下さい」

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