ちぐはぐのピース
小雨になりながらもまだ雨が降り続ける中庭に面した渡り廊下に私と彼は移動していた。
が、そこに移動してから急に彼は急に止まり何やら不審な動きをし出した。
(連れ出すから何をされるのだろうと身構えたけど、この人何をしているのかしら)
頭を上にあげたり下に下げたり。真後ろに立っているため表情まではわからない。
(そういえば、ちゃんと顔を合わせたのはこれで2回目だわ。)
こちらに話しかけてこない彼を観察しているとふと疑問がわいてくる。
「あの」
「な、なんだ!?」
いきなり声をかけたせいか、いささか驚いた声を上げ振り向いた彼に私は尋ねた。
「さっき、皆様が言っていた『若様』って誰のことですか?』
「さっき?ああ、あいつらが言っていたことか?『若様』ってのは俺のことだ」
「・・・本当ですか?」
「なんでそこで聞き返すんだよ。ここの『猛虎族』の次期頭領、『若頭』の立場にあるのは俺だな」
予測道理、みんなが言っていた『若様』と『彼』は同一人物だった。
(でもそれだと、彼が言っていることと皆さんが言っていることがかみ合っていない気がする。)
誘拐されたという事実は変わらないし今だって軟禁状態。なのに里の女性たちは彼を『裏表のない真っ直ぐな性格』と言った。
自分の領民だから悪い印象を与えるわけはないだろうけど、それを差っ引いても、彼の行動に引っかかるところが多いような気がする。
(そもそも誘拐した相手に対する待遇ではないわよね?ああもう、考え出したらきりがないわ)
「おい」
考え事をしていたら声をかけられた。
「何か?」
「随分とあいつらと仲が良くなったんだな」
「春花さん達の事ですか?皆様私に良く接して下さっておりますので」
「そりゃあ良いことだ。あんたは大事な人質だからな」
「・・・その人質はいつになったら解放するのですか?」
「まだ駄目だ。まぁ、いつまでも捕まえたまんまにするつもりはねぇからそこんとこは安心しとけ」
そう言い悪役らしい笑顔をむける。
「・・・あなた、」
「若!」
私が喋ろうとした時、中庭から兵士が走ってきた。
「どうした!」
「里の下の一帯が襲われた!熊の奴等だ!」
「よし!」
そう言うと彼は手すりから飛び降りた。
「あんたは部屋に戻っていろ!お前は詰所に行って応援連れてこい!」
「ああ!」
「え、ちょっ」
私が口を挟む間もなく彼は中庭を全力でかけていった。