国のためだと
あの後ハートたちは何もすることなく過ごし、今は草木も眠る丑三つ時に……
「……」
ハートは城の中を歩き回っていた。何故寝ていないのか。(ちなみにボニーは寝ている)
その理由は声を聞いたからである。微かに、か細い声で「助けて……」と聞こえた。
さらにそれがハートの耳がおかしくなければその声はジェリアンのものだ……
だから何が起きているのか確認するためこうして真夜中の城の中を歩いているのだ。
「ううーーっ……やっぱり怖いなぁ」
しーんとしていて人の気配ないのだ。怖いに決まっている。
「でも調べなきゃいけない! 何で声が聞こえたのかの原因を……なんだけど?」
あれ?私どっちから来たんだっけ?
どうやらちょっと考えてたら周りが暗すぎて方向感覚を失ってしまったらしい……なんて落ち着いて確認してる場合じゃない!こんな暗い中に一人でいるなんて嫌だ!だって幽霊とか出てきそうだもん。
「と、とにかく進んでみよう」
後退しているのかそれとも前に進んでいるのか分からないがとにかく進んでみる。
ボニーに言ったら笑われそうだなぁ……ちょっと考えている間に方向感覚を失っただなんて。
「幽霊出てくるなよ……絶対に」
フラグではない。今は刀、銃を持っていない……つまり丸腰ということだ。
真夜中に武器持って城の中を外の人間がうろつくなんて怪しすぎるからだ。そして丸腰であれば
「トイレに行きたくなったんですけどどこかわからなくて~」とか適当に誤魔化せるからだ。
「完全に迷ってるよ……」
もうここが城の中の何処なのかすらも分からなくなっていた。
「どうしようかなぁ……ん?」
ハートは一つの扉を見つけた。もちろんこの扉以外にもあったのだがこの扉からは明かりが漏れている。扉が若干開いてそのスキマから漏れているらしい。
「…………!」
「……! ……」
中から話し声も聞こえてくる……ハートは扉に近づくと耳を当て話の内容を聞こうとしハートが扉越しに耳を当てた瞬間だった。
バチン!!!
何かを叩いたような音が聞こえた。これは叩かれたときの音かな?
「何で外に出たのですか!」
聞き覚えのない声だ。使用人がこんなことできるはずないし、さしずめ母親ってところだな。
「だってここにいても勉強ばっかり! 私も遊びたいの」
「ジェリアン! 貴方はこの国の王の一人娘なのです。その自覚をもっと持ちなさい!」
「嫌っ」
「この子はっ!」
そういうとまたバチン!と音がした。
「音が出るほど強く叩いてるのか……」
これが母親のすることか?まぁ、王の一人娘だからな。教育にあせるのも無理ないか……
「まったく言うことを聞かないんだからこの子は……」
「うう……でも」
叩かれた場所を押さえながらジェリアンは反抗しようとするが無視されてしまったあげく、
「今日の事を言いに来たのもあるけど……それより大事な明日のことを話すわよ」
「大事な?」
「そうよ、ジェリアン。貴方はジャラールという大国の王子と結婚することになったわ」
「ど、どういうことなの!?」
自分に知らされていないことにも驚きだが、勝手にそんな話が出ていたなんて……
「ジャラールの王子が貴方を気に入って求婚を申し出てきてくださったのよ。良かったわね。益々お金に困ることはなくなって、国も発展するのだから」
「そんなの嫌!」
「相手は大国ジャラールよ。断ることはできないわ。もう決まったことなの」
「そ、そんな」
断ることもできないことに落胆してしまう。
「分かったわね?」
「…………」
「分かったわね!!!」
「は、はい……」
「じゃあもう寝なさい」
コツコツ……
足音がこちらに向かってくる。
やばい。こっち来る!
ハートは素早く近くにあった扉を開け部屋に入り、隠れた。
ガチャ……
母親らしき人物は扉を開けた。
「……」
コツコツ……
足音がだんだん遠ざかっていった。
「良かった。見つからなかったようだ」
ハートは扉をほんの少し開け、いないことを確認すると扉を開け部屋から出た。
「ううっ……」
ジェリアンがすすり泣く声が聞こえてくるがハートは慰めようとはしなかった。
そんなことしても何も解決しないからだ。ジェリアンが本当に泣くのをやめるのは
国のことから縛られなくなったときだ。
「さぁーーてどうしようかね」
何を考えているのか……それはハートにしかわからない。
「でも、ジェリアンのことを考えるよりまず……」
部屋が何処にあるか考えなきゃな。ハートは再び歩き出した。自室を探すために……